■ミュージックマガジン 2020年11月号 評者:石田昌隆
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ミュージックマガジン 2020年11月号 評者:石田昌隆
年下の写真家で、ぼくが心底素晴らしいと思う人が何人かいるのだが、残念ながらひとりを除いて、ほぼ写真界で評価されていない。写真評論というジャンル自体がすでに壊滅的で、今でも森山大道や荒木経惟を讃えながら業界にへばりついている。そういう旧来の写真界とは無関係にSNSで写真をアップし続けて人気を得ている写真家が何人もいるが、残念ながら彼らの写真はだいたい内容が空っぽだ。
そんななか、ほとんど知られていないけど、ぼくが心底素晴らしいと思っている写真家のひとりが笹久保伸である。彼を知ったのは音楽家としてだったが、仮に音楽家としての活動を知らずに笹久保伸の写真に出会ったとしても、これは素晴らしいと気づいたはずだ。大判の写真集『武甲山 未来の子供たちへ』(17年)は良かった。本書は、B5変形、コデックス装、48ページと小ぶりながら、丁寧に作られたZINEという面持ちである。
笹久保伸も活動の経過を備忘録的にSNSにアップしているので、写真を見たり、知性とユーモアを併せ持った文章を読んでいる人はいると思う。しかしこの写真集に収録されている写真は別物と言って良いレベルだ。それは隠し球にしていたというより、SNSに出しても伝えられない種類の写真の数々であり、紙に印刷して製本して、テキストは排して、このタイトルを表記することで、アートとして説得力を持つものだった。『Town C』とは、彼が住んでいる秩父のことだ。団地、秩父太平洋セメントと白い粉、打ち捨てられた布団、朽ちていくポルシェ、武甲山、コンクリートの隙間から芽吹いている植物などが、淡い色合いでフィルムに写し撮られている。ぼんやりとした画像のなかに、現実が綿密に、饒舌に綴られている。
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