反安保実 NEWS 第12号

総括対論
「派兵」「再編」「改憲」に抗する運動の連携の継続と政治的討論の活性化を
――第10期から11期へ向けて
       ◆天野恵一+国富建治     

  

 
沖縄連帯と反安保、さらに反派兵の一〇年

天野 九六年に、日本の日米安保体制を軸にした戦争国家化に抗するために、高揚する沖縄での反基地運動との連帯と「ヤマト」での反安保闘争をどう作り直すかという問題意識をもって、この実行委員会を立ち上げて一〇年になる。最初は、沖縄闘争との連帯運動が軸で、公開審理や現地闘争への参加――「ゾウの檻」の使用期限切れの時には、百数十人を超えて参加するといった、今からでは考えられない規模も含めて――などの活動に取り組んで、9・11以降のアフガニスタンやイラク戦争開始後は、反派兵運動を軸にした、派兵現地の運動体との連携を、対防衛庁行動を中心にして取り組んできた。
 沖縄との連携は、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックを中心に結成された「辺野古へのボーリング調査・海上基地建設を許さない実行委員会」(現在は、「辺野古への新基地建設を許さない実行委員会」)へ協力・参加していくことで継続されている。
 イラクへの派兵反対運動は、七月に陸上自衛隊は撤収したが、航空自衛隊は任務が拡大されるということで、一二月に派兵の地元・名古屋が呼びかけた全国行動に参加するとともにそこで反派兵の全国交流合宿を持った。この反派兵全国交流合宿もはじめは東京の呼びかけで東京中心だったが、派兵の現地行動にあわせて集まるという反派兵の全国的な展開としてもたれている。その名古屋の会議の中心課題のひとつは、米軍再編問題では、基地を持つ地域での闘いはかなり強力にあって、それが軸となって反再編の連携も形作られているが、それらと反派兵の動きをどう繋げていくかということだったと思う。陸自の撤収で一段階を終えた「派兵」への抗議の取り組みと「再編」の問題をどう繋げていくのか。
 もうひとつの課題は、憲法改悪問題について。安倍首相が改憲を明言していること、国民投票法の国会審議も大詰めにきている局面で、安保問題は当然、憲法(9条)問題でもあるわけで、それにどう取り組んでいくかということ。運動としては、九五年の沖縄の「島ぐるみ」闘争開始前後の盛り上がりの時とくらべて、全体的に疲弊していて、エネルギーもあまりない。課題はめじろ押しで、反基地や反派兵の運動は各地にあるわけだけど、運動の力を全体的に高めていくことが非常に難しい時代に入ってきていることははっきりしている。そのなかで、「派兵」「再編」「改憲」そして「沖縄連帯」もはずさずに反安保の次のステップを考えていかなければならないことは確かだ。
国富 第10期の中心テーマは「米軍再編」だったと思うんです。二〇〇五年二月に「2+2」の最初の報告が出て、一〇月にいわゆる「中間報告」が出て、〇六年五月に「最終報告」が出る。その「米軍再編」をどう捉えるかということが最大のテーマだったと思います。
 反安保実の始まりが九六年で、橋本・クリントンの日米共同宣言の年。そこで日米安保のアジア・太平洋化がはかられ、それに基づいて九七年の新ガイドライン、九九年の周辺事態法へとつながっていく。さらに二〇〇一年の9・11が転機で、米国の対テロ戦争に小泉首相が全面的に追随して、アフガン、イラクへ派兵していく。米軍再編も対テロ戦争を担うグローバル戦略の中で出てきている。そこにわれわれはどう対峙していくのかが、問われてきた。
 「米軍再編」に対する闘いは、再編の対象となっているところ――沖縄、岩国、座間、相模原など――の自治体・地域レベルでの闘いについては、そこに連帯したり、紹介したり、繋げていったりする取り組みは非常に重要だ。ただ、全国的に政治的焦点をどうつくっていくかということになると、各地での闘いを超えたところで何かできる状況にはなっていない。しかし今度の国会で米軍再編法案が出てくる。防衛庁の省昇格法案でもそうだったし、いずれでてくる恒久的派兵法でも、そして最終的には改憲、ということになってきた場合には、それ自体をひとつの政治キャンペーンとして取り組む行動・運動をどうつくっていけるのか。そこは反安保実が提起しなければならないことだろうと思いますね。

政治論議の必要性

天野 反安保実自身の固有のテーマをどこに設定するのか、ということはいつも考えてやってきた。派兵問題での防衛庁への行動は、そういう政治的意思表示であった。派兵現地の闘いと切れずに、しかし、東京で闘う。でもそこの政治闘争の力量が一番落ちてしまっている。国会内での反対勢力が極端に落ちている、そのことにも規定されている。そうした困難な課題をやらざるをえない場所に置かれている。
 同時に9・11から米軍再編に至るプロセスでも、米軍再編の全体的な政治性格の認識をめぐる論議がものすごく立ち後れてしまっている。アメリカと日本の関係がどうなってきているのか、米国の世界的な軍事戦略とその中での日本の位置づけがどうなっているのか、ある程度大きな話の次元で歴史的な整理や政治論議がなされなさすぎている感じがする。そうした論議の復活と政治的な闘争を組み直していくことをいっしょにやらないといけないと思う。
国富 九九年の周辺事態法の時には、反安保実や全国fax通信などで一生懸命、国会行動を取り組んだ。審議の度ごとに、議面行動を入れてみたり、国会請願行動などを中心になって呼びかけたりした。今は、その力量はない。国会行動は改憲や、共謀罪、教育基本法などそれぞれの課題で取り組まれているのだけれども、今度の防衛庁の省昇格法案やテロ特措法の延長などの問題は、反安保実が呼びかけて取り組み、国会行動を通じて焦点化していく力量がなくなっている。そこのところをどう作り直していくのか。課題の大きさからいってもそれはけっこう大変だと思います。
天野 でも作り直していかなきゃいけない。その時の、その課題についての分析視角をちゃんと持って、討論していくことをセットしていくことが必要だと思う。現在は、防衛庁への行動だけで、アゴが出ている状況だけど。
 議論の復活と政治闘争でいえば、「派兵」の問題では、九月の反安保実の集会で、武者小路公秀さんによる、「反テロ戦争は、ぶっ壊すだけでなく、復興再建のプロセス(ビジネス)も視野に入れて進めている」という指摘は、重要でありながら、そうしたアングルから派兵を問題化していくということがよく出来なかった。「米軍再編」の問題も、対テロ戦争の拡大の結果が招く米国本土に対する反撃を防衛するために、日本も前進基地として使う、アメリカ側から見るとそういう日米関係に露骨に入っている。
 一方、日本側は、小泉から安倍への流れで、安倍でハッキリするけど、彼は神道政治連盟の親玉で、大東亜共栄圏正当化の論理で生きている。大日本帝国ナショナリズムの現在的復活・天皇を中心とした「美しい国」の復活をスローガンに、首相になっている。首相になってその路線が一〇〇%は出せないで右往左往しているが、本音はそこにある。そうでありながら、対米関係では、完全な従属で、米軍の補てんのための自衛隊派兵、米国本土防衛のための基地提供、ふつうのナショナリストだったらアメリカとケンカをしなければならない局面で着々と協力をしている。グアムの問題でもそうで、日本以外にあるアメリカ軍基地を莫大な日本の予算=税金を使って拡大・強化するというおかしなことを平気で進めようとしている。
 そうした日本政府のインチキなありようと、対テロ戦争以降の米軍再編の流れにある日米安保体制の変容のありよう(日米安保を超えた日米同盟の問題)に対する批判の原理的な視角の立て方について、議論して深めていかないとまずい。グアムの米軍基地強化の問題は、関連する法案の国会審議をひとつの焦点にしつつ、そうしたことを運動的に追求・問題化していく条件にもなるので、戦略構想を持った討論を組織することも含めて、反安保実の次期の課題としてきちっと取り組んでいきたい。
国富 武者小路さんの「復興ビジネスまで含めて対テロ戦争」について言うと、最近のアメリカのイラク研究グループが提言した「イラク・レポート」でも、現在のブッシュ戦略一本やりでは、対テロ戦争自身が完結しない。内戦状態の大混乱のなかでは、産軍複合体にとっても復興に手が付けられず、ビジネスが入り込む余地がない。そこをなんとか修正しなければならないという意識が非常に強いのではないか。
 それと極右的天皇制ナショナリズムが、どこのところで活性化してきたのかというと、アメリカの世界戦略が、一方では対テロ戦争にあるわけだけれども、他方は、中国を最大の潜在的脅威と位置づけて、その観点から、日本と韓国、そしてオーストラリアなども含めて同盟関係を組み立てなおし、封じ込めをはかる。その流れの中で、例えば中西輝政のような、反中嫌韓極右ナショナリストが、それに乗っかった格好で台頭している。そういう構造だと思う。中西輝政の主張では、中国の覇権主義とアメリカの覇権主義があって、中国の覇権主義に対抗するためにアメリカの覇権主義を利用すべきだと。そこでは、極右ナショナリズムが、親米と矛盾していない。
天野 でも、「利用する」という主体になんかなっていないんだよな。日本の財界・ブルジョアジー・支配階級自体が、新ガイドラインから対テロ戦争への時間の流れのなかで、アメリカに追随していくことを選択したと思うんですね。だから、軍事化にしても、自律的な戦力の保持ではなく、アメリカに従属するかたちで進め、世界大へ展開できるようなものにする、そういう選択をした、と。一部に反米右翼の言論や、江藤淳が死ぬ直前に「第二の占領が始まった」と語ったり、そうした右側の中の反発にもそれは表現されている。
国富 だから核武装論議にしても、もともとは福田恒存とか清水幾太郎が言っていて、中西もずっと言っていた。最近の中川や麻生の発言も、アメリカから自立した核武装が出来ないということを前提とした上で、しかしその中で日本の軍事国家化を推進していくためのシンボリックな旗を掲げたようなことだろうと思う。
天野 それはおそらくアメリカが許容しないでしょう。それ自体がマンガ的な表現形態になっている。
国富 でも,もしかしたらアメリカが許容するという計算があるのかもしれない。北朝鮮の核武装を認めた上で、日本にも核武装をさせるという……。
天野 アメリカはそう簡単には許容はしないよ。こっちは忘れていても、向こうは、日本と戦争したことを忘れていない(笑)。でも、僕は、今言ったような論議をいろいろな問題の中で詰めていくことが必要であると思う。向こうが歴史的にむちゃむちゃになってやっていることはひとつのネックになっているのだから。安倍の集団的自衛権の定義の見直しについても、それは軍拡に事実上繋がってさらなる戦争国家化だ、という批判を僕たちもしてきた。また今後もしなければならないのだけれども、それだけではすまない問題があって、そもそも日米が、それぞれ主権国家として相互に集団的自衛権を行使し合うという関係ではないのに、「集団的自衛権」という言い方をする。それは、日本が軍事的に自立しているというイメージ操作であって、米国に軍事的に従属していることを隠蔽する機能がある。そうした言葉の使われ方も問題にしていく必要がある。
国富 〇六年二月の米国のQDR(四年ごとの戦略見直し)の文書で特徴的なのは、「同盟国にアメリカの戦争を戦わせる」「同盟国の軍事力をアメリカが使用する」といったことが露骨に打ち出されている。
天野 そこでは「同盟」という言葉がマジック・ワードになっている。
国富 アメリカが「自国の戦争を同盟国にやらせる」というわけだから集団的自衛権もへったくれもない。

沖縄・グアムと結び、
米軍再編関連法に抗する闘いを

天野 そういう問題ですよ。そういうことを具体的にひとつひとつ論理化し、政治問題化していく、そういう政治討論を闘争のなかでつくっていかなくちゃいけない。それとともに、さっき国富君が言った、最低限の国会闘争――法案攻防になるわけだから――を、反安保実のテーマとしてきちっとやれるように再建していくことが必要なことではないか。グアム関連の問題では、6・23の沖縄へ、APA―Jの活動もあり、二年続けてグアムから反基地活動家を呼んだ。だから、グアム・沖縄・「ヤマト」が連携して、国会での米軍再編関連法案に取り組むことはある程度やれそうな気がする。ミサイル防衛問題については、核とミサイル防衛にNO!キャンペーンとともに、PAC3配備反対の署名に取り組んだりしているので、いま話したような角度で全体系的に整理し直し、積極的に問題化していく作業を押し出していくことが必要ではないか。それがやり切れれば、次期は、意味のある期になるのではないか。
国富 グアムの基地建設のための予算は、次の国会で出てくるわけだから、そのあたりでは辺野古実の人たちともじっくりと討論して、連携して国会行動をやっていくという格好にしていかないとダメだと思う。こちら側からそうしたことを呼びかけていくようにしなければならないのかなと。
天野 そう、別に僕たちだけで主体を立てる必要はなくて、共闘関係を組み立てていくという自覚を持って、連携できるところ、協力できるところとは、できるかぎり一緒にやっていくことをしていかなければならないでしょうね。


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