■J-WAVE RENDEZ-VOUS 2013年1月15日 評者:江口宏志(ユトレヒト)
■ほんのしるべ 書標 2013年1月号
■Web Magazine OPENERSに掲載されました。
■『世界は小さな祝祭であふれている』刊行に合わせて、著者の小野博さんがオランダから来日。12月7日から13日にかけて、刊行記念トークイベントが開催されます。
■2012/11/19から、ジュンク堂書店吉祥寺店にて『世界は小さな祝祭であふれている』刊行記念フェアを開催。
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J-WAVE RENDEZ-VOUS 2013年1月15日 評者:江口宏志(ユトレヒト)
オランダ、アムステルダム在住の写真家小野博さん。
写真集かと思いきや、エッセイや日記のような内容。
表紙は凍りついたアムステルダムの運河の上を歩く人々の写真。
2002年からアムステルダムに渡る。
世界で最も多くの国籍の人々が住んでいる街アムステルダム。
それだけの人々を受け入れてくれる街の魅力。
いろいろな価値観があって、それを受け入れながら生活しているのが豊かであると感じられる1冊。
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ほんのしるべ 書標 2013年1月号
人は生きる場所を選べるということを、我々は忘れがちである。何故その場所で暮らすのか、何故その街なのか、何故その国なのか。問われて即座に答えが出る人は稀だろう。多くの人はなじみのある場所にいつく。
この本の著者は、明確な意思を持って沢山の選択肢の中から選びとり、日本を離れてオランダのアムステルダムで生きていくことを選んだ。
前作『ライン・オン・ジ・アース』(エディマン・2940円)では、コソボやアフガニスタンなど、戦地、廃地を巡り、国家としての秩序が壊れかけた国と、平和ながらも歪みが生じている日本とを繋ぎ合うものとして描いていた。今作では、その旅の結果手に入れた安住の地アムステルダムと、相変わらずの日本とが、対比となって語られている。東京での暮らしで著者が感じた理不尽さや、破裂しそうになった日本の資本主義社会の悪意のようなものに、読者は胃をえぐられる思いをするだろう。彼の写真家としての視線はときに文学性を漂わせ、混沌とした都会に住む者の代弁者となっている。そして、対照的なアムステルダムでの穏やかで精神的に豊かな生活と、国の有り様は我々に安堵をもたらしてくれる。
アムステルダムというユートピアを見つけることが出来た著者を羨ましくも思う。しかしそれでも、私やほとんどの人は、今なんとなくいるこの場所で、繰り返される不快感とともに生きていくのだろう。世界は小さな祝祭にあふれているというなら、きっとここにもあるだろうから。その証拠に、著者が写真に切り取る街は、日本でも、アムステルダムでも、同じような温かさを漂わせている。(大)
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