反安保実 NEWS 第１０号
視点・論点 ⑤
小泉靖国参拝と「米軍再編」
�\何が、どのように米国に「売り渡された」のか考えてみよう
天野恵一
七月二〇日、東京裁判のＡ級戦犯が靖国神社に「合祀」されていることに、昭和天皇ヒロヒトが不快感を示し、それで靖国参拝をやめたと発言しているメモ（冨田朝彦元宮内庁長官のもの）が公表され、マスコミは大騒ぎという状況がつくりだされた。ウンザリする分量のニュース記事（コピー）を車中で読みながら、八月五日、私は広島に向かった。「ヒロシマ平和のつどい２００６」行動への参加のためである。
五日の夕方の集会は、「米軍再編」への具体的な批判が中心の集まりであった。六日早朝、「市民による平和宣言」を例年同様「平和公園」でまくために動き出し、コンビニで『中国新聞』を買うと、一面の左端に以下のような記事があった。
「第二次世界大戦末期、東条英機首相（兼陸相）＝当時＝が『戦没勤務に直接起因』して死亡した軍人・軍属に限るとする靖国神社合祀基準を陸軍秘密文書で通達していたことが五日までに分かった。／文書は、靖国への合祀は『戦没事変に際し国家の大事に斃れたる者に対する神聖無比の恩典』と位置付け、合祀の上申は『敬虔にして公明なる心情を以て』当たるよう厳命。原則として戦地以外での死者は不可としている。元首相自身の戦中の通達に従えば、戦後の同元首相らＡ級戦犯は明らかに『合祀の対象外』となる内容だ。／文書は一九四四年七月一五日付で『陸軍大臣東条英機』名で出された『陸密第二九五三号 靖国神社合祀調査及上申内則』。原稿用紙二十九枚分で、原文のカタカナをひらがなに直して戦後に書き写したとみられる。八〇年ごろに旧厚生省が破棄処分にした書類の一部として作家の山中恒氏が古書市で入手した。／防衛庁防衛研究所の史料専門官は『旧陸軍の秘密文書の書式に合致し、内容にも矛盾がない』と原文を写したものにほぼ間違いないとしている」（傍点引用者）。
富田メモに続いて東条秘密文書の発見である。「Ａ級戦犯を合祀」している靖国神社へ小泉首相は参拝に行くべきではない、というキャンペーンのもう一つのネタが示されたわけだ。私は首相参拝には、もちろん反対だが、「Ａ級戦犯」がそこに合祀されているからというのが理由ではない。靖国神社が日本の植民地支配と侵略戦争を正当化している天皇の神社であるから、そこへ行くべきではないのだ。靖国神社は「Ａ級戦犯」を「合祀」するのがふさわしいような神社であり、そこへの参拝は憲法の政教分離の原則をふみにじる行為であるからこそ参拝に反対なのである。
八月一五日、小泉首相はそれでも靖国神社参拝を強行した。毎年実行できなかった「公約」を最後の年に実現するためだと語りながら。
この歴史的愚挙とともに彼は「ブッシュ大統領が反対しても行きます。大統領はそんな大人げないことは言いませんが」というセリフを吐いて見せた。
私は、この発言を耳にしたとき、『毎日新聞』の元旦の一面の「米政府『靖国』に懸念」の見出し記事をすぐに想起した。そこにはこうあった。
「ブッシュ大統領が小泉純一郎首相の靖国神社参拝による日中関係の悪化に懸念を強め、アジア戦略の見直しを日本政府に強く求めていたことが明らかになった。昨年11月20日の北京での米中首脳会談で、ブッシュ大統領は靖国参拝を踏まえて歴史的問題についての対話の促進を求めた」。
ブッシュは小泉に参拝中止を直接求めることはしなかったが、婉曲に、小泉にいわせれば「大人げない」要求をすでにしていたのである。とすると、「八・一五参拝」時の小泉の余裕綽々たる、このセリフは何を意味しているのか。この間のアメリカでのブッシュとの会談を含めて、自分の「メンツ」のための参拝をブッシュ（アメリカ）に公然と批判させないようにする、政治的取引を小泉はかさねていたのではないか。日本側が、信じられない巨額の移転費を保障しつつ自衛隊が米軍に組み込まれてしまう「米軍再編」なるものが、この間に挟まっていた事実に注目しておくべきであろう。このイカれた首相のメンツのために、何が「売り渡された」のかを、私たちは具体的に明らかにする必要がある。もちろん、政府もマスコミも、その決定的な事実を隠し続けるだろう。とすると、私たちはあれこれ推論をたてて論じてみるしかない。
右翼は、私たちのデモや集会に殴り込んでくるとき、「売国奴」という非難の言葉を常に投げつける。しかし、考えてもみよ、残念ながら「国」を売る力など私たち庶民にあるわけがない。国を売る力を持っているのは常に権力者たちである。私たちにできるのは彼らが何を、どのように「売った」のかを、推論をたてて具体的に問題にしていくことだけである。
（あまの やすかず／反天皇制運動連絡会）
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