人権擁護推進審議会への送付意見


藤本 俊明 <神奈川大学/東京学芸大学講師/ 明治大学大学院
博士後期課程(国際人権法)

他にも指摘すべき点はありますが、以下の10点についての意見を提出しました。
ご参考までに。

(順不同)
1 【人権侵害類型の再検討】
2 【 差別禁止法の制定】
3 【 公権力による人権侵害】
4 【 インターネット上の人権侵害】
5 【 人権に関する行政機構のあり方】
6 【 国際人権法と新たな人権救済制度】
7 【 審議会による人権侵害の現状把握に関する姿勢の問題点】
8 【 意見募集及び公聴会のあり方】
9 【 独立性の確保】
10 【 国際人権法による検証をふまえた最終答申の審議】


【1 人権侵害類型の再検討】
論点箇所 その他
意見要旨
 中間とりまとめの第4「必要な救済措置とこれを実現するための手法」における人権侵害類型(「差別」、「虐待」、「公権力による人権侵害」、「メディアによる人権侵害」の4類型)は、妥当なものであるとは言えず、根本的に再検討する必要がある。

意見
 中間とりまとめは、その第4「必要な救済措置とこれを実現するための手法」において、人権侵害を「差別」、「虐待」、「公権力による人権侵害」、「メディアによる人権侵害」の4つに類型化し、各類型別に救済の措置と手法を列挙している。
 しかし、「差別」と「虐待」は人権侵害事象の現れ方であり、他方「公権力」と「メディア」は人権侵害主体である。この類型化は、異質なものの列挙であり、妥当なものであるとは言えない。例えば、人権憲章又は人権基本法のような法律が制定されていない現状においては、憲法及び日本が締約国となっている国際人権条約(特に国際人権規約)を新たな人権救済制度(機関)における準拠法とすることを含め、根本的に再検討する必要がある。


【2 差別禁止法の制定】
論点箇所 第4の1の(1)
意見要旨
 審議会による最終答申においては、諸外国の取り組みや「国連・反人種差別モデル国内法」などを十分に参照した上で、差別禁止事由と差別禁止分野を特定する実効的な差別禁止法の制定について言及すべきである。

意見
 中間とりまとめは「積極的救済の対象とする人権侵害」について、「対象となる差別や虐待の範囲をできるだけ明確に定める必要がある」としている。しかし、その具体的方策が示されていない。新たな人権救済機関に強制的な調査権限や執行権限を付与する際に、同時に「積極的救済」の対象とされる人権侵害・差別等の範囲を明確にするための差別禁止法などを整備することは、「法の適正手続きの確保」及び「新たな人権救済機関の権利濫用の防止」の観点からも不可欠である。
 差別禁止法の制定にあたっては、諸外国の取り組みや「国連・反人種差別モデル国内法」などを参照し、以下のような差別禁止事由と差別禁止分野の特定に留意すべきである。
【差別禁止事由】人種、皮膚の色、性別、性的指向・性的自己認識、婚姻上の地位、家族構成、言語、宗教、政治的意見、民族的又は国民的出身、年齢、身体的・知的障害、精神的疾患、病原体の存在、遺伝子など
【差別禁止分野】雇用・職場、教育、居住、医療、物品及びサービス提供、施設利用など
 審議会の最終答申では、差別禁止事由と差別禁止分野を明示する差別禁止法の制定に言及すべきである。


【3 公権力による人権侵害】
論点箇所 第4の1の(3)
意見要旨
 公権力による人権侵害については特に聖域を設けず、あらゆる事象を「積極的救済」の対象とすべきである。

意見
 中間とりまとめにおける「公権力による人権侵害すべてを積極的救済の対象とするのは相当でない」との記述は、警察・刑務所・入管のような拘禁施設内における虐待、人権侵害、差別行為を対象外とすることを意味するものであってはならない。この点に関しては、国連の自由権規約委員会の日本政府報告書に関する最終見解(1998年)第10項で、警察・入管職員による虐待の申立について調査・救済できる独立した機関がないことに懸念が表明されたことを想起すべきである。
 既存の各種救済制度が実効的な人権保障のために十分に機能していないという現状を注視し、公権力による人権侵害については特に聖域を設けず、あらゆる事象を「積極的救済」の対象とすべきである。
 また、密室での差別や虐待のような人権侵害が危惧される、警察・刑務所・入管などの拘禁施設に関しては、人権委員会の事前の通知を必要としない抜き打ち的な立ち入り調査権限を明記すべきである。自由権規約委員会の上記最終見解の趣旨も、こうした権限を求めている。


【4 インターネット上の人権侵害】
論点箇所 第4の1の(4)
意見要旨
 最終答申においては、インターネット上の人権侵害に関して、第一次的にはインターネット・プロバイダー業界の自主的な救済手続きの整備を積極的に促すとともに、自律的解決が望めない場合に備えて、新たな人権救済機関による救済手続きについても、より明示的な言及が必要である。

意見
 中間とりまとめはインターネット上の人権侵害について、「実効的な救済のあり方を引き続き検討することとする」と述べるにとどまり、具体的な方策を示していない。インターネット上の差別煽動や人権侵害は、地域を越えて広く全国や世界にまたがる問題であり、より深刻な事態を招くおそれがあることからも、より実効的な救済手続きが必要である。 しかしながら、インターネット上の表現にまつわる人権侵害は、表現の自由の保障と密接な関連をもつ事柄でもあるため、その処理には慎重な配慮が要請される。国家の干渉をほとんど受けることなしに情報の流通が可能となるインターネットは、表現を通じた個人の人格の発展と民主主義の進展に寄与するところが大きく、公権力による介入は可能な限り避けるべきである。
 したがって、最終答申においては、第一次的にはインターネット・プロバイダー業界の自主的な救済手続きの整備を積極的に促すとともに、自律的解決が望めない場合に備えて、新たな人権救済機関による救済手続きについても、より明示的な言及が必要である。


【5 人権に関する行政機構のあり方】
論点箇所 その他
意見要旨
 新たな人権救済機関の設置に行政機構の側から対応するものとして、内閣府に人権庁を設置すること、または人権教育・啓発に関する答申に基づいて設置された「人権教育・啓発中央省庁連絡協議会」を改組、発展し、「人権施策中央省庁連絡協議会」を設置すべきである。

意見
 これまでの割拠主義的な人権行政のあり方、あるいは「縦割り行政」の弊害を是正するために、実効的な独立した新たな人権救済機関の設置に行政機構の側から対応するものとして、内閣府に人権庁を設置し、人権施策に関する総合調整機能を付与することを検討すべきである。
 それができない場合においても、最低限のこととして、人権教育・啓発に関する答申に基づいて設置された「人権教育・啓発中央省庁連絡協議会」を改組、発展し、「人権施策中央省庁連絡協議会」を設置すべきである。


【6 国際人権法と新たな人権救済制度】
論点箇所 第4の2
意見要旨
 審議会に対する法務大臣からの諮問事項は、「国内」の制度に限定してしない点に十分に留意する必要がある。
 最終答申においては、自由権規約第1選択議定書や女性差別撤廃条約選択議定書などのような国際的な人権救済制度の導入に関しても明示的に言及する必要がある。

意見
 中間とりまとめでは、国際人権法に基づく人権救済手続については全く言及されていない。審議会に対する法務大臣からの諮問事項は、「国内」の制度に限定してしない点に十分に留意する必要がある。
 自由権規約第1選択議定書及び女性差別撤廃条約選択議定書などの批准や、人種差別撤廃条約第14条及び拷問等禁止条約第22条に基づく宣言を行なうことにより、いわゆる個人通報制度を利用可能にすることは、人権を侵害されたとする者の救済の可能性を大きく広げることに寄与することになる。審議会における重要な論点の一つとして、早急な検討が必要である。
 最終答申においては、このような国際的な人権救済制度の導入に関しても明示的に言及する必要がある。


【7 審議会による人権侵害の現状把握に関する姿勢の問題点】
論点箇所 第2
意見要旨
 人権侵害の現状や救済の実情に関する認識を深めるためには、関係団体のヒアリングのみでは不十分であり、審議会関係者自らが現場に足を運び、実態調査を行なう必要がある。

意見
 中間とりまとめでは、「人権侵害の現状やこれに対する救済の実情に関する認識を深めるため」、関係団体からのヒアリングを行なったとされている。日本における新たな人権救済制度の創設のために上記のような目的を果たすには、本来的には、ヒアリングのみでは不十分であり、審議会関係者自らが現場に足を運び、実態調査を行なう必要がある。さまざまな理由により、ヒアリングの場に足を運ぶことができない人々も多くいることに留意すべきである。
 新たな制度を設計する審議会関係者自らが現場に足を運ぶような姿勢なくして、真に実効的な人権救済のための制度は確立しえない。


【8 意見募集及び公聴会のあり方】
論点箇所 第1
意見要旨
 審議会による意見募集及び公聴会のあり方については、その広報、開催地に関して問題があるとともに、最終答申に向けた課題として、意見募集及び公聴会の内容がその後の審議会において、どのように扱われ、どのような点が反映したのかということに関する説明責任が求められる。

意見
 中間とりまとめに対する「建設的な意見が幅広く寄せられることを切に希望する」とされているが、審議会による意見募集及び公聴会のあり方について、次の3点から問題点を指摘する。
 第1に、意見募集及び公聴会に関する広報が著しく不徹底である。21世紀を「人権の世紀」とするための大きな出発点の一つである審議であるならば、あらゆる媒体を通じた最大限の広報を実施すべきである。
 第2に、公聴会の開催地に関して、必ずしも市民のアクセスに十分に配慮しているとは言い難い。例えば、仙台や新潟、四国地方、那覇などでの開催を検討すべきである。
 第3に、最終答申に向けた課題として、意見募集及び公聴会の内容がその後の審議会において、どのように扱われ、どのような点が反映したのかということに関する説明責任が求められる。


【9 独立性の確保】
論点箇所 第6の1
意見要旨
 新たな人権救済機関の独立性を最大限に確保するためには、同機関は国家行政組織法上のいわゆる「3条機関」として設置し、所轄省庁を内閣府とするとともに、NGOやNPOなどのような市民社会との協働を組織、制度的に確立することが必要である。

意見
 新たな人権救済機関が実効的な人権保障に寄与するための要素として、同機関の独立性の確保が本質的に重要であることは中間取りまとめにおいても指摘されている点であり、各民間団体などからの報告書、提言等においても、財政、組織、権限、人事等の面などから繰り返し強調されている点でもある。
 新たな人権救済機関が最終的には行政組織として位置づけられる以上、特に組織面での具体的な独立性の確保が重要となる。現行法制度においては、国家行政組織法におけるいわゆる「3条機関」として設置することが最も望ましいと言えるだろう。また所轄省庁については、いわゆる縦割り行政の弊害や、人権の実現、保障が生活のあらゆる場面に関係し、総合的、包括的な活動が必要とされることなどから、内閣府の所轄とすることが最も望ましい。
 また、立法・司法・行政からの最大限の独立性を確保のためには、NGOやNPOなどのような市民社会との協働を組織、制度的に確立することが必要である。恒常的な協議、参加のシステムについて検討すべきである。


【10 国際人権法による検証をふまえた最終答申の審議】
論点箇所 その他
意見要旨
 最終答申作成に向けた最終的な審議においては、国際人権法による徹底的な検証が行われるべきである。これは国連の各人権機関における今後の日本政府報告書の審査に向けても重要である。

意見
 最終答申に向けた最終的な審議においては、新たな人権救済制度(機関)に関して、あらためて国連のパリ原則(国内機関の地位に関する原則)及び同原則に関するハンドブック(国内人権機関:人権の促進と保護のための国内機関の設立と強化に関するハンドブック)、さらに日本が締約国となっている人権諸条約の実施機関(社会権規約委員会、自由権規約委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会、人種差別撤廃委員会)が採択した国内人権機関に関する文書(一般的意見、最終見解など)などに照らした徹底的な検証をする必要がある。また、諸外国や日本も今後参加することになると思われるアジア・太平洋国内人権機関フォーラムの取り組みを参考とすることも重要である。
 このような取り組みは、上記の国連の各人権機関における今後の日本政府報告書の審査に向けても重要である。例えば、ニュージーランド政府は同国のすべての法制度に関する国際人権法による検証(“Consistency 2000”)を実施している。

以上


 

人権フォーラム21Top
人権フォーラム21 Copyright 2001 Human Rights Forum 21. All Rights Reserved.