反安保実 NEWS 第11号
(イラク・レバノン戦争と国連・自衛隊を問う9・29集会報告)
イラク・レバノン戦争と国連・アメリカ
       武者小路公秀告
   


 「イラク・レバノン戦争と国連・アメリカ」というテーマで問題を提起したいと思います。英語で言いますとユナイテッド・ネイションズとユナイテッド・ステイツというとても似た言葉の団体でありまして、この間の関係をどう考えるのかが、私が話をする柱になると思います。私も国連大学のお手伝いをして国連に関係がありますが、あまり国連を信用して「国連主義」などと言わないほうがいいと思っています。色々なファクターを疑ってかからないと「反テロ戦争」の中で私たちの立場をハッキリさせることはできないと思います。話の結論から先に言ってしまいますと、GPPAC*のアジア支部が、9・11以後に発表した文章に非常にはっきりしたことを書いています。
 「我々は反テロ戦争というものに取り組まざるを得ない現状にあります。ところで反テロ戦争の中で誰が敵でしょうか。テロでしょうか。違います。反テロ戦争の中で我々が敵として闘わなければならないのは、反テロ戦争そのものであります」
ということを言っています。
 「反テロ戦争」を戦争でないように言って誤魔化し、日本は「反テロ戦争」の中の戦争でない部分に参戦しながら、戦争の部分には参戦しない、と今まで言ってきました。これから戦争の部分にも参戦するために「集団安保」とかの考え方の論議が出てきますが、アメリカを中心とする軍事戦略が今までの軍事戦略とまったく違うものになってきている、ということをまず確認しないと、時代にそぐわない議論を日本の中ですることになってしまう。
 「反テロ戦争」の戦場と戦場でない「銃後」とがあると、これまで考えられてきましたが、「反テロ戦争」は、そういう戦争ではなく、戦場の状態が違うだけで、全てが戦場になっている。「戦争である部分と戦争でない部分がイラクにある」というのはまったく馬鹿げた話です。私たちはマスコミにだまされて、イラク戦争が終わり、臨時政府ができた後でシーア派とスンニ派との間の内戦が始まったと考えていますが、これは国内紛争にすり替えることでイラクからサヨナラしようとアメリカが最初から考えていたことだ、と私は思います。
 「反テロ戦争」には二つの特徴があります。
 その一つの特徴は、テロリストがいる所が戦場となる。私は、テロに対して理解を持っていますので、テロのために宣伝をしていると思われたら私は共謀罪でつかまる、ということになりますと、この会場は「反テロ戦争」の戦場だ、ということになる。
 もう一つの特徴は、「反テロ戦争」が一つのサイクルになっている、ということです。一般的には、全ての所を監視し、悪者をやっつける態勢をつくるわけですが、一部の場所で実際の戦争をやる。戦争をして人びとを殺し、国を破壊し、そして再生する。壊すときは、武器を使うので武器の商人が儲かるし、再建のときには、外国籍企業が儲かる。壊して儲け、再建して儲ける、というサイクルが「反テロ戦争」にはある。ですから我々が「反テロ戦争」に対応するには、その全体を見ていかなければならない。国連の対応で問題なのは、「反テロ戦争」の一部には反対をしますが、再建のときには協力をしてしまっている。それがイラクの場合に最もはっきりしていて、国連の失敗であったと思います。国連がイラクに入るときにアメリカの占領軍を追い出すなり、武装解除するなりして――とてもそんなことはできないわけですけれども――アメリカの代わりにアラブ諸国やイスラム諸国の平和維持軍が入る。その上で選挙をしてもいいですが、アメリカの占領から国連の下での平和回復の動きを作ることができれば、こんなことにはならなかったはずです。
 イラクでの「自爆テロ」もアメリカの占領に反対して、外国から人びとが入って来て「自爆攻撃」をしているので、報道されているようなシーア派対スンニ派の対立というように簡単には片づけられないことではないかと思います。
 国連も一部で「反テロ戦争」に加担し、日本は最初からアメリカに協力した。私たちも部分的に協力することを絶対にやめなければいけない。二〇〇二年のアメリカの「国家安全保障戦略」では、テロと「ならず者国家」が大量破壊兵器を持ちそうになったら先制攻撃をする、と書かれている。それが「反テロ戦争」の肝心なところで、先制攻撃をすること自体が国際法違反の考え方です。
 国防総省の安全保障研究所センターのホームページを見ると、基本になることが二つある。その一つは、国際法の解釈を変えて先制攻撃をグレーゾーンとして正当化しようとしている。もう一つは、米軍再編と関係しますが、「反テロ戦争」の戦略では世界中が戦場ですから、自由に軍隊が動ける環境を作る必要がある。そのために日本に色々な法律――例えば有事法制とか共謀罪――を作らせるということも戦略の一部にある。「ガンに対する戦争」「エイズに対する戦争」というようにマスコミに「戦争」という言葉を多用させて、全ての戦争は悪者をやっつけるための戦争である、という意識を持たせて支持を取り付けようとすることも戦略の中に入っている。
 石油、ガス、ウランなどのエネルギー問題ともつながっている。それは西アジアから東アジアにかけての「不安定の弧」の地域に重なっていて、そこが全部「反テロ戦争」の戦場になっていることも確認しておきたい。西には、イラン、東には朝鮮民主主義人民共和国が「ならず者国家」として活動している。
 これに関連して皆さんにあえて申し上げたいことがあります。私たちは民主主義はとても大事だと考えています。北朝鮮もイランも民主主義の国ではない、と言われていますが、アメリカのような強い国に対抗するためには、強い指導者がいなければ対抗できない、ということがあるかも知れない。「反テロ戦争」の仕組みを考えると、民主主義は良くて、民主主義に反対するのは悪いというように考えると、国際法に違反しているアメリカにだまされてしまう。核実験をしたりミサイル実験をするのは良くないけれども、それは国際法違反ではまったくない。
 もう一つ、テロはいけないと私たちは信じ込んでいます。アラブ世界、イスラム世界の人たちが、テロをいいとは誰も思っていないが、大学に入って出世できる道を歩んでいる若者が、「自爆テロ」を志願することにその世界の人たちが一定の尊敬の気持ちを持たざるを得ない、ということを私たちは理解しておかなければならないと思います。一番ひどいのは、「自爆テロ」ではなく、イスラエルの「国家テロ」であり、それを支えているアメリカの「国家テロ」である、というような「テロとは何か」をわきまえておかないといけないと思います。
 国連はかなり「反テロ戦争」に協力していますが、その中心となって近く国連事務総長を辞めるアナンさんを、私はかなり尊敬しています。彼はイギリスの支配下のガーナで育った役人です。植民地の官僚だった彼は、支配者の言うことを聞きながら、何とか裏で自分たちの自由を少しでも拡大していく、という苦労をしてきた人です。その人が国連事務総長であったお陰で、表向きはアメリカの言うことを聞きつつ、何とか裏では貧困を撲滅するといったかたちで、国連をいい方向にもって行こうとしてきました。国連という所は、そういう人たちがたくさんいて、その人たちは「反テロ戦争」があまりひどいことにならないように押し止めていこうということをやっています。しかし、それは「反テロ戦争」を有利にしていくことになっているので、私たちは国連に反対をしていくことも必要だと思います。
 国連の中にも反対するために一生懸命に活動をしている人たちがいます。例えば私もお手伝いをしていたのですが、テロや戦争で人権が侵されることを防ごうと「人権委員会」活動をやってきた。その委員会を、アメリカが理事会にすることを非常に支持して「人権理事会」になった。アメリカの狙いは、国連を改革して、三つの機関を「反テロ戦争」に利用することだった。「反テロ戦争」は悪者を認定する必要があるため、「人権理事会」で「どこの国が悪者であるか」を認定し、「安保理事会」で「悪者をやっつけましょう」と決めて、アメリカを中心にやっつけた後、「平和構築委員会」で戦後の復興をやる。復興のためにNGOだけでなく、企業もこの委員会に参加する仕組みができていました。ところがアメリカが、ずっと睨みを利かせようとした「人権理事会」は、理事国の任期が三年に決められるなどのことで、アメリカの悪巧みが見事に跳ね返されたため、アメリカは理事国にならなくなりました。その代わりに日本が理事国になってアメリカの代弁者になろうとはりきっています。
 そこで私たちは「反テロ戦争」を全面的に否定する運動をする必要があります。ラテンアメリカでは、ベネズエラのチャベス大統領を筆頭に色々な国々が「反テロ戦争」や「ニュー・リベラリズム」等に反対する機運が盛り上がっています。そうした動きとも連絡を取りながら、自衛隊が戦場に行くときだけに反対運動をするのではなく、「反テロ戦争」への全面的な反対をする必要があります。日本の中でも、正規に入国してきたイスラム系の人びとが外も歩けないような状況ができています。その問題にも我々は反対すべきで、「反テロ戦争」の一部だけに反対するだけではなりません。日本は「人間の安全保障を大事にします」と言っているのなら、人間の安全を最も侵すことですから、それに反対するのは日本の国是であるはずです。イラクに自衛隊が水を配りに行くようなばかばかしい「人間の安全保障」の解釈をやめて、「アメリカのやっていることは人間の安全を脅かすから反対だ」というように考えなければいけないのではないか、ということを問題提起させていただきます。
*GPPAC\\The Global Partnership for the Prevention of Armed Conflict(武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ)は、アナン国連事務総長の呼びかけに応えて欧州紛争予防センター(ECCP、オランダ)が中心となり二〇〇二年に開始された紛争予防のための世界的NGOプロジェクト。世界一五の地域プロセスが、それぞれ紛争予防の「地域提言」を作成。国際プロセスは、それらをまとめて「世界提言」を作成すると共に、〇五年七月にニューヨーク国連本部で世界会議を開催し、提言を国連事務総長宛に提出した。

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