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以下は、いわゆる偽情報disinformationなどが社会問題化するなかで、こうした問題に対処することを口実として、政府などが過剰なネットへの干渉や検閲などを行なう傾向がみられることも憂慮して、コミュニケーションの権利運動の観点から、APCが出した偽情報問題への取り組みについての見解です。
発行日:2021年8月30日
ページ最終更新日:2022年2月9日
意見と表現の自由の権利推進と保護に関する国連特別報告者が断言するように、偽情報disinformationの普遍的に合意された定義は存在しない。しかし、この問題に関する彼女の2021年の報告書によれば、偽情報とは、害を及ぼすために意図的に作られた虚偽の情報false informationと理解することができ、この定義はユネスコが採用している定義とも一致している。多くの場合、偽情報は組織化され、十分な資源があり、自動化技術などの増幅技術によって強化されている。
一方、誤報misinformationは「意図」の要素を欠いており、無意識のうちに流布されることがある。また、誤った情報を流したり、憎悪など特定の感情を煽ったりする目的で、真の情報が操作され、文脈を無視して使用されるケースもある。この最後の例は、「悪意ある情報malinformation」と呼ばれることもある。
これらの様々な現象はすべて、定義が難しく、関連する行動も分類しにくいため、正確に扱うことは困難である。一部の学者は、ディスインフォメーションを「ウィルス性の手口viral deception」と呼んで、それが3つのベクトル(操作する主体、欺瞞的行動、有害なコンテンツ)から構成されていると指摘している。
問題点
APCは、偽情報を多面的かつグローバルで複雑な問題であり、より広範な情報障害の一症状として理解されるべきだと考えている。偽情報は新しい現象ではないが、デジタル技術、特にソーシャルメディアの利用が拡大されるにつれて、到達範囲、速度、量において新たな次元を獲得している。また、テクノロジーによって、偽情報を作成・拡散する主体も多様化している。
調査によると、偽情報キャンペーンが特にマイノリティや社会的に脆弱な立場の社会集団、人権活動家、環境活動家などを標的にしていることが明らかになっている。APCは、女性だけでなく、フェミニストの闘いやジェンダーに配慮した言説を標的とし、女性を黙らせ、自己検閲に追い込み、市民活動の場を制限するために使われるジェンダーをターゲットにした偽情報に特に関心を寄せている。人種、民族、宗教、その他のマイノリティグループの女性政治指導者や活動家が、白人の同僚よりもはるかに頻繁に標的にされている。APCは、ジェンダーに基づく偽情報は、ジェンダーに基づくオンライン暴力とは別の現象として考えるべきであり、そのためには特定の監視と解決策が必要だと考えている。
私たちが望む変化
APCは、偽情報は複雑で多面的な問題であり、断片的なアプローチでは適切に対処できないと考えている。また、様々な分野間の対話、つまり意思決定の透明性と参加に基づいた対話を必要とするマルチステークホルダーの課題でもある。偽情報を理解するための総合的なアプローチには、より広範な情報のエコシステムを分析することが必要である。このような全体論的アプローチによってのみ、私たちの社会における情報、ビジョン、アイデアの流れを促進する他のスペースやアクターの強化に基づく解決策や予防措置を確たるものにすることができる。そして、特に政策や規制措置におけるいかなる解決策も、真に参加型プロセスによって構築されるべきであり、幅広い犯罪規定は避けるべきである。より具体的には、偽情報に対処するために、APCは以下を提唱する。
- 公共情報への強固なアクセスを含む健全な情報システム、多元的でアクセスしやすい多様なメディア環境、独立した適格なジャーナリズム、安全に考えを表現する可能性。
- 情報の混乱に対処するためのデジタルおよびメディアリテラシープログラム。このようなプログラムは独自に実施することもできるが、国の通常の教育システムのカリキュラムに組み込むこともできる。
- 表現の自由に関する国連特別報告者が過去に述べたように、偽情報に取り組むための刑事制裁のしばしば不釣り合いな使用にはより一層の注意が必要である。
- 特に偽情報に対処するための規制が採用された場合、偽情報の明確な定義と他の情報混乱information disordersとの区別が必要。また、情報混乱を抑制する試みが表現や意見の自由に大きな影響を与える可能性があることを考慮し、国家はその措置に合法性、必要性、比例性の3つの構成からなる検証を適用すべきである。
- 情報混乱という現象をよりよく理解できるように、ハイテク企業が保有するデータや情報へのアクセスを促進すること。
- 政府による、すべての人がインターネットに普遍的かつ安価にアクセスできることを含む、デジタル・インクルージョンの推進。
- 企業のコンテンツモデレーションプロセス(コンテンツ削除要求への対応方法だけでなく、業務全体を通して)の人権に基づくアプローチ。このアプローチは、特に、説明責任、平等と非差別、参加と包括、透明性、エンパワーメント、持続可能性、非恣意性の原則によるべきである。
- プラットフォーム企業と政府による、長期的な課題ベースの偽情報キャンペーン、特に人権、女性の権利、環境問題など特定のグループやテーマに的を絞った偽情報キャンペーンへの特別な注意。
- ジェンダーに基づく偽情報を、ジェンダーに基づくオンライン暴力とは別の、特定の現象と理解し、特定の監視と解決策を必要とすること。
この問題に対するAPCの取り組み
APCの情報操作に対する全体的アプローチには、この現象の根本的な要因に対処する戦略、多次元的かつマルチステークホルダー対応の提唱、そして―表現の自由に関する国連特別報告者に沿って―国際人権がこの現象の対処のための指導的枠組みとして機能するための提唱が含まれる。
APCは、国連人権理事会やその特別手続き、Freedom Online Coalitionなど、この問題に関するグローバルな政策空間での議論に貢献している。
私たちはAPCのメンバーと協力し、ブラジルの偽情報法案のような人権を脅かす偽情報対策を目的とした国家レベルのイニシアチブへの注意喚起のために活動している。
また、ソーシャルメディアのプラットフォームと批判的に関わり、ビジネスモデルを見直し、利用規約やコミュニティガイドラインを国際人権基準に合わせるよう呼びかけている。
地域的な影響
世界各国は、ネット上の偽情報に対する正当な懸念を利用して、インターネットと人々に対する支配を深めている。これらの政策や立法措置には、あるコンテンツが虚偽または誤解を招くものかどうかを判断する裁量権を行政機関に与えたり、コンテンツの作成、公開、流布に対して罰金や訂正、あるいは実刑判決を下す権限を与えているなどの共通点がある。このような場合、偽情報の作成者、流布者、出版者が、こうした規制の主なターゲットとなる。この問題に関するAPCの取り組みが示すように、こうした犯罪化の取り組みはしばしば合法的な表現と違法な表現を区別せず、表現の自由の行使を制限し、政府がより大きな統制と裁量を行使することを可能にしている。
ここ数年のAPCの活動では、マレーシア、シンガポール、エジプトといった国々で生まれた憂慮すべき取り組みも取り上げてきた。アフリカでは、ケニア、ウガンダ、タンザニアなどで情報操作に関する法律や規定が存在している。インターネットの権利と自由に関するアフリカ連合宣言が表明したように、多くの場合、これらのイニシアティブは、いわゆる偽ニュースの犯罪化のために表現の自由の権利を制限する必要性について説得力のある説明ができていない。
COVID-19の健康危機のさなか、パレスチナの緊急事態法は、公式な情報源に基づかない緊急事態に関連したソーシャルメディア上の投稿、発言、ニュースを禁止するなど、法的規定、保護措置、測定可能な基準を持たない広範な用語を含むため、表現の自由とプライバシーを制限する余地を拡げた。
関連するスペースや機関
- フリーダム・オンライン・コーリション(FOC)
- 国連人権理事会とその特別手続き機関
- Facebook監視委員会などの機関を通じた、プラットフォームとの直接対話
- グローバルなインターネットガバナンスフォーラム(IGF)、例えば2021年中にジェンダーによる偽情報に焦点を当てる「ジェンダーとデジタル著作権に関するベストプラクティスフォーラム」を通じて。
- RightsConなどのデジタル権利関連のイベントや会議
- 国レベルでの情報操作関連の立法論議
出典:https://www.apc.org/en/pubs/apc-policy-explainer-disinformation