1.30人権擁護推進審議会「東京公聴会」での意見表明要旨
人権救済機関の独立性等の
確保と組織体制

2001年1月29日
新潟大学法学部教授 山崎公士
(人権フォーラム21事務局長)


I.人権救済機関(人権委員会)の独立性・多様性・多元性の確保

 ⇒参照 【資料1】 国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)(抄)
【資料2】 人権委員会に関する提言の比較
【資料3】 各国の国内人権機関の組織体制(抄)


 人権救済機関(人権委員会)の実質的な独立性を確保するため、委員のジェンダーバランスを確保し、各種マイノリティ出身の委員を選任し、委員会の独自の財政基盤を確立し、委員選任過程の公開性・透明性を保持するなどに配慮すべきである。
 人権救済機関の事務局職員の多様性を確保することも重要である。



1. 「中間取りまとめ」では、人権救済機関には「政府からの一定の独立性が不可欠」であるとされており、また人権救済機関の多様性を確保するために、委員の選任においては「国民の多様な意見が反映される方法」を採用し、「委員の選任について、ジェンダー・バランスにも配慮する必要がある」と述べられている。しかし、人権救済機関の独立性、多様性、多元性を確保するためには、これだけでは不十分である。

2. 人権救済機関の独立性・多様性・多元性の確保するためには、以下の点に留意する必要がある。

 (1) 設置法および運用上の自律による独立性
* 人権救済機関は法律によって設置すること
* 人権救済機関は法定された下記3種の明確な機能をもつこと⇒1993年国連総会採択の国内人権機関の地位に関するパリ原則参照
   @人権相談の受付・人権侵害の申立の受理、人権救済
   A人権教育・広報の連絡調整機能、特定職業従事者への人権教育の実施
   B行政府・立法府、自治体への人権政策提言
* 人権救済機関は立法・行政・司法府から独立し、独自の意思決定ができること
* 行政機関に対する協力要請権限をもつこと(たとえば、すべての公務員や官庁は、人権救済機関の求めに応じ情報提供し、照会に回答し、調査協力義務を負うものとする)
* 自律的な日常活動を遂行できること

 (2) 財源の自律を通じた独立性・自律性
* 人権救済機関の財源は、設置法上法定すること

 (3) 人権救済機関の委員の任命・解任手続を通じた独立性・自律性
* 人権救済機関は複数の委員からなる合議制とし、委員の任命・解任要件や手続は設置法上明確に法定すること
* 委員選任の公開性・透明性を確保すること

 (4) 委員構成を通じた独立性・多様性・多元性
* 委員を各種マイノリティからの積極的登用し、委員構成に市民社会の多様性・多元性が反映するようにすること←人権侵害・差別を受けがちなマイノリティから信頼される機関とするため⇒【資料1】・【資料3】
* 人権侵害・差別の実態を良く知り、また人権救済活動の経験豊富な人材、たとえば、人権救済活動に取り組んできた弁護士やNGOでの活動経験をもつ者を積極的に委員とすること

 (5) 職員体制の充実を通じた独立性
* 人権救済機関事務局職員は、職務の遂行に必要な専門的識見または経験を持つ弁護士、国・自治体の職員、NGO職員等から採用すること
* 職員のジェンダー・バランスと、多様なマイノリティからの職員採用にも十分に配慮すること⇒【資料3】
* 「法務省人権擁護局の改組」による法務省からの職員の移動は、全職員の半数以下にとどめるなど、極力最小限に押さえること。⇒次項II.とも関連

 (6)国際機構、他国の人権救済機関(国内人権機関)およびNGOとの協力・協働による独立性の確保


II.人権救済機関(人権委員会)の組織体制

 ⇒参照 【資料2】 人権委員会に関する提言の比較
【資料3】 各国の国内人権機関の組織体制(抄)


 「中間取りまとめ」は全国一元型の人権救済機関(人権委員会)を想定している。しかし、人権侵害・差別事案は人びとの生活現場で生起するので、人権救済機関は地方ごとに設置すべきである。



1. 「中間取りまとめ」では、中央に置かれた一つの人権救済機関が全国を包括的に所掌する体制になっており、地方には法務局及び地方法務局の人権擁護部門を改組した地方事務局を置くことになっている。

2. しかし、今後期待される分権化社会においては、このような中央一元的な人権救済機関よりも、地方ごとに救済機関を設置する分権型の組織形態が望ましい。人権侵害や差別事案は、人びとの生活の現場で生じる場合が多い。したがって、人権救済機関は地域の実情やその地域が抱える問題点、地域に根付く慣習などに精通した者によって構成されることが求められる。人権救済機関の設置にあたっては、都道府県や政令市にそれぞれ独立した人権委員会を置き、かつ各々の委員会が独自の事務局を備える必要である。


III.まとめ

 人権救済機関の独立性・多様性・多元性を確保し、また地方−中央併存型の組織体制とし、市民から信頼され、気軽に人権相談を受け、救済申立ができる存在とすべきである。



【資料1】
国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)(抄)

構成と独立・多元性の保障

1.国内人権機関の構成およびその構成員の任命は、選挙によるか否かを問わず、人権の伸長と保護に関わる(市民社会の)社会集団の多元的な代表を確保するために必要なあらゆる保障を与える手続に従って行われるものとする。特に、(国内人権機関の構成およびその構成員の任命は)下記の代表とともに、またはその関与を通じて確立される実効的な協力を可能とする勢力によってなされるものとする。
(a)人権に取り組み人種差別と闘うNGO、労働組合、ならびに弁護士、医師、ジャーナリストおよび著名な科学者のような関連する社会的および職業的組織。
(b)哲学的または宗教的思想の諸傾向。
(c)大学および高度の専門家
(d)議会
(e)政府部門(これらの代表は、助言的資格でのみ議論に参加すべきである。)
2.国内人権機関はその活動を円滑に行えるような基盤、特に財源をもつものとする。この財源の目的は、政府から独立で、その独立性に影響しかねない財政統制の下におかれるとのないよう、国内人権機関が自らの職員と土地家屋を持つことを可能とするものでなければならない。

3.真の独立の前提である国内人権機関構成員の安定した権限を確保するため、構成員は一定の任期を定めた公的な決定(an official act)によって任命されるものとする。この任期は、構成員の多元性が確保される限り、更新可能である。


 

人権フォーラム21Top
人権フォーラム21 Copyright 2001 Human Rights Forum 21. All Rights Reserved.