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状況20〜21は、現代企画室編集長・太田昌国の発言のページです。「20〜21」とは、世紀の変わり目を表わしています。
世界と日本の、社会・政治・文化・思想・文学の状況についてのそのときどきの発言を収録しています。

ウカマウ集団との40年


『毎日新聞』2014年5月14日夕刊掲載

南米エクアドルで一本の映画を観て、40年近くが経った。1969年の『コンドルの血』というボリビア映画だ。製作はウカマウ集団、監督はホルヘ・サンヒネス。アンデスの先住民村に「後進国援助」の目的で診療所を造った米国の医療チームが、現地の若い女性たちに不妊手術を秘密裡に施していたことを暴露した作品だった。迫りくる食糧危機を前に、避妊をしない貧しい国々の人間には、強制的にでも子どもを産めない体にして人口爆発を防ぐしかないという身勝手な考えが、米国にはあったのだ。内容の衝撃性もさることながら、スクリーンに飛び交うアンデスの先住民言語=ケチュア語、慣れ親しんだ日本や欧米映画のそれとは違うカメラ・ワーク、過去と現在が複雑に行き交う時制感覚などが、強く印象に残った。

縁あって、監督と知り合った。白人エリートの出身だが、先住民が人口の60%以上を占めていながら、植民地時代から一貫して深刻なまでの差別構造の下に置かれていることに危機感を持つ人物だった。白人とメスティソ(混血層)は先住民差別を克服して初めて自己を解放できるし、社会は公平なものとなる、と彼は信じていた。それは、世界に普遍的な原理だ、と私たちは確認し合った。

帰国時に、フィルムを一本預かった。『第一の敵』と題された一九七四年の作品だ。ボリビアの軍事体制下から逃れた監督が、亡命地ペルーで撮った。地主の圧政に苦しむ先住民貧農とゲリラの出会いを描いた作品だ。1980年に日本で初公開した。13年前の、ボリビアにおけるチェ・ゲバラのたたかいと死を彷彿させる内容だ。評判となり、自主上映は全国各地に広がった。来場者の反応から、確かな手応えを感じ、旧作品も次々と輸入して上映した。上映収入を製作集団に送ると、それが次回作の資金になった。八九年の『地下の民』には、共同製作者として参加した。この作品はサンセバスティアン映画祭でグランプリを獲得した。

初公開以来34年が経った。ボリビアでは、軍事体制から民主化の過程を経て、驚くべきことには、2006年に左派の先住民大統領が誕生した。困難な諸問題を抱えつつも、米国の言いなりにはならず、新自由主義政策が遺したマイナスの要因とたたかい続けている。

私たちの手元にあるウカマウ集団の作品も、12作になった。半世紀に及ぶ期間に製作されたすべての作品だ。最新作『叛乱者たち』は、18世紀末の植民地期最大の先住民叛乱から、21世紀初頭の先住民大統領の誕生までをたどった歴史劇だ。「革命の映画/映画の革命の半世紀」と題して、全作品上映を開始している。チェ・ゲバラ、水の民営化に抵抗する反グローバリズム運動の高揚、ウカマウの映画――「ボリビアは、いつだって、世界を熱くする」。これが、私たちの合言葉だ。