去る4月13日、人権フォーラム21がよびかけ、「組織体制のあり方」に関しての共同意見書を五団体で提出しました。 今回は、人権フォーラム21、反差別国際運動、DPI(障害者インターナショナル)日本会議、動くゲイとレズビアンの会(アカー)、在日コリアン人権協会の五団体です。 -> これまでの共同意見書一覧<詳細>
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人権擁護推進審議会人権救済機関の組織体制に関する意見書 ****************************************************
1.地方組織について 今後期待される分権化社会においては、「中間取りまとめ」が想定するような中央一元的な人権救済機関よりも、地方ごとに救済機関を設置する分権型の組織形態が望ましい。人権侵害や差別事案は、人々の生活の現場で生じる場合が多く、そうであればこそ、人権救済機関は地域の実情やその地域が抱える問題点、地域に根付く慣習や慣行などに精通した者によって構成されることが求められる。したがって、人権救済機関の設置にあたっては、都道府県や政令市にそれぞれ独立した人権救済機関を置き、かつ各々の機関が独自の事務局を備えることが必要である。 諸外国においても各州が独自の人権救済機関を有している場合が多く(ex. カナダ、オーストラリア、インドなど)、日本の都道府県が人口的に見れば、これら各国の州に匹敵する規模をもつことを考え合わせれば、人権救済機関は都道府県及び政令市レベルに置くことが望ましい。 人権救済機関には政府からの独立性が要請されるが、その独立性を担保するための一つの要件は、事務局職員の人事権を人権救済機関自らが有することである。人権救済機関の意思決定を行う委員の任免に政府からの不当な介入が及ばないことはもちろんのこと、日常の業務を遂行する事務局職員の人事も人権救済機関自身が行うことによって、他の政府機関からの介入を排除すべきである。また、事務局の独立性を維持するために、他の政府機関からの出向は極力控えるべきであり、人権救済機関独自の職員が常に半数以上を占めるようにすべきである。人権救済機関発足時には、事務局職員の多くを法務省職員によって充当しなければならないとしても、原則としてそれらの者は法務省へは帰任させず、人権救済機関独自の職員として継続的に勤務させるべきである。さらに、人権問題に関する実務経験の豊富な弁護士やNGO関係者を採用するなど、政府外部との人事交流も盛んに行うべきである。 2.人権擁護委員の位置づけ 新たな人権救済制度を広く市民に親しまれ、信頼されるものとするためには、人権擁護委員制度の抜本的な改編が必要である。 人権侵害・差別の当事者からほとんど信頼されず、実効的に機能してきたとはいえない現行制度を、若干の手直しで済ませることは決して許されない。 法務省による人権擁護行政およびこれを補完する人権擁護委員制度は、残念ながら、実効的に機能しているとは言い難い。その大きな原因は、人権侵害・差別を受けた当事者から、人権相談や人権救済に関しほとんど信頼されていないことにある。1993年に総務庁(当時)が実施した『平成5年度同和地区実態把握等調査−−−生活実態調査報告書』(41-45頁)によれば、人権侵害を受けた同和地区の人びとの対応は、「黙って我慢した」が46.6%、「相手に抗議した」が20.2%、「身近な人に相談した」が22.4%で、「法務局または人権擁護委員に相談した」は0.6%にすぎなかった。 「中間取りまとめ」では、人権擁護委員制度についてはこれを残存させた上で、新たに設ける人権救済機関の地方事務局の下におき、人権救済機関によるあっせん、調停、仲裁や調査手続に参加させることを想定していると思われる。 しかし、既存の人権擁護委員制度は、上記の調査結果からも明らかなように、制度自体の存在意義に疑念を生じさせるほどに機能麻痺の状態に置かれている。多くの人権擁護委員は、それまで人権問題に直接関わってきた経歴を有するわけではなく、委員に対する研修制度も充実しているとは言い難い。加えて、委員の有する権限も弱く、制度運用のための予算規模も不十分である。 したがって、人権擁護委員制度を抜本的に改編し、これまでの名誉職的な制度から真に人権保障に役立つ制度へと改めるべきである。 人権フォーラム21では、現行の全国約14,000名の人権擁護委員を約6,000名に規模を縮小し、新たに設置する人権研修所(仮称)において毎年2000名ずつに対して3ヶ月間の専門的な人権研修を実施後、研修を終えた委員を新たに「人権ソーシャルワーカー(仮称)」として有給の専門職とすることを提言している(200.11.10「提言」参照)。人権擁護委員を経ずに人権ソーシャルワーカーとなるものに対しても、同じく3ヶ月間の研修を実施することとする。人権ソーシャルワーカーは、少なくとも週に数日は職務に専念させる必要がある。 こうした新たな制度が実効的に機能すれば、各地域における日常的な人権問題の多くは人権ソーシャルワーカーのレベルで解決されることが予想される。人権擁護委員制度の抜本的な改編は、新たな人権救済制度を有意義なものとするためにも不可欠である。 3.委員会委員の選任 「中間取りまとめ」では、人権救済機関には「政府からの一定の独立性が不可欠」であるとされており、また人権救済機関の多様性を確保するために、委員の選任においては「国民の多様な意見が反映される方法」を採用し、「委員の選任について、ジェンダーバランスにも配慮する必要がある」と述べられている。 しかし、実際には外国人が被害者となっているさまざまな人権問題が存在することからも、「国民」ではなく、すべての在日外国人・難民も含めた「市民」、「住民」の多様な意見が反映される方法を検討すべきである。ジェンダーバランスについては、一定の比率の設定を含め、より具体的に検討する必要がある。また、性的指向や性的自己認識に関連する人権問題に精通した委員の選任も望まれる。 より具体的には、労働、教育、居住、医療などの問題や、被差別部落出身者、女性、子ども、高齢者、同性愛者、ホームレス、先住民族、外国人・難民、障害者、ハンセン病患者、HIV感染者、被拘禁者などのさまざまな人権問題に対処できるNGO・NPO関係者、弁護士、研究者(メディア関係者を含む)などから委員を積極登用することが不可欠である。 4.市民社会との協働 21世紀の日本の人権保障において、新たな人権救済制度を真に実効的なものとするためには、市民からの信頼と支持、そして市民社会との協働が不可欠である。 市民社会との実質的な協働が、人権救済機関の活動プロセスにおける「独立性」の確保にも大きく寄与することに留意すべきである。最終答申では、諸外国での経験を十分に参照し、特に人権NGO・NPOとの協働関係の重要性、具体的な協働のあり方について言及する必要がある。 市民社会との協働の具体的なあり方としては、例えば、従来型のヒアリングのようなアドホックな「協力」ではなく、人権救済機関の活動全般に関する常設的な協議機関を中央及び地方組織に設置することや、当事者の生活する現場に直接赴く定期的なヒアリングの実施など、市民の意見表明の機会をより多く確保することが必要である。 また、中央及び地方組織に自由なアクセスが認められたNGO(市民)ルーム(仮称)の設置なども、直接的・間接的な大きな効果をもつものとして検討される必要がある。 その他、人口規模に応じたローカル・ポスト(人権相談窓口)や24時間対応窓口の設置、既存の中央及び地方の公的機関とは別に人権救済機関を独立して立地することなども、市民との心理的な距離感を縮めるとともに、市民の利便性を確保し、人権救済機関をより身近な存在とするために必要である。 また、相談者に対して威圧感を与えないように事務局職員の服装に関する「ドレス・コード」を決めるなどの諸外国での取り組みにも留意すべきである。 市民社会との協働を実現するためには、人権救済機関の活動に関する公開性や透明性の確保は前提となる条件である。人権救済機関は活動内容及び会議を全面公開し、会議おける配布文書はすべて情報公開するとともに、議事録も抄録でなく発言者名を明記する全発言記録とすべきである。関連文書は印刷物及びホームページにてすべて公開することで、人権救済機関の公開性と透明性を確保する必要がある。 こうした取り組みにおいては、国連の人権機関や諸外国の例が参考となる。 市民社会との協働の実現は、国連の各人権機関や将来参加することが予想される国内人権機関に関する地域機関である「アジア・太平洋国内人権機関フォーラム」を含む国際社会からの要請であると同時に、「中間取りまとめ」にある「『人権の世紀』と呼ばれる21世紀にふさわしい人権救済制度」を構築するための必須の条件である。 (了) |
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