日本国民救援会 2003/10/22
10月20日, 最高裁第3小法廷(藤田宙靖裁判長)は, 通称・東電OL殺人事件で一貫して無実を訴えていたネパール人, ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏の上告を, あろうことか決定で棄却した.
そもそもこの事件では, ゴビンダ氏を「犯人」と断定する直接証拠は何一つない. 状況証拠もまた極めて曖昧なもので, ゴビンダ氏と犯行を結びつけるものではない. 当然のこととして, 東京地裁が30余回もの公判で慎重な審理を行った結果, 「疑わしきは被告人の利益」という刑事裁判の原則の上に立って, ゴビンダ氏に無罪を宣告したのである. 控訴審において検察は一審の立証をなぞっただけで, 意味のある新しい証拠はまったく提出できなかった. しかるに東京高裁は, 一審判決がその証明力を一蹴した被害者の手帳メモを「つまみ食い」式に解釈してゴビンダ氏と犯行との結びつきを強弁するなど, 証拠を恣意的に捻じ曲げて評価し, ゴビンダ氏に無期懲役を宣告した.
一, 二審を通じて最大の争点となったのは, 室内水洗トイレに捨てられたコンドーム内に残留していた, ゴビンダ氏の精液中の精子が, その形状から見て, 殺害時期のものか, それ以前の時期のものかという問題であった. 一審で, 検察側鑑定人による鑑定の結果, この精子は, 崩れた形状から, 事件より20日も前のものであることが明らかになったが, この鑑定人は公判で, 鑑定用実験は清水で行い, 現物は汚水中にあったから, 形状が急速に崩れるかもしれないので, 事件当日のものと考えても矛盾しない, とまったく事実にもとづかない意見を述べ, 一審判決では当然にその合理性・説得性を否定されたが, 東京高裁は, この鑑定人の屁理屈を採用して逆転有罪の根拠としたのである. しかも, 弁護側が求めた, この理屈の是非を問う鑑定の請求を採用しないままに, なんら合理的根拠も示さず, ゴビンダ氏を犯人とした. また, 被害者の所有物であったJRの定期券などが, 被告人が訪れたこともなく, 日常生活とは全く無縁であった地域で発見された事実から, 別の人物が真犯人ではないかと容易に推測された. これについても高裁は, 「・・・未解明であるからといって, それ故被告人の犯人性が疑われるという結論にはならない」と, 切り捨てたのである. その他, 犯行現場に遺留されていた第三者の体毛の問題や, ゴビンダ氏がアパートの鍵をいつ家主に返還したかに関する問題, ゴビンダ氏が金銭窮状の状況にあったかどうかに関する問題など多くの疑問点について, それらを何ら解明することなく, 説得力のない言 辞で犯行をゴビンダ氏に結びつけて無期懲役を宣告した.
弁護団は上告にあたり, 現場に残されていたコンドームの精液について, 清水・汚水の別は精子の形状崩壊に影響しないことを明らかにし, 東京高裁の誤った事実認定を科学的に批判する鑑定意見書を提出し, さらにこの10月1日も, その補充鑑定意見書を新たに提出したばかりであった.
最高裁には, 東京高裁の事実と証拠に基づかない事実認定の是非が鋭く問われていた. にもかかわらず, これらに何一つ理由を示さずに上告を棄却したことは, 著しく正義に反するものである. 最高裁は, 決定の中で「記録を精査して重大な事実誤認はなかった」と判示しているが, 記録を精査したとは到底言えるものではない.
今回の最高裁決定についてゴビンダ氏は, 「なぜ私が有罪なのか最高裁は全く理由を示していない. こんな決定を3年も待ったのではない」と, 最高裁決定に強く抗議している. この指摘は, 至極当然のことであり, 最高裁が人権の砦としての役割を放棄したものとして厳しく糾弾されるべきである.
日本国民救援会は, 自ら新たな冤罪事件を完成させた最高裁の不当な決定に, 怒りをもって抗議する.
2003年10月22日
最高裁判所第三小法廷
藤田宙靖裁判長殿
日本国民救援会
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