二○○○年三月、苫小牧市内の会社員橋向(はしむかい)香さん=当時(24)=を殺害し、恵庭市内で遺体を焼いたとして、殺人と死体損壊の罪に問われた元同僚の大越美奈子被告(35)の控訴審判決公判が二十九日、札幌高裁であった。長島孝太郎裁判長は懲役十六年(求刑・懲役十八年)を言い渡した一審の札幌地裁判決を支持し、弁護側の控訴を棄却した。
判決理由で長島裁判長は「大越被告の犯人性に疑問を生じさせるような事情はない。状況証拠を総合すれば、被告が犯人と優に認めることができる」と述べた。
この事件は、大越被告が捜査段階から一貫して無罪を主張。被告と事件を直接結びつける証拠もなく、検察側が提出した状況証拠をどう評価するかが争点となっていた。
検察側は一審で、三百点を超す状況証拠から「橋向さんの携帯電話の(通信記録から分かる)移動経路と被告の足取りが一致している」「交際相手を奪われた被告が被害者に悪感情を抱いたのが動機になった」などと主張。弁護側は「携帯電話の通信記録は真実性、正確性を欠く」「被害者への悪感情はなく、動機がない」などと反論した。
○三年三月の札幌地裁判決は足取りの一致や動機など、八つの状況証拠をもとに、大越被告が二○○○年三月十六日午後九時半から同十一時五分ごろまでの間に、千歳、恵庭両市またはその周辺で橋向さんを絞殺。同十一時五分ごろ、恵庭市北島の市道で遺体に灯油をかけて焼損したと認定。被告側の主張を全面的に退けた。
控訴審で、弁護側は豚の死体の燃焼実験ビデオを新証拠として提出し、「(被告が買った)灯油十リットルで遺体を炭化することはできない」と主張。元東京都監察医務院長の鑑定意見に基づき、事件は男性による性犯罪の可能性が高いと指摘した。
また、事件当日の午後十一時半に被告が恵庭市内のガソリンスタンドにいたことを証明する監視カメラのビデオなどから「遺体の焼損現場とスタンドは約十四キロ離れており、犯行後、その時間までにスタンドに行くことは不可能で、アリバイが成立する」と主張した。
これに対し、検察側は殺害状況について「豚の皮膚は人より焼けにくく、実験結果は人に適用できない」「鑑定から性犯罪の痕跡はない」などと反論。アリバイに関しても「現場からスタンドまでの所要時間は車の速度を上げれば十五分程度で、アリバイは成立しない」と述べ、控訴棄却を求めていた。
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恵庭OL殺人事件 2000年3月17日朝、恵庭市内の市道で、絞殺後に焼かれた橋向香さんの遺体が発見された。前日夜に灯油を購入していたことや、橋向さんの交際男性と直前まで交際していたことなどから、同僚の大越美奈子被告が捜査線上に浮上。道警の任意の事情聴取を受けた大越被告は一時、「心因反応」で入院したが、退院した翌日の同年5月23日に逮捕され、6月に殺人と死体損壊の罪で起訴された。一審札幌地裁は03年3月26日、懲役16年(求刑・懲役18年)を言い渡し、弁護側が控訴した。
<写真:札幌高裁に入る大越美奈子被告の弁護団=29日午後0時58分、札幌市中央区>