七月一二日からのイスラエルのレバノン攻撃は、八月一一日に採択された国連安保理決議一七〇一に従って同月一四日に一応の停戦となった。
この間の状況を非常に大ざっぱにまとめると以下のようになるだろう。
(1)イスラエル=敗北。イスラエル世論としては約八割が攻撃支持との報道があるし、反戦の声は非常に低調だったようだが、しかし、まずもって軍事的には、ヒズブッラー(神の党)からの長射程(最大で七〇キロ以上)かつ大量(三〇五〇発)のミサイル攻撃を予想できなかった。また携行式対戦車ロケット砲による攻撃で「世界最強」と言われた主力戦車メルカバに、これまた予想以上の被害が出た。軍兵士の死者が一一六人と多かった。さらには明確な軍事目標を達成できなかったという以前に、明確な目標がなかったのではないか(首相オルメルトの発言は、兵士の奪還〜ヒズブッラーの壊滅〜ヒズブッラーのミサイル発射能力を削ぐ、へと変化していった)との主張もあり、首相およびペレツ国防相の責任を追及する動きもある。
さらには軍の制服組トップのハルーツ参謀長が、七月一二日のヒズブッラーによる兵士拘束事件の三時間後に個人所有の株を売却しており、これがインサイダー取引にあたるとの疑惑すら発覚した(攻撃開始でイスラエル証券市場では株価は急落した)。これらの要素も含めて、今後イスラエル政界の混乱も予想される。オルメルトがシャロンから引き継いだ「西岸地区からの一方的撤退」(併合・分離・隔離)路線も危うくなる可能性が高いだろう。
(2)ヒズブッラー=暫定的な勝利。イスラエルへの大量のミサイル攻撃などで存在感を示した。またイスラエル地上軍の北上を、事実上阻止し抜いた。
とはいえ、二〇〇四年九月二日に採択された国連安保理決議一五五九(ヒズブッラーの武装解除が求められている)の完全な履行が、今回の停戦決議(同一七〇一)でも確認されており、アメリカ合州国からの圧力も予想される。もちろんイスラエル軍によるインフラ破壊の被害は甚大だ。レバノン国内での政治的不安定さが増す可能性はある。
(3)パレスチナ人たち=苦闘が続く。昨年夏のイスラエル軍と入植者の「一方的撤退」はガザ回廊全体に対する新しい「分離/隔離」政策であり、六月二七日からの大規模再侵攻以前からイスラエル軍による爆撃や襲撃はずっと継続していたという点は、まずもって確認しておきたい。西岸地区での軍事的な攻撃や入植者による襲撃なども続いている。もちろんと言うべきか、七月一四日のレバノン/イスラエル間の停戦は、イスラエル軍によるパレスチナ攻撃には無関係だ。
ただし、パレスチナ内部では、「捕虜憲章」(あるいは「国民憲章」)【注】を基盤にした「民族統一政府」実現に向けたファタハ(パレスチナ解放運動)とハマース(イスラーム抵抗運動)の協議が継続している。諸党派が何らかの形で一致点を見出して、闘争を建て直してゆく可能性はあるだろうと思う。
一方、今回のレバノン攻撃で、レバノン国内のパレスチナ難民の状況が、日本のマスメディアではほとんど報道されなかった。しかしかなりの被害が出ているだろうことは十分に予想できる。ヒズブッラーのミサイルでイスラエル国内のパレスチナ人たちにも実際に死者を含む被害が出たこととも併せて、パレスチナ人たち自身の自決権、難民の帰還の権利などについても、今後さらに注目していく必要がある。 八月一七日 記
(おかだ つよし/派兵チェック編集委員会)
【注】『派兵チェック』(一六六号)の拙文、および『季刊ピープルズ・プラン』(三五号)に掲載の拙文と「国民憲章」の全文を参照のこと。
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