同性愛者に対する差別と「人権救済機関」(2001.01.22)


堀江有里

1. 人権侵害の四類型(1)差別

(1)学校現場でのいじめ
○同性愛者、性同一性障害の当事者等、性規範にはまらない児童生徒→rホモ」「レズ」「オカマ」などと強いいじめ、暴力をうける
 → 学校教師も見て見ぬふり、生徒と一緒にいじめに荷担する場合さえ存在

(2)職場での人権侵害
・同性愛をネタにした軽蔑・嘲笑(メディア等の影響)=環境型セクハラ
・結婚圧力・「見合い」の強制・独身者への昇進差別=対価型セクハラ
・ 性的指向の暴露→人間関係から疎外、「職場環境を乱す」などで解雇、配転も

(3)住居差別
○不動産業者・大家 ― 同性間パートナーに対する住宅賃貸の拒否
○公共住宅 ― 同性間パートナーを入居対象から除外

2. 人権侵害の四類型(2)虐待

(1)同性愛者に対する暴力的迫害(ゲイ・バッシング)
・新木場殺人事件: 昨年2月、少年グループが男性を同性愛者とみなして襲撃、虐殺
・その他、全国の公園などで同性愛者に対する暴行・恐喝などが多発

(2)家庭などでの同性愛者への迫害
・家族も同性愛嫌悪を内包→家族の一員が同性愛者だと分かると迫害
○同性愛者である子供: 暴力、疎外、不適切な治療
○結婚後同性愛者であることを自覚した女性: 夫からのDVや不利な条件の離婚

3. 人権侵害の四類型(3)公権力による人権侵害

(1)同性愛者であることを理由とした不適切な扱い
・犯罪被害者となった同性愛者への、警察の「セカンド・バッシング」
・同性愛者であるが故のフレームアップ、予断と偏見に基づく取り調べ
・刑務所・拘置所・入国者収容所などにおける独居拘禁
・同性愛者団体への公共施設の貸し出し拒否

(2)同性愛者に対する社会制度の欠如
・同性間パートナーシップに一切の法的認知がない
 → パートナーの危急の際に、お互いの意思に反して無権利状態に(意思決定・相続)
・同性愛者の人権侵害の際の相談機関・救済機関の欠如

4. 人権侵害の四類型(4)マスメディアによる人権侵害

(1)テレビのバラエティ番組等における同性愛者差別
○同性愛者は格好の「笑いのネタ」に(公然たる差別)
○社会的浸透力が大きい → 同性愛者差別を容認する風土の醸成に責任あり

(2)同性愛者差別に鈍感なメディア
○大新聞社までが、同性愛者に対する差別表現を平然と使用
 → 差別の容認に一役買う

5. 同性愛者を「積極的救済」の対象に

○同性愛者に対する人権侵害の存在を認知し、解決の必要性を認めること
○同性愛者に信頼される人権救済機関をつくること

<基本用語解説>
1.性的指向sexual orientation
 自分がいずれの性に性的意識が向く・向きうるかということ。同性に性的意識が向く/向きうる場合を同性愛homosexuality、異性に性的意識が向く・向きうる場合を異性愛heterosexuality、両性に性的意識が向く・向きうる場合を両性愛bisexualityという。
 性的指向は何によって決定されるかはわかっていない。また、通常、本人の自由な選択によって性的指向を決定することはできない。Sexual Orientationは、欧米では性を構成する重要な概念として法的にも定着してきたが、日本では最近まで、訳語すら定まっていない状態であった。「性的嗜好」「性的志向」という訳語は、これが「趣味・嗜好」の問題であるとか、自らの意志によって変更することが可能であるといった誤解を生み、不適切であるため、近年「性的指向」という語が定着している。

2.同性愛者/レズビアン/ゲイ
 同性愛者を指し示す言葉は多様であり、それを使う人の立場や文脈によって意味が大きく異なってくる。「ゲイ」は男性同性愛者、「レズビアン」は女性同性愛者を指すが、この二つの語は、同性愛者自身が同性愛者であることを肯定する立場から作られてきた言葉である。一方、「ホモ」「オカマ」「レズ」といった語は、もっぱら異性愛者が同性愛者・性的少数者を差別する文脈で使われてきており、強い差別的ニュアンスを含んでいる。なお、同性愛者、性同一性障害の当事者・自己の性別に不快感を伴う人々、インターセックスは、異性愛中心の社会でさまざまな人権侵害や差別・不利益を被っている点では共通しているが、基本的にはそれぞれ別個の集団であることに注意すべきである。

3.新木場ゲイバッシング殺人事件
 2000年2月、東京都江東区の「夢の島緑道公園」で、少年グループが一人の男性を同性愛者とみなして襲撃、虐殺した事件。少年グループは、同公園周辺で、これ以外にも同性愛者に対する襲撃事件を数十件にわたって起こしていた。その後グループの唯一の成人に対する刑事裁判で、犯人たちが「ホモ狩り(表現そのまま)に行こう」と示し合わせて襲撃に及んでいたことが明らかにされている。

4.同性間パートナーシップの公的認知
 欧米では、同性間のパートナーシップに対する法的保護制度が整いつつある。オランダおよび米国ヴァーモント州では、異性間の婚姻と同じ法的保護が与えられている。また、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、ハンガリー、フランスでは、国家レベルで同性間パートナーシップの登録と一定の法的保護が整備されている。同様の制度は、米国、カナダ、オーストラリアその他の諸国の州や主要都市などにも存在する。なお、同性間パートナーシップの公的認知・法的保護と、「婚姻制度の同性間パートナーシップヘの適用」とは全く異なることであり、安易な比較や短絡は」慎むべきである。


 

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