法務大臣 森山真弓 殿 2001年7月18日
意見書
人権擁護推進審議会の2001年5月25日付答申「人権救済制度の在り方について」に対し、以下のとおり意見を述べますので、今後の制度作りに活かしていただきたくお願い申し上げます。 第1、人権救済機関の独立性 【意見の要旨】 人権救済機関は、その事務局も含め、政府から独立性を有する組織として、整備されるべきであり、事務局長などに民間人を登用すべきである。 【意見】 1、 最終答申は、人権救済機関の権限・役割などに照らして、これまでの内部部局型の組織の充実・強化による対応には限界があり、政府から独立性を有し中立公正さが制度的に担保された組織とする必要があるとするとともに、合議制の機関が相当であり、独立性のある委員会組織とすべきである旨明言している。 人権救済機関の政府からの独立性は、その性質上極めて重要であり、当協会は、人権救済機関が、かかる答申通り、政府から独立した委員会組織として整備されることを切望するものである。 2、 最終答申は、事務局に関して、現在これらを主要な所掌事務としている法務省人権擁護局の改組も視野に入れて、体制の整備を図るべきとしている。 しかし、前述のように、独立性を有する委員会組織として人権救済機関を組織しようとするとき、その委員会の業務を支える事務局は、同様に、独立性を有する組織でなければならない。 最終答申が言う「現在これらを主要な所掌事務としている法務省人権擁護局の改組」が、法務省内に人権救済機関の事務局を置くことを想定するものであるとするならば、事務局の独立性を担保することはできない。事務局は政府から独立した合議制機関である人権救済機関におかれるのが当然である。また、事務局長などは民間人を登用すべきである。 第2公権力による人権侵害に対する救済 【意見の要旨】 公権力の人権侵害に対する救済は、その重要性に鑑みて、「差別」「虐待」に限ることなく、その他の人権侵害類型に対しても、広く積極的救済の対象とするべきである。 【意見】 1、 最終答申は、公権力による差別や虐待については、他の手続との関係にも留意しつつ、調停、仲裁、勧告・公表、訴訟救助の手法により、積極的救済を図るべきであるとする。 しかし、公権力による人権侵害の重要性を考えるならば、積極的救済を図るべき公権力による人権侵害は、差別や虐待に限られるべきではない。 すなわち、国、地方自治体などの公権力が、市民の生活の中で果たす役割が飛躍的に増大した現在、公権力による人権侵害の危険性は、極めて大きいものがある。また、「官尊民卑」の意識が残り、「お上」意識が強い日本社会の現状を考えた場合、少数者の人権を守り、公権力による人権侵害に対する救済制度を確保する必要性は高い。このように、公権力、特に行政権による人権侵害は、その広がりにおいても、その深さにおいても、看過しえない状況にあるのであって、公権力による人権侵害については「差別∬虐待」に限定することなく、積極的救済を図るべきである。 2、 最終答申は、「公権力によるその他の人権侵害」については、各種行政処分に対しては一般又は個別の不服申立制度が整備されており、また、人権救済機関が冤罪や公害・薬害等の問題にまで幅広く対応することは関係諸機関との適正な役割分担の観点からも救済機関の果たすべき役割の観点からも適当でなく、そのすべてを一律に積極的救済の対象とするのでなく、人権擁護上看過し得ないものについて、個別に事案に応じた救済を図っていくという方法をとるべきであるとする。 しかし、最終答申の言う「人権擁護上看過し得ないもの」という要件は、あまりに優味であり、「人権救済機関が適当と考えるもの」というに等しいということになりかねない。公権力による人権侵害の実態を再検討し、拘禁・収容施設における処遇などを積極的救済の対象とすることを追加したうえで、その他の人権侵害」についての規定をおくべきである。 3、 また、公権力による人権侵害に対して不服申立制度などの救済制度がある場合であっても、独立した第三者機関による救済ではないことに留意すべきである。内部的救済にはもともと限界があるばかりか、現状を見る限り、健全に機能しているとは言い難い。警察、検察、矯正などの拘禁'・収容施設における人権侵害は依然として跡を絶たずに起こっていて、これらの救済は焦眉の急であり、国連等の勧告でも指摘されているところである。したがって、行政処分に対する不服申立制度が存在するからといって、人権救済機関の救済対象外とすべきではない。 4、 そもそも、人権救済機関が公権力による人権侵害を救済するのは、公権力と公権力の関係であるから、公権力と私人との関係とは異なり、権力による自由・権利の侵害などの問題を生じるおそれはない。人権救済機関による救済は、公権力による自由・権利の侵害に対する独立した第三者機関によるチェックとして、積極的な意義があるものである。 第3、表現の自由との調整(差別表現及びメディアによる人権侵害に対する救済) 【意見の要旨】 表現行為に対する救済については、表現の自由との関係を配慮し、積極的救済の範囲を限定するほか、マスメディアの自主的な対応をまず求めている点を評価する。ただし、表現の自由の重要性に鑑み、被害の救済を図る手段としては、相談、あっせん、指導等によるものとし、勧告、公表等の積極的救済の対象とすべきでない。 なお、人権救済機関が行う訴訟援助制度を評価するが、表現の自由にかかわる案件については強制調査、差し止め等の強制力が伴う措置は、すべて裁判によるよう限定すべきである。 【意見】 最終答申は、中間取りまとめに比べ、積極的救済の範囲を限定するなど表現の自由に対する配慮が読みとれるが、さらにいっそうの表現の自由との関係で慎重な取扱いが必要と思われる。 民主主義社会における表現の自由や精神的自由の重要性、あるいは報道機関が国民の知る権利にこたえる重要な社会的役割を担っている点に鑑みると、差別的表現やメディアによる人権侵害の分野の救済は、原則として司法救済および自主救済に委ね、この分野では人権救済機関は、相談、あっせん、指導等の強制力を伴わない救済と、司法救済を支援する意味での訴訟援助にとどめるべきである。 中間取りまとめに続き最終答申でも、差別を助長・誘発するおそれが高い表現行為の一部は訴訟援助の制度が機能しないと断定するなど、差別表現については相当に広く人権機関による積極的救済を認めるほか、マスメディアの人権侵害の分野でも犯罪被害者等のプライバシー侵害等について積極的救済を認めているが、上記の趣旨から賛成ができない。とりわけ差し止めや削除等の手続きは、表現の自由の重大な侵害につながるおそれがあり、このような措置は裁判手続きによるよう限定することを強く求める。 なお、同趣旨は上記論点に示す範囲のほか、第4の2「虐待」に含まれると想定される嫌がらせメールなどの表現行為についても相当すると考えられる。したがって、法案化する際には、表現行為全般に対する人権救済機関の救済原則が示されるとともに、表現の自由に対する配慮規程が必要と思われる。 また、表現行為の制限を行う以上、その要件は明確に限定されることが求められる。差別表現等の範囲については、法律による明確な定義付けが必要であり、その意味で差別禁止法等の検討が同時に行われることを求める。 第4、訴訟援助 【意見の要旨1 訴訟援助の手段として、民間のNPOその他の様々な団体や弁護士団体等による訴訟支援が広汎に行われるようにすることや、法律扶助協会による法律扶助の抜本的拡大をするとともに人権被害者の救援を任務とする民間団体への補助金の交付や税制上の優遇措置などの財政的支援を実現することなど、国は多様な措置をとるべきである。 【意見】 当協会は、中間取りまとめに対して、以下のような要望を述べた。 「人権救済のためには多様な救済手続がとられるが、司法救済の重要性は動かしがたい。人権救済機関は司法救済を促進するため、意見表明、資料、情報の提供を行うだけでなく、民間団体や弁護士団体による訴訟支援について財政的支援及び法律扶助の抜本的拡大の実現を提言すべきである。また、人権救済機関が裁判手続に参加することも検討されるべきである。」 今回の答申においては、「第5救済手法の整備」の項に「(4)訴訟援助」の項が設けられ、被害者の司法的救済のための人権救済機関による援助、その具体的手法として資料提供制度の整備や訴訟参加等の方法が検討され、さらには特定の事案に関して人権救済機関自身による訴訟手続き開始の可能性が言及されるに至ったことは、当協会の要望に沿うものであり、司法手続を活用した実効的救済に向けた一歩として評価することができる。 さらに、実効的救済をより確実なものとするためには、当協会がこれまで要望してきた、民間のNPOその他の様々な団体や弁護士団体等による訴訟支援が広汎に行われる ようにすることや、法律扶助協会による法律扶助の抜本的拡大をするとともに人権擁護を任務とする民間団体への補助金の交付や税制上の優遇措置などの財政的支援を実現することなど、国は、多様な措置をとるべきものと考える。 以上 |
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