■月刊ブレーン 10月号「デザインの見方Vol.133」執筆:渡邉良重
■この本読んで! 2019年春 第70号
■この本読んで! 2018年冬 第69号
■dandan 講談社子どもの本通信 vol.39 2018年11月
■MOE 2018年10月月号
■盛岡タイムス 2018年8月27日
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月刊ブレーン 10月号「デザインの見方Vol.133」執筆:渡邉良重
〈ゴフスタインの言葉〉
20年ほど前に出会い、それからずっと惹かれ続けているのが、M.B.ゴフスタインの絵本の数々です。彼女は1940年にアメリカで生まれ、2017年の12月20日、77歳の誕生日に亡くなられました。
ゴフスタインの絵本の素晴らしさは、言葉で説明し尽くせないところもあるのですが、優しい絵、そしてとても簡単な表現なのに真理をついているような言葉。谷川俊太郎さんや末盛千枝子さんによる和訳もすごくいいです。決して子どもだけに向けられたものではありません。
選べないほどどれもお気に入りですが、こういう取材の時によく挙げるのが『おばあちゃんのはこぶね』(訳:谷川俊太郎)です。子どもの頃に父親につくってもらったノアのはこぶねと木の動物たちを愛してきたおばあちゃん。きっと子どもたちも巣立って行ったのでしょう。おばあちゃんはひとりベッドに横たわります。「みんないなくなってしまったいま、はこぶねはおもいででいっぱい」「よろこびとかなしみは にじのよう」「それがわたしをあたためてくれる おひさまのように」。人生の最後に悲しみさえも「にじのよう」と思えること。これは人間として生きるうえで、憧れであり目標です。わたしは健康で長生きして仕事も続け、このような心境になりたい。
この話と重なり思い出されるのは、父のこと。父は100歳まで生きたいと言ってそれを叶えました。戦争を生き延び、シベリアに抑留された後、山口県の自然いっぱいの田舎で暮らしてきた人です。そんな父に、亡くなる数カ月前に会ったとき「もうなんも思い残すことがない」と言った。その後、父の容体が急変した連絡を受けてわたしが実家に帰ったときには既に亡くなっていましたが、不思議と、悲しくなかった。父が思い残すことがなければ、ああそうなんだと。すとんと胸に落ちる感じがしました。わたしの涙は感謝とちょっとばかりのわたしの後悔によるものでした。「おばあちゃん」のように、父のように、そんなふうに生きることがずっと私の憧れです。
他にも、心をつかまれている作品をいくつか。『ブルッキーのひつじ』は、一言一言が心をぎゅっとつかむようなかわいらしい表現の宝庫です。ブルッキーと「こひつじ」の何気ない日常を描いたものですが、「だいすきだいすき かわいいこひつじ」「みみのうしろを かいてやる。」そんな言葉がいちいちたまらない。こちらも谷川俊太郎さんの訳によるものです。
続いて『ゴールディーのお人形』(訳:末盛千枝子)。人形をつくる仕事をしながらひとりで暮らすゴールディー。彼女は人形の材料にも、「生きている」感じがするからと森の木を使うなど、作り手としてのこだわり溢れる女の子です。ある日、ゴールディーは美しい中国製のランプに出会います。しかし兄貴分には「こんなに高いものを買うなんて、本当に、とても正気とは思えないよ。」と理解されません。悲しんだゴールディーが泣いて眠ると、夢にランプの職人が出てくる。そして言う「私はあのランプを、会ったこともないあなたのために作ったのです。どこかの誰かが、きっと気に入ってくれると信じて、一生懸命作ったのです。」という言葉。ものをつくる私にとって、この言葉は響きました。
最後に、『ピアノ調律師』(訳:末盛千枝子)に出てくるこの言葉。「人生で自分の好きなことを仕事にできる以上に幸せなことがあるかい?」。この本を読む度、わたしはこの言葉をかみしめます。
ゴフスタインは他にも多くの絵本を描いていますが、どれも必ずわたしの心を心地よく波立たせる素晴らしい絵本なのです。
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この本読んで! 2019年春 第70号 評者:市ケ坪裕子(子どもの本 つ〜ぼ)
90歳を迎えたおばあさんが、ある日、子どものころを思い出しながら人生を語りだします。子ども時代がいかに大切か、ゴフスタインさんは静かに伝えてくれました。読み終わったあと、あたたかい気持ちに包まれます。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
この本読んで! 2018年冬 第69号
90年前、おばあちゃんが子どもだったときに、おばあちゃんのお父さんが作ってくれた木の箱舟と人形たち。もう塗りもはげてしまったけれど、うれしいことも悲しいことも、いっぱい詰まった大切な箱舟です。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
dandan 講談社子どもの本通信 vol.39 2018年11月
〈だれもがかつては子どもだった
重ねた年月は虹のように〉
おばあちゃんの宝物は、90年前、小さいころにお父さんが作ってくれたおもちゃの箱舟。思い起こされるお父さんの楽しそうな声、大きくなるにつれだんだんと増やされていった中身の動物たち、結婚したとき夫が新しい家に箱舟を大切に運んでくれたこと、子どもたちに語り聞かせたノアの物語・・・。懐かしさとあたたかさ、少しのさみしさ。生きることのかなしみとよろこび、素晴らしさがじんわりと胸に去来する、美しい一冊。
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MOE 2018年10月月号
〈思い出がつまった宝ものの方舟〉
おばあちゃんが大切にしているノアの方舟の模型は、90年前、幼いころに父から贈られたもの。昨年末に生涯を閉じた作者による「最期の言葉」を加え、1996年刊の絵本が新編集で復刊。
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盛岡タイムス 2018年8月27日
〈人生の美しさ見いだす絵本
ゴフスタイン著作が復刊
「おばあちゃんのはこぶね」末盛千枝子さん編集〉
絵本編集者の末盛千枝子さん(77)=八幡平市=が1996年に出版したM.B.ゴフスタイン作・絵、谷川俊太郎訳「おばあちゃんのはこぶね」(1500円税別)が現代企画室から新装復刊された。年を重ねた人も、ずっと前は子ども。心は若いときと同じように生き生きとしている。昨年12月、77歳の誕生日を迎えたその日に他界したゴフスタインへの追悼と感謝を込めた。
M.B.ゴフスタイン(1940-2017)は米国の女性絵本作家。末盛さんは日本におけるゴフスタインの絵本のほとんどの編集を手掛けた。前夫が当時6歳と8歳の息子を残して他界し、悲しみの中、絵本の編集を始めた末盛さん。そんな時に出会ったのがゴフスタインの絵本だ。人の人生と仕事を尊び、愛情を込めて描く姿勢に心打たれた。同い年でもあり、意気投合。子どもはもちろん、大人に対する深いメッセージを込めた絵本として日本の読者に届けた。
「おばあちゃんのはこぶね」はゴフスタインの人生そのものを描いたような作品だ。子どもの頃、お父さんが作ってくれた「ノアの方舟」と木の人形、動物たちを大切にしている90歳のおばあちゃんが主人公。大切な思い出が詰まった方舟は、いつも心を温めてくれる。
復刊版には、ゴフスタインの「最期のことば」と末盛さんの「贈ることば」も収録している。「最期のことば」はゴフスタインの77年の人生にちなんで77部だけ限定制作された冊子からとった。「素晴らしい人生を生きた」と、死も希望のうちに受け止めるゴフスタインの胸中は晴れやかだ。
冊子は、ゴフスタインの夫のディビッド・アレンダーさんが制作し、ごく親しい友人たちに贈った。末盛さんは手元に届いた1冊を皇后美智子さまに紹介。それを知ったアレンダーさんは後日、美智子さまにも贈呈したという。
「短い言葉と絵。絵本だからこそ伝わるものがある」と末盛さん。「彼女の絵本を見た人は、自分の人生もまんざらでもないと思うのでは」と出会いに感謝する。
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