「米軍がグアムとハワイで戦力強化を進めている。アジア・太平洋地域での米軍再編の一環で、グアムに機動部隊を創設し、ハワイへの原子力空母の配備計画も浮上している。中国の軍備拡大や核問題を巡る朝鮮半島情勢をにらみ、『日本・グアム・ハワイ』を軸とする戦略構想が一段と鮮明になってきた」。七月四日の毎日新聞夕刊に載った記事だ。
この記事は、米国防総省が公表した計画を紹介しつつ、現在、攻撃戦力を置いていないグアムのアンダーソン空軍基地に、二〇〇八年までにテロや地域紛争で緊急展開する機動部隊を創設するとしている。戦闘機四八機、爆撃機六機を交代で配備し、無人偵察機三機、空中給油機一二機を常駐させるというのだ。この機動部隊は地球規模の緊急展開にも対応するもので、無人偵察機はマラッカ海峡から台湾海峡までカバーする。海軍はハワイから原潜三隻を移転し、一連の再編により大幅な戦力アップとなる。
一方ハワイでは、すでに空軍が五月の段階でヒッカム空軍基地にグアムの第一三空軍司令部を移転し、「戦闘司令部」を創設して司令部機能を集中させた。海軍は、アジア・太平洋地域に新たに原子力空母一隻を配備する方針で、その母港としてハワイが最有力視されているという。このアジア・太平洋規模の米軍再編・強化に関してヘスター太平洋空軍司令官は六月の会見で「中国軍の動向を懸念したもの」と述べた。
アフリカの東海岸から東アジアにいたる「不安定な弧」を戦略的に見据えた米軍再編において、アメリカが長期的な「脅威」の対象としているのが急速に経済的・政治的・軍事的パワーを増強させている中国であることが、ますます明らかになってきた。
この対中国を意識した戦略的展開は、ミサイル防衛(MD)の面でも見て取れる。ブルース・ギャグノンは次のように述べている。
「SM]3と呼ばれる新型の迎撃ミサイルは、日本・韓国などの同盟国を守るための『ミサイル防衛システム』の一環と宣伝されているが、実際には、日本・韓国・オーストラリア・台湾に配備された海軍のイージス駆逐艦に配備され、中国包囲網の一翼を形成する戦力なのだ」。「これら全作戦の目的は何か。中国を包囲し、中国の軍事力を無効にする力を米国が獲得するためである」(「危険な宇宙レースの道を歩みだした日本」、『世界』〇五年七月号)。
この間の日米2+2協議などでも示された、グローバルな米軍再編の中での新たな日米戦略協力の中軸に、中国のアジア全体に対する影響力を阻止するための「対中封じ込め」の構想が置かれていることがはっきりしてきた。ブッシュの「アメリカ帝国」は、遠からぬ将来に、東アジア・東南アジアが中国の覇権的影響力の下に包摂され、アメリカの入り込む余地がなくなることを恐れている。ハンチントンが『文明の衝突』の中で描きだしたような、韓国、日本が広い意味での「中国圏」に組み込まれていく未来像こそ、アメリカにとって最悪のシナリオなのだ。したがってこの間、日本の支配層の中でも描かれている「東アジア共同体」という展望は、そこからアメリカがはじき飛ばされるのではないかという危機感を煽り立てている。
アメリカが、「世界の工場、世界の市場」となった中国の影響力拡大を阻むためには、日本をこうした未来から引き離し、アメリカの忠実な戦略的同盟者として「対中包囲網」の中に組み込んでいくことが不可欠となる。「米英同盟型日米同盟」というアーミテージ前国務副長官の認識は、それを示している。新防衛計画大綱や中期防衛力整備計画、そして憲法改悪の戦略は、「米中対決」型情勢認識への日本の支配層の対応である。
安倍自民党幹事長代理、石原都知事、中西輝政・京大教授といった日本の極右派が推進している中国・韓国への極度の排外主義的政治路線が、こうした「米中対決」の展望に基づいたものであることは明白であるように思える。それは「靖国」「教科書」などの右翼国家主義の煽り立てとセットである。このような政治的構図をもとに、私たちの運動の位置どりを考えてみる必要もあるのではないだろうか。
(くにとみけんじ/じむきょく)
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