「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」に対するパブリックコメント


2001年1月19日
DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 山田 昭義

1.[第1はじめに〜調査審議の対象とその経過]について

【意見の要旨】
 本「中間取りまとめ」においては、「救済の理念と対象、救済の措置、調査手続・権限、救済機関の組織体制の4つの柱を中心に論点の整理をおこない」「被害者救済施策の充実の必要性を痛感し」「組織体制の整備も含めた抜本的な改革を内容とする中間とりまとめを行う」としており、画期的なことがうたわれている。
 しかし、「抜本的な改革」の具体論になると、あいまいで後退している点も多く、実効性については疑問である。「抜本的な改革」の具体的道筋をもっと明確にするべきである。

2.[第3の1](人権救済制度の位置付け)について

【意見の要旨】
 当該機関において解決できなかった場合に、これから構築されるべき人権救済機関に被害者から申し立てがあった時には、人権救済機関の対応と救済が既存の当該機関よりも優先権をもつことを明記するべきである。
【意見】
 「既に個別的な行政上の救済制度が設けられている分野」においては、当該機関による救済を優先し、当該機関との連携の中で、「当該機関による解決が困難な一定の事案については、人権救済機関として主体的な対応を行うなど、適正な役割分担を図るべきである」としている。一方で[第2の2の(2)・イ](各種裁判外紛争処理制度(ADR)等)においては、(労働問題、公害、児童虐待等の)様々な分野で、公私の機関・団体による被害者救済の機能を果たしているが、「実効性の観点から限界や問題点を指摘されているものもあり、」また、「そもそも総合的な人権救済の視点に立って設置されるなどしたものではないため、救済が必要な分野をすべてカバーしているわけではない」と述べている。
 人権侵害に対する取組みを行う際に、最も重要なことは、被害者に対する対応と救済の結果が、被害者本人にとって、どこまで納得できるかどうかである。加害者に対する被害者への説明責任(アカウンタビリティ)の義務付けが制度の仕組みにおいて担保されていない現状では、既存の各種人権分野の裁判外紛争処理制度に基づく当該機関において解決できなかった場合に、これから構築されるべき人権救済機関に被害者から申し立てがあった時には、人権救済機関の対応と救済が既存の当該機関よりも優先権をもつことを明記するべきである。

3.[第3の2](具体的役割)について

【意見の要旨】
 差別や虐待、人権侵害の範囲とその定義があいまいである。
 「積極的な救済」の方策を具体化していくためには、その対象とされる人権侵害・差別の定義を法律で明記にすべきである。
【意見】
 ここでは、「あらゆる人権侵害を対象とする総合的な相談と、あっせん、指導などの手法による簡易な救済」と「自主的解決が困難な状況にある被害者の積極的救済」に分けられているが、「簡易な救済」は従来型の「任意的な手法による救済」を基本としており、実効性が乏しい。また「積極的な救済」は、差別や虐待による被害者を対象とし、自らの人権を自ら守ることが困難な場合に限定している。「対象となる差別や虐待の範囲をできるだけ明確に定める必要がある」と述べるだけにとどまり、差別や虐待の定義が不明なため、「簡易な救済」と「積極的な救済」の境目が曖昧なままである。
 障害者の場合、特に外出に伴う移動の権利をはじめとして、権利の行使以前に権利を自己主張することそのものが、家族や周囲の関係者から「わがままな言い分」「迷惑をかける」と決めつけられてきた長い生活史があり、誰かに相談すること自体を「言ってはいけない」ことと思いこまされている実態がある。通常であれば「簡易な救済」の範囲に入ると思われる事項のほとんどが「積極的な救済」に相当する事項が非常に多いのが現実である。
 また、「積極的な救済」の対象とする人権侵害について、「その救済手続きが一面で相手方や関係者の人権を制限するものでもある」と述べる認識は、社会と個人、または個人と個人の関係において最低限厳守しなければならない権利の確立のために不可欠な「積極的な救済」の仕組みづくりそのものの意義を薄めさせ、大きくブレーキをかけるものである。
 現実には非常に多く事象化している、加害者側の無知・無理解による結果としての「人権侵害・差別事象」については、「積極的な救済」の対象とすべきである。

4.[第4の1の(3)](公権力による人権侵害)について

【意見の要旨】
「公権力による人権侵害すべてを積極的救済の対象とするのは相当ではない」と記されているが、障害者に対する福祉サービスの利用と判定にかかわる行政処分(当事者にとっての不利益処分)等や公的施設における差別・人権侵害・虐待等は、「積極的な救済」の対象とするべきであり、人権救済機関の立ち入り調査権限を明記するべきである。

5.[第6の2](人権救済機関の独立性)について

【意見の要旨】
 独立性の確保のためには、人権救済機関の財政的独立性、委員の選任の公開性・透明性、委員構成の多元性(障害者をはじめとする各種マイノリティからの選任)とジェンダー・バランスの確保等が法律で明記されるべきである。
【意見】
 「政府からの一定の独立性が不可欠」としているが、問題はその独立性を具体的にどのように確保するべきかという点である。要点として、人権救済機関の財政的独立性、委員の選任の公開性・透明性、委員構成の多元性(障害者をはじめとする各種マイノリティからの選任)とジェンダー・バランスの確保等が人権救済機関を設置する法律においてが明記されるべきである。
 また、法務省の人権擁護局を改組して人権救済機関の事務局とする場合が考えられるが、これでは政府から独立した人権救済機関の事務局機能を正しく担えないことは明らかである。人権救済機関の事務局職員は、可能な限り、NGOなどからの人権問題に熱意のある人材を採用するべきである。
 さらに、人権問題にはそれぞれの歴史的社会的特殊性が根深く存在していることから、各人権侵害事案に有効に対応し救済できる課題ごとの専門部会の設置とと相談員の配置や事務局機能等を整備することが不可欠である。

6.[第6の2](人権救済機関の全国的な組織体制の在り方)について

【意見の要旨】
 中央人権委員会を設置し、委員会事務局を中央と地方で整備するという考え方が示されているが、全国的組織体制としては、地方人権委員会と中央人権委員会を併置し、地域の実情にかみあい密着した人権救済システムを整備することを前提に、中央と地方の役割分担を明記すべきである。
 特に中央人権委員会は、地方人権委員会からの個別事案に対する対応と救済の結果の報告に基ずき、その類型化と検証を行い、実効性ある人権救済システムの構築に向けて権限をもった提言機能を発揮できるようにするべきである。

7.[第6の3](人権擁護委員が人権救済に果たすべき役割)について

【意見の要旨】
 人権擁護委員は従来のボランティアから有給化し、障害者がおかれている差別の実態や障害当事者のニーズが理解できる研修を経た見識豊かな人材を任命するべきである。

8.[第6の6](人権救済機関が他に所掌すべき事務)について

【意見の要旨】
 政府への「助言」を明記しているが、弱腰である。政府からの独立性を打ち出すのであれば、堂々と立法・行政・司法機関に対して、対等な立場からの人権政策を「提言」できる役割を明記するべきである。

以上


 

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