人権擁護推進審議会は、発言者の氏名が特定できる議事録を公開し、審議会の透明性と公開性を高め、国民への説明責任を果たすべき


2001年7月4日
人権フォーラム21
代表 武者小路公秀

● 本年4月より、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(いわゆる情報公開法)が施行された。同第1条はその目的を次のように定めている。
 「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」
 人権フォーラム21では、政府の人権擁護推進審議会に対して、21世紀日本の人権政策の審議にあたっては、人権侵害当事者の声に耳を傾け、密室審議を廃しその公開性と透明性の確保をはかるようねばり強く求めてきた。しかしながら人権擁護推進審議会は、1号諮問(教育・啓発のあり方)の当時と比べると、パブリック・コメント手続きの弾力化や公聴会の実施など若干の改善点はあるものの、依然として非公開の密室審議を続け、情報公開度は政府の審議会の中でも最低ランクの水準にある。
● そこで人権フォーラム21では、さる5月2日に、情報公開法にもとづき、人権擁護推進審議会の発言者氏名が特定できる議事録および会議配布資料の開示を求めて「行政文書開示請求」を行ってきた。その内容は、1)人権擁護推進審議会に関わる発言者氏名入りの議事録(第54〜56回)、2)4月27日に審議会で配布された「答申たたき台」、の2項目である。
 これに対し、法務省は、さる5月29日、前者については「不開示決定」を、後者については「開示決定」を通告してきた。なんと不開示の理由は、当初われわれもその内容に眼を疑ったが、「開示請求に係わる行政文書が実際に存在しないため」、すなわち人権擁護推進審議会に関わる発言者氏名入りの議事録やその草稿があたかも存在しないかのような全く許すことのできない不当な理由づけである。「行政文書不開示決定通知書」(法務省総第294号)
 人権フォーラム21では、さる6月29日に企画運営委員会を開催し、この決定を受け入れることはできないとして、異議申立てを行うことを決定し、7月4日に「行政文書不開示決定に対する異議申立て」をおこなった。同時に、人権擁護推進審議会の透明性と公開性を拡大させるため、新たな「行政文書公開請求」として、1)人権擁護推進審議会第62回会議議事録作成にかかわる発言者氏名の特定できる事務局作成メモまたは磁気ディスク(フロッピーディスク)の公開、2)審議会付属の小委員会の審議経過と付属資料の公開、をあらためて法務省に要求した。
● およそ政府の審議会は、国民に開かれたものであるべきである。それは先の情報公開法第1条が明記するように「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする」ためである。この法律の対象となる政府の審議会においては、その公開性と透明性の確保のため、議事録や配布資料が公開されるべきである。
 例えば、去る6月12日に「21世紀の日本を支える司法制度」を答申した司法制度改革審議会では、毎回、発言者氏名入りの詳細な「議事録」を公表し、審議会での「配布資料」も全て公表し、司法制度改革論議への国民の参加を呼びかけてきた。
 しかるに同じく法務省が事務局を担当する人権擁護推進審議会においては、「議事録」や「配布資料」の公開には、極めて消極的である。しかも公開されている人権擁護推進審議会の「議事録」は、司法制度改革審議会では「議事概要」程度の分量で、発言者の氏名も明記されていない。また、「配布資料」も「海外調査報告書」も「小委員会報告」も、そのほとんどが非公開であった。
 通例、政府の審議会では、事務当局が記録係をつとめ詳細な議事録メモを作成・保管しファイリングしており、多くの審議会では、これにもとづき発言者氏名入りの議事録を作成し、公開している。また人権擁護推進審議会においても、現行の極めて不十分な発言者氏名のない「議事録」の作成にあたっては、発言者の委員にその発言内容を照会・確認するため、記録を担当している審議会事務局が、当日の審議の記録をもとに議事録草稿を作成して委員各位に事前に配布し、記載内容の了解を得てから、「議事録」として公表の手続きを取っているとされている。したがって、各委員に発言内容を照会・確認するための議事録やその草稿は、当然ながら事務局に存在するものと推定される。
 以上のように、われわれの行政文書公開請求(人権擁護推進審議会に関わる発言者氏名入りの議事録の公開)に対して、「開示請求に係わる行政文書が実際に存在しないため」との理由付けは、まったく不当であり、国民を愚弄するもので、密室審議を正当化しようとしているにすぎない。
● 人権擁護推進審議会は、5月25日に「人権救済制度のあり方」の答申提出後、しばらくは休眠状態が続いていたが、去る7月6日の第66回会議から再開された。今後は、残り1年足らずの期間で「人権擁護員制度のあり方」を審議するという。
 ところで、審議会の再開後は、小さいながらも、その姿勢に若干の変化が見られる。それは、7月に入ってから人権擁護推進審議会の議事日程(予定)が法務省のホームページにて公開された点である。驚くべきことに、これまでは人権擁護推進審議会においては、審議会の議事日程(予定)すら、会議終了後にしか公開されないという密室審議ぶりであった。さすがに気が引けたのか、7月に再開されてからは、情報公開が一部分ではあるが前進し、審議会の議事日程(予定)が事前に公開されるにいたった。
 我々は、この変化を歓迎するものである。そして、人権擁護推進審議会が、さらに公開性と透明性を拡大し、司法制度改革審議会と同様に、21世紀日本の人権政策のあり方についての論議への国民の参加を積極的に呼びかけ、市民との協働で新たな政策作りを推進されることを切に望むものである。発言者の氏名が特定できる審議会議事録の公開は、審議会委員の国民への説明責任を果たす上からも、また国民の知る権利を保障する点からも当然の処置の第一歩である。

以上


 

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