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図書新聞 2017年10月21日 中川素子(文教大学名誉教授)
月刊美術No.500 2017年5月号
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図書新聞 2017年10月21日 中川素子(文教大学名誉教授)

1977年に返還された立川米軍基地跡地の再開発として1994年に誕生した〈ファーレ立川〉は、すでに22年の歴史を持つ。「街全体が美術館」遠いう市の施策の下、企画コンペで選ばれ、プロジェクト・ディレクターとなった北川フラムが、構想から実現までの全過程をまとめている。

都市空間の無表情な冷たさはよく感じることであるが、「地球上に70億人がいれば、それら一人ひとりが違う人間で、その多様さが大変であると同時に、この瞬間に同時に生きている尊厳であると思います。美術作品は一人ひとりの人間の生理の発露であり、社会と関わる方法であり、それは人間の感性や精神が森の妖精のような現れ方をしたもの」と考える北川は、「世界を映す鏡」というコンセプトのために、36カ国の異なる出自と考え方のアーティスト92人に参加を求めた。

多くの作品のための設置場所を十分に確保できない都市空間のため、「機能(ファンクション)を美術(フィクション)に!」という二つ目のコンセプトの下、壁、歩道の舗石、換気口、照明、車止め、送水管などのアート化がはかられた。そのことにより、都市に美術が介在できることをアーティストたちも気付いたようで、多くの困難に対して、ユニークな作品を造り出しつつ、楽しんでいるのがわかる。

コンセプトの3つめは、「驚きと発見の街」である。ヒューマンスケールで造られた作品には触ることもできるし、バブル期の箱物行政として建てられた地方の公立美術館とは違い、訪れる人々に有機的に働きかける生きたアートとなっている。2008年より子どもたちのアートツアーも行われ、こういった美術にふれた子どもたちは、きっとたくさんの発見をしたことだろう。

車止めとして工夫された多くの作品、道路面に現れた大岩オスカール(ブラジル)の原生動物、車体の形が帽子になりタイヤの位置が目として見えるスタシス・エイドリゲヴィチウス(リトアニア)の駐車場サイン、駅から続く主要動線を示すスティーヴン・アントナコス(ギリシャ)の照明サイン、複雑に入り組んだ空間なのに、そこに平面としての真円が現れるフェリーチェ・ヴァリーニ(スイス)の作品など、どの作品も、それこそ森の妖精のようにさまざまな現れ方をして、街にとけこんでいる。

「第2章 美術の妖精が棲む森−−ファーレ立川の作品たち」に掲載されている、安齊重男による109の作品の写真が、その本質をしっかりと店、また、サンデー・ジャック・アクパン(ナイジェリア)作の正装したナイジェリアの酋長たちにほほえむ女の子、ニキ・ド・サンファル(フランス)作のベンチにくつろぐ人たち、ジャン=ピエール・レイノー作の巨大な赤い植木鉢前で記念写真をとる子どもたちなど、新津保建秀が新たに撮りおろした写真も、〈ファーレ立川〉のコンセプトと、人々と作品との交流を示して楽しい。

なお、このプロジェクトは表舞台だけでなく、作品の清掃修復などメンテナンスまで考えている。その活動は、ファーレ倶楽部、ファーレ立川管理委員会など市民を中心とした自主的なものであり、住民、行政、事業者が一体となった幸せな活動が〈ファーレ立川〉を継続させていることがわかる。

立川市長・清水庄平と北川フラムの対談「アートがひらくまちづくり」、世界のパブリックアートの紹介、作品は一途、ファーレ立川年表などの資料も揃ったこの本は、今までのパブリックアートを振り返ると同時に、今後の力強い指針となるに違いない。

北川フラムの「美術は無用なものでありながら、さまざまな開口部を持ち人間を開いていくもの。〈ファーレ立川〉で積み重ねられてきた活動も、人間や文化の多様性とつながる。今世界でぶり返して来た野蛮な排外主義を洗い流していく一歩だと思いたい」という考えには、越後妻有アートトリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭と続く一本の道筋をゆるぎなく見つめる著者の生き様が浮き彫りにされている。
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月刊美術No.500 2017年5月号

1994年10月に竣工され、アートに寄る都市の再開発として大きな話題となった「ファーレ立川」の全貌を、本プロジェクトのディレクター、北川フラム氏が書き下ろし。作品図版多数収録。

立川市(東京)が米軍基地跡地の再開発にアートを主役とし、結果世界36カ国92人のアーティストによる109点の作品が設置された過程も興味深いが、注目すべきは設置後の動きについての章。著者がこまめに行ったガイドツアーを立川市民が結成した「ファーレ倶楽部」へと繋ぎ、作品の清掃、修復も同市全体を巻き込むことによって、このプロジェクトが市民のものになっていく。この「公」から「個」への動きが、パブリックアートには重要であることを気づかせてくれる。



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