小泉政権が先の国会に提出した防衛庁省昇格法案が継続審議になっている。一見地味な法案であり、字面の変更程度と思われているようだが、これは奥の深い法案だ。
先ず「庁」と「省」の法制度的な違いを確認する。防衛庁は、防衛庁設置法第2条に、「内閣府設置法第49条第3項の規定に基づいて、内閣府の外局として、防衛庁を置く。防衛庁の長は、防衛庁長官とする」と規定されている。 防衛省は、防衛省設置法案第2条に、「国家行政組織法第3条第2項の規定に基づいて、防衛省を設置する。防衛省の長は、防衛大臣とする」と規定されている。
ここで注目すべきことは、国家行政組織法だ。同法第3条第3項は「省は、内閣の統括の下に行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省にその外局としておかれるものとする」。省の大臣と外局の長(防衛庁長官)の権限は大きく差別化されている(同法第11条〜第13条)。その違いは、「各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令の制定、改正、又は廃止を必要と認めるときは、案をそなえて、内閣総理大臣に提出し、閣議を求め」ることができるが、長官は、それぞれの主任の各省大臣に対し、案をそなえて、省令を発することを求め」なければならない。つまり防衛庁長官は、主務大臣(内閣府の長である内閣総理大臣)を通さなければできないのだ。またこれは予算編成の権限も同様だ(財政法)。
政令には、防衛庁組織令、自衛隊法施行令、武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律施行令等があり、部隊編制、防衛秘密、審判官(憲法第76条第2項に違反する特別裁判所?軍事法廷に道を開きかねない)等を規定している。今後、防衛大臣の判断で省令を決めることができるとなれば、法律での規定は、より一般的なものとし、具体的な事項の多くを省令で決められるように改訂する動きが出てくるだろう。
防衛大臣の権限の強化、自立化は、現行自衛隊法第8条「長官は、内閣総理大臣の指揮監督を受け、自衛隊の隊務を統括する」を、「防衛大臣は、この法律に定めるところに従い、自衛隊の隊務を統括する」との案文に、はっきりと現れている。このように防衛大臣の権限が強化されれば、それだけ幹部自衛官(制服組)の意向が国の軍事・政治に直接反映しやすくなるだろう。従来であれば、長官に対してばかりか、内閣総理大臣にも働きかけなければ、事が進まなかったのだから。この問題はシビリアン・コントロールを制度的に侵食していくものとなるだろう(纐纈厚『文民統制\\自衛隊はどこへ行くのか』岩波書店、参照)。
しかし今回の改訂案には、防衛大臣の補佐機関としての参事官制度(官房長、局長等の背広組)と統合幕僚長との関係には踏み込んでいない。このため、これでは不十分だと制服組(OB)から批判が出されている(日裏昌宏「『統合幕僚監部』発足の意義と問題点」『軍事研究』〇六年六月号、参照)。
これまで組織論に関する批判を行ってきたが、もう一つの大問題は、防衛省昇格法案をステップにして、「専守防衛軍」から「海外派兵軍」へと全面的な大転換を図る意志が埋め込まれている点だろう。安全保障会議設置法改訂案により、同諮問事項に周辺事態への対処及び国際平和協力活動を追加し、自衛隊法の雑則に規定していたPKO法、邦人救援、周辺事態法などの関連条項を自衛隊の「本務」に組みこもうとしているのだ。今後、海外派兵恒久化法案とセットになって、「外征軍」への強化を促進するものとなるだろう。
同法案を廃案に追い込もう!!
(やまもと ひでお/派兵チェック編集委員会)
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