「人権救済制度の在り方に関する公聴会」の発表意見の要旨


2001年1月30日
北海道ウタリ協会 発表者秋辺得平(総務部会長)

○ 全国4箇所で開催される「公聴会」が、アイヌ民族先住の地、北海道で開催され、北海道ウタリ協会に発言の機会を与えていただきましたことに感謝いたします。

○ アイヌの人権に関しては、明治政府の同化政策などにより、教育・文化はもとより、社会・経済など、あらゆる分野で基本的人権が著しく損なわれてきており、今なお社会環境には依然として差別、偏見が根強く存在しています。
 このような中で、アイヌの人権擁護を確保するためには、アイヌ民族が先住民族であるという認識の下に、人権擁護に関する国際基準を踏まえた目標の設定と、それに基づく教育・啓発の徹底や人権侵害に対する迅速、的確な救済システムが確立される必要があると考えております。

○ このような観点から、北海道ウタリ協会としては、人権擁護推進審議会の審議に大きく期待し、平成9年と平成11年の二回にわたり、私どもの理事長から各般にわたる提言をさせていただいたところであります。
 このような中で、去る11月29日に「人権教育及び人権啓発の促進に関する法律」が参議院で可決成立したことは評価しますが、国・地方公共団体の責務、国の財政措置などについて条文化されているものの具体的な内容が示されていないことなどから、今後、この法律の内容を拡充していただくとともに、今回審議されている「人権救済制度の在り方」についても、アイヌの人権擁護に関して実効ある制度としていただくことを要望します。

○ 「中間取りまとめ」においては、人権侵害の現状として、アイヌ民族に対する雇用差別、結婚・交際における差別、嫌がらせなどの問題があるとしているが、結婚・交際における差別などを、「個人の私生活における差別、個人の内心に関わる問題」として「強制的な権限を伴う救済の対象とすることは困難である」としているのは差別の現状認識に全く欠けています。

○ 昨年3月、北海道が実施した「北海道ウタリ生活実態調査」の結果が発表され、アイヌと一般道民との生活格差や教育水準の格差とともにアイヌに対する差別についても報告されています。差別の受けたことのある件数は、7年前の調査時より増加しており、差別の場面については、「学校」が46,3%で一番多く、二番目が「結婚のことで」が25,4%となっております。このような差別に対しては、現行の法務省の人権擁護委員制度等は、全く機能していない実態にあります。

○ 依然としてアイヌの人権環境が改善されない大きな要因としては、学校教育で採用されている教科書にはアイヌの歴史や文化に関しての情報が全く不十分であり、また、学校の教員自身が学生のころに、修得していないことなどから、教育の現場において認識の誤認による差別事例が後を絶たないことは当然と言えますし、さらにはそのことが社会に出て、結婚・交際などにおける差別事例に繋がっていることは明らかであります。

○ このような差別、蔑視を個人の問題として取り合わないことは許されることではなく、こうした差別の背景にある国の民族政策の責任等を明らかにするとともに、積極的な救済の対象に加えることが必要です。

○ 人権救済機関は、「中間取りまとめ」では「一定の独立」と暖味な表現になっていますが、政府から完全な独立機関とする必要があります。また、中央設置のほか地域で頻発する人権侵害にたいし有効に機能するため地方にも設置する必要があります。

○ 人権救済機関の委員会には、人権侵害を受けた被害者の立場やその背景を理解できるよう、アイヌ民族をはじめ当時者の代表を入れるべきです。

○ 人権擁護機関の事務局職員は、相談業務のほか申立事案の調査、調停、仲裁など人権侵害の第一線を担うものであり、弁護士、NGO職員など職務遂行の識見や経験を有している者、さらにはアイヌ民族の出身者など、アイヌの人権擁護に関する背景や実状に詳しい職員を配置し、日常的な接触を通じて、様々な人権侵害の早期発見、人権救済のアンテナ機能を担う必要があります。

○ 人権救済機関が他に所掌すべき事務の機能として、政府への助言が触れられていますが、その役割を明確に具体的にする必要があります。人権救済機関が政府からの独立機関として、人権侵害・差別に関する救済事案の解決に関し蓄積された経験及びその背景の分析等に基づいて、国の人権政策や施策のあり方、人権諸条約の締結、またはこれへの加入、国際連合の人権保障機関や他国の国内人権機関との協力、日本が締約国となっている人権諸条約上、提出が義務づけられている政府報告書の作成などについて提言を行うことができるようにすることが重要です。
 また、地方に設置する人権擁護機関においては、地方自治体の人権政策や施策のあり方について提言が行うことができるようにするごとが重要です。


 

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