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日刊ゲンダイ 2017年10月30日 評者:佐高信
メリーゴーランド新聞 2017年8月1日
ふぇみん 2017年7月5日
図書新聞 2017年6月3日 小嵐九八郎(作家・歌人)
図書新聞 2017年4月29日 伊達政保(評論家)
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日刊ゲンダイ 2017年10月30日 評者:佐高信

日々、仕事というものに忙殺されているに違いないビジネスマンに、ふと立ち止まってこの本を手に取ってもらいたい。ある山里の人々の暮らしを描いたこの"つくりものでない童話"に「豊かさとは何か」「生きるとはどういうことなのか」を静かに考えさせられると思うからである。

貧乏な家に育って、学校も尋常小学校までしか行っていない「いっきょうさん」が、娘の結婚式で用意したあいさつを忘れてしまい、次のように思いのままを話す。

「この通りフツツカな娘であります。私どもは貧乏で、この子を上の学校にも上げてやれませんでした。女の子らしい服も、子供らしいオモチャもよう買うてはやりませんでした。体の弱い母親を助けて、こまいころから家の手伝いばっかりさせて、遊ぶことも勉強することも思うようにはようせずに育ちました。へじゃが、私たちはこの子を私たちなりに一生けんめいに大事に大事に育ててきました。やさしい、素直な、よう仕事をする、ええ娘に育ってくれたと思うちょります。」

全文を引用したい誘惑に駆られるが、以下略としよう。著者のえきたゆきこを浴田由紀子と漢字で書けば、「アッ」とか、「アア」と感嘆詞を投げる人もいるのではないか。1974年8月30日、東京・丸の内の三菱重工業本社前に時限爆弾を装置して爆発させ、通行人8人死亡、重軽傷者385人を出すという結果を招いた「東アジア半日武装戦線」グループのひとりである。彼女は逮捕され、先ごろ刑期を終えて出てきた。

アノ浴田がこんな、まさに「宝物」のような話を書いたのか、と意外に思う人もいるだろう。しかし、こうしたナイーブな心をもつ浴田だからこそ書けたのだというべきである。偏見を持たずに読んで、意外か、当然かを自分で判断してほしい。同じグループの大道寺将司も中原中也とランボーが大好きな少年だった。そして秀逸な獄中詩を残した。大道寺のことは松下竜一が「狼煙を見よ」(河出書房新社)に書いているが、「豆腐屋の四季」の著者の松下は1984年夏に獄中の大道寺から手紙をもらった。そこには、大道寺が政治犯に「豆腐屋の四季」を読むことをすすめたために、突然、獄中にその本のブームが訪れたとあった。

大杉栄の遺児のことを書いた「ルイズ」とかではないのが意外だったが、一途な行動に走る人間は皆、どこかに詩人の心を潜ませているのである。
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メリーゴーランド新聞 2017年8月1日

マコは花の木の里で暮らす女の子。ときにケンカをしたり、大人に疑問を抱くこともありますが、家族や里の人々とともに、心豊かにすごします。そんなマコのあたたかな日常を描いた短編集です。終戦直後に生まれた作者の経験が基になった、全16話は、あなたにとっても、とっておきの宝物になるはずだ。
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ふぇみん 2017年7月5日

子ども時代の宝物のような村の日々を綴る物語。マコたちの、遊びや気負いや秘密や優しさに誰もがわくわくし、そしてハッとするだろう。著者は日本赤軍ダッカ事件で服役中に本書を書き、今年3月に出所。
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図書新聞 2017年6月3日 小嵐九八郎(作家・歌人)

〈青少年より、大人のハートを撃つ小説〉

アルバイト先のある私大で、当方は年一度は宮沢賢治の『鹿踊(ししおど)りのはじまり』か『よだかの星』か『銀河鉄道の夜』をテキストに使う。惚けて細部を忘れていては学生さんに済まないので再読の上にまた読んでから講座に向かう。土の強烈な匂いとか、法華経という宗教への思いゆえの死の世界の凄まじく清冽な描写とか、読む度に吐息の尾っぽを引きずる。

だけど、宮沢賢治はこの童話というか児童文学で、読み手の年齢層をどう設定していたのかいつも惑う。十歳から十五歳ぐらいの少年少女に語りかけて遊びたい気分は確かにあっただろうし、そこの魅力は何世代と引き継がれてきている。しかし、どうもむごさを孕む子供の純な気持ちを引きずって大人になっちまった世代を撃つのがメインだったような気がするのだ。

ということがあり、本誌四月二九日号の「カルチャー・オンザ・ウェッジ」の伊達政保さんの文章の薦めに触発され、えきたゆきこ著、『マコの宝物』を読んだ。

どうやら舞台は山口県の山と野の中あたりらしく、時代は一九五五年から一九六〇年代半ばぐらいで、時や年齢は交叉しながら書かれているが主人公の少女は小学校に入る前から中学生になった頃までだ。当方の秋田や川崎の少年時代に重なり、こんなことを小説鑑賞上でまず感じては良くないのだろうが、懐かしさに泣いてしまった。但し、少女の心は思いやりや怒りを含めてより深いし、自然との関わりは濃密である。何より、友達や近所のお兄さんや核家族前の大家族のしがらみときずなが熱い。やっぱり、青少年より、大人のハートを撃つ小説と映った。それも、筆こそ抑えているが必死、切実な魂の訴えとして共同体のあり方を……。

えきたゆきこは、本名、浴田由紀子氏、あの炎の全共闘世代の後退戦の中で日本史上で党派の人間が仰天することを為し、アラブに超法規措置で渡り、日本で二十年の刑を終えて出所したばかり。魂の訴えの在り処が見えてきて……哀しく、凄い。
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図書新聞 2017年4月29日 伊達政保(評論家)

〈ここに一人の児童文学作家がデビューした〉

ここに一人の児童文学作家がデビューした。えきたゆきこ著・解説/清水眞砂子(『ゲド戦記』訳者)『マコの宝物』(現代企画室)。児童文学なんて読んだのは、森詠氏の『オサムの朝』以来だ。

この作品は山奥の村に暮らす主人公マコの小学生時代のエピソード、大きく分けて村の話とおじいさんの話の二つによって構成されている。著者はオイラと同い年だから、1950年代の話ということになるだろう。著者の分身であろうマコの目を通して描かれる村の風景や、子供らとそれを取り巻く大人たちが綾なす一つの社会、共同体とでもいったらいいのだろうか。それは教育勅語なんぞで出来上がったものではない。それらの描写が実に素晴らしい。人々やその生活する風景が目に見えるようだ。出身地方や方言が違っていても、オイラにも思い当たり心当たることばかりだった。

誤解してもらっちゃ困るが、現在の時点から子供の目線で、望郷の念にかられて昔は良かったと懐かしむような作品ではないのだ。当時の子供の目線で、子供や大人そして村の社会を見ているのだ。まあ、後から獲得した社会性がチラホラ窺えるがね。解説の清水氏が「子供を庇護の対象としてのみ捉える愚をおかしてはいません」と、なるほどうまいことを言っている。子供の素直で明るい部分ばかりでなく、おそれや闇の部分も描かれているのだ。

著者のそうした目線に思い当たることがある。45年前、著者を含む年齢の違う仲間たちと韓国旅行をした時のことだ。ソウル南山裏のスラムに皆で迷い込んだ時、いつの間にか著者は子供たちの中にいて一緒に遊んでいた。子供たちと遊ぶのではなく、子供になって遊んでいたのだ。皆であきれていたが、それが出来る感性が昔からあったのだ。パレスチナの難民キャンプでも、きっと子供たちと遊んでいたのだろう

著者の本名は浴田由紀子(仲間内のあだ名はチンペイ)で著者紹介にある通り74年に東アジア反日武装戦線「大地の牙」、75年に逮捕後、77年に日本赤軍のハイジャック闘争で超法規的釈放、アラブへ。95年強制送還の後服役。今年3月、20年の刑期を終え出所した。本書は獄中で書き続けられ、幾度もの推敲の後、出所に合わせて刊行された。テック(谷川雁専務)労働争議支援闘争、軍事郵便貯金返還闘争、ミクロネシア遺族戦後補償ロペス闘争、著者と一緒に戦った仲間の多くは出所を待たずに鬼籍に入ってしまった。平岡正明氏、朝倉喬司氏、布川徹郎氏、船戸与一氏。彼らに成り代わって言うなんてのはおこがましいが、一言挨拶を述べておこう。「チンペイ、作家デビューおめでとう。長い間、お疲れさま」。



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