反安保実 NEWS 第1号

 視点・論点 @
 自民党改憲草案大綱の描く国家像
          国富建治

  


「国柄」と「品格ある国家」
 二〇〇四年一一月一七日、「自民党憲法改正草案大綱(たたき台)〜『己も他もしあわせ』になるための『共生憲法』をめざして」が発表された。ところが、この自民党改憲草案大綱は、参院の権限縮小に対する自民党参院議員の反発、さらに同案の「自衛軍」条項が現役二等陸佐が作成した「憲法草案」に依拠したものであるこが暴露され、いったんは廃棄されることになった。しかし、この「改憲草案大綱」に盛られた内容には細部で変更が加えられるものの、ほとんどは継承されると考えられる。
 改憲草案大綱は、冒頭の「はじめに〜基本的考え方〜」の項で、同大綱が現行憲法の「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」の三つの基本原理を「発展維持」するものだと主張している。たんなる「維持」ではなく「発展維持」とするところに核心がある。同大綱の中で詳細に付されている注釈は、「平和主義」などに「一部修正」を加えるので「発展維持」とした、としている。現行憲法の基本原理が根本的に改変されることの正直な告白だ。
 ここではまた「我が国の進むべき方向性を示した新たな国家像」を憲法の理念として盛り込むことを提示している。その「新たな国家像」は「国柄」という言葉に集約される。「国柄」とはなにか。「我が国のこれまでの歴史、伝統、文化に根ざした固有の価値、すなわち、人の和を大切にし、相互に助け合い、平和を愛し命を慈しむとともに、美しい国土を含めた自然との共生を大事にする国民性(一言で言えば、それらすべてを包含するという意味での「国柄)」とされる。
 この「国柄」が、「元首」かつ「象徴」としての天皇の地位を規定するキーワードとなる。すなわち「歴史、伝統及び文化」すなわち「国柄」の象徴である天皇は、現行憲法の「国事行為」だけではなく、「外国訪問」「歌会始」「皇室内部の行事」やさらには「皇室祭祀」なども「公的行為」として行うことになる。
 「新たな国家像」を支えるもう一つの概念は「品格ある国家」である。この「品格ある国家」という概念は、「国家と国民を対峙させた権力制限規範」という近代立憲主義の骨格を転倒させ、「公私が役割分担」をし、「国家と地域社会・国民」が「協働」「共生」する社会を作るための憲法という主張に行き着く。ここから国家の優位の下に「国民の権利」を制限し、国家に対する「責務」を国民に負わせ、生存権の保障などの社会的責任を国家の責任から解放して「家族」や「地域社会」に負わせることが導き出される。まさに国家主義と新自由主義的「自助努力」論の合体である。

「国家緊急事態」と「自衛軍」
 自民党改憲草案大綱は、たんに現行憲法9条の改廃にとどまらない「国のかたち」の全面的な作り替えであるが、「戦争国家体制」の確立のための条項はどうなっているのか。それは「第八章 国家緊急事態及び自衛軍」で明らかになっている。
 「国家緊急事態」は「防衛緊急事態」、「治安緊急事態」、「災害緊急事態」に分けられるが、いずれにおいても「基本的な権利・自由」の制限が明記され、非常大権が首相に集中することになる。「自衛軍」についての規定では、自衛軍は「個別的自衛権」だけではなく「集団的自衛権」をも行使し、「我が国を防衛する任務」以外にも「国際貢献のための活動(武力の行使を伴う活動を含む)」に従事することが規定されている。すなわち地球上のあらゆる地域における戦争に対しても参戦することに憲法上の根拠を与えるものとなっている。さらに「軍事規律維持」のために憲兵隊的存在や軍法会議を設置することも記載されている。これらの項目が、参戦と連動した国家と社会の軍事化を促す強権国家の形成を促すものであることは明らかである。
 自衛隊のイラク派兵の中で迎えた戦後六〇年の二〇〇五年は、憲法改悪阻止を緊急の政治的焦点に押し上げる年でもある。私たちはそのための態勢を緊急に作り上げなければならない。 (くにとみ けんじ/実行委)

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