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■読売KODOMO新聞 2021年3月18日号 「本屋さんイチオシ」 評者:山口敦子(リブロ新大阪店)
■「岩手経済研究」 2020年4月号 「松尾だより」末盛千枝子
■「岩手日報」 2020年2月27日
■MOE 2020年3月号 評者:茅野由紀(ブックハウスカフェ)
■『ku:nel』2019年12月号
■『京都新聞 ジュニアタイムス』2019年9月7日
■『岩手経済研究』2019年8月号 「松尾だより」末盛千枝子
■『熱風 GHIBLI』2019年7月号 (インタビュー)絵本編集者 末盛千枝子 構成:柳橋閑
■文藝春秋 5月号 評者:宮下奈都(作家)
■「13歳からの絵本ガイド―YA(ワイエー)のための100冊」
監修:金原瑞人、ひこ・田中(西村書店)
■玉川百科 こども博物誌 音楽のカギ 空想びじゅつかん 2017年9月
■月刊ピアノ 2017年5月号
■朝日新聞 2013年4月16日 生活面「読む」
■岩手日報 2012年12月26日 評者:早坂ヒロ子(盛岡児童文学研究会)
■ブックバード日本版 No.11
■カトリック新聞 2012年12月16日
■edu 2012年12月号 「末盛さんの本棚から選んだ、ママの時間を豊かにしてくれる本」
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読売KODOMO新聞 2021年3月18日号 「本屋さんイチオシ」 評者:山口敦子(リブロ新大阪店)
《おじいさんの庇護としたい!あこがれたデビーは…?》
デビーといっしょに暮らすおじいさんはピアノ調律師。調律師にあこがれるデビーに、おじいさんは「もうすこし良い仕事に就いてほしい」と言うのだけれど……。
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3年前、読売新聞の読者相談コーナー「人生案内」に、ある高校生のお姉さんの相談が載りました。
「将来の夢は水族館の飼育員。専門学校に行きたいのですが、両親からは大学へ行くように言われ、もめています」
皆さんもこんなふうに、将来の夢を反対される時がくるかもしれません。大人は、子どものことが大好きで心配するあまり、ついつい口を出してしまうものです。
主人公・デビーのおじいさんもそうです。デビーは、おじいさんと同じピアノ調律師になるのが夢ですが、おじいさんは「ピアニストになってほしい」と思っていました。
ある日、おじいさんの調律したピアノを演奏するピアニストの姿を間近で見たデビー。その心にはどんな変化が起きるのでしょうか?
「自分の気持ちに正直になっていい」と背中を押してくれる1冊です。
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「岩手経済研究」 2020年4月号 「松尾だより」末盛千枝子
〈本屋さん〉
先日、高知に住む友人S氏から、文旦という高知名産の大きな柑橘類が送られてきました。そのご夫妻が高知に引っ越してから、毎年いただいているのです。本当に嬉しくありがたいことで、春の知らせのようです。でも今は彼を引っ張ってくれたはずの高知の書店が閉店してしまったために、やむなく別な仕事をしていますが、もともとは親の代からの根っからの書店人で、私が彼に初めて会ったのは、山口県防府でした。それに、防府は、その数年前に亡くなった私の最初の夫の初任地でした。
その時、私は「すえもりブックス」を立ち上げたばかりで、しかも上皇后美智子さまの最初の本、まど・みちおさんの詩をご自分で選んで英訳をなさった「どうぶつたち」という本を日米で共同出版をした時のことでした。その本の出版を祝って、まどさんの出身地である山口で大きなイベントがあったのです。壇上には、谷川俊太郎さん、安野光雅さん、作曲家の山本直純さん、そしてまどさんが並び、司会は、NHKのアナウンサーという豪華なものでした。
ところがホールの入り口で、そのせっかくの新しい本を売ってくれる本屋さんが見つからなかったのです。それを知った、当時大手の出版社の児童書の営業担当だった女性が、山口の書店にいるS氏を紹介してくれ、しかも彼女も一緒に夜行列車に乗って山口まで行ってくれて、販売を手伝ってくれたのです。1992年の忘れられない出張でした。その後も彼女とは付き合いが続き、一緒にボローニャ・ブック・フェアに行ったりもしました。
そして、今はもうないのですが、彼女が力を入れていた池袋のリブロという大きな書店の芸術書の担当者を紹介してくれました。音楽学校出のしかも岩手県出身の美青年でした。しかもその人は、私が東京から岩手に引っ越してくるのと前後して、やはり岩手に帰っていました。最初は本屋さんにおられたようですが、やがて音楽教室関係の仕事についているようで、今も、いろいろと相談して助けてもらっています。先日盛岡のおでってのホールで開催された女優の中井貴惠さんとピアニストの石塚まみさんによる「ピアノ調律師」という以前に私が翻訳して出版した絵本の朗読会にも、お弟子さんたちを誘ってきてくれました。本当に不思議なご縁です。
その日、おでってのホールの前では、岩手での講演会の時には必ずお世話になる盛岡のK氏が机を並べて販売をしてくれました。そして私がすえもりブックス時代から出してきた絵本を引き継いでくれ、しかも、「人生に大切なことはすべて絵本から教わった」という連続講演を代官山で計画して、それをまとめて出版してくれた現代企画室の実質的なオーナーと担当編集者が東京から駆けつけてくれたのです。
K氏とは阿吽の呼吸とはこういうことを言うのでしょうか、私が話の中でどんな本のことを話すかを心得てくれて、毎回、きちんと揃えているのです。本当にありがたいことです。
そして、先日、名古屋であった大きな講演会の時には、主催者側が心当たりの書店がないというので、古い付き合いの静岡の児童書専門店の百町森さんに相談したのです、「誰か名古屋で、出張販売をしてくれる書店さんを知らないか」と言って。すると、少し遠いけれど、自分たち夫婦が行きます、と言って、静岡から車で駆けつけてくれたのです。そして、彼らとは、連絡はしていても、最近は販売のことを頼むこともなかったので、盛岡のK氏に相談して、書籍の販売リストをもらったのです。
百町森さんは、その昔、私がGCプレスというところで出版を始め、その最初に出した本「あさ」がボローニャ・ブック・フェアでグランプリになるという信じられないことがあり、その記念のパーティーが開かれた時からのおつきあいなのです。なんといろいろな方々にお世話になってきたのでしょうか。
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「岩手日報」 2020年2月27日
〈大人に響く絵本朗読
盛岡 中井貴惠さんら出演〉
中井貴惠さんらによるおとな絵本の朗読会(3・11絵本プロジェクトいわて主催)は、盛岡市中ノ橋通のプラザおでってのホールでこのほど開かれた。M・B・ゴフスタイン(米国)の絵本『ピアノ調律師』の朗読や対談を通じ、絵本の魅力を発信した。
中井さんと同プロジェクトいわて代表の末盛千枝子さんが対談。中井さんは、離婚した父と子を描くジャニス・レヴィ(同)作の『パパのカノジョは』を挙げ「ダブー視しがちな題材を海外の絵本では取り上げている」と示し、末盛さんは「そういうものが必要とされる社会ということ。(性的少数者など)世ははるかに先に行っている」と実感を込めた。
まもなく震災から9年。「震災が縁の出会いもあった。震災は悲しいことだが、諦めずにいれば幸せなことにつながる面もある気がする」と末盛さん。中井さんは「新型肺炎など多くのことが起き、震災が薄れてゆくのが怖い。絶対に忘れずにいたい」と被災地に思いを寄せた。
後半は、ピアニスト石塚まみさんの調べに乗せ、中井さんが『ピアノ調律師』を情感たっぷりに朗読。満場の約200人が拍手を送った。感極まった石塚さんは「絵本は盛岡出身の方から紹介された。この地で演奏でき、うれしい」と明かし、会場を沸かせた。
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MOE 2020年3月号 評者:茅野由紀(ブックハウスカフェ)
折に触れてふと手に取りたくなる本です。拭けば飛ぶような小さな存在の自分を励ましてくれる師のような存在。伝記にも、ドラマの主役にもならないような、地道な仕事をするたくさんの人たちの声は小さくて聞こえづらい。そこに光をあてて、しかも壮大なドラマに仕立てる作家の手腕にも感動します。ゴフスタインの本の中でもお気に入りの1冊です。「人生で自分の好きなことを仕事にする以上に、幸せなことはあるかい?」何度読んでも、胸がいっぱいになります。(茅野)
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『ku:nel』2019年12月2019年12月号
Book club | 私の3冊
大人をハッとさせる奥深さ。
今を映し出す絵本のエスプリにふれる。
主宰する「大人と子供のための読みきかせの会」が20周年を迎え、'17年には大人だけを対象にした「おとなの絵本の朗読会」も始めた中井貴惠さん。大人が楽しめる魅力的な絵本を薦めていただきました。
仕掛けたっぷりの大型絵本と生の音楽と一緒に、中井貴惠さんが朗読をする「大人と子供のための読みきかせの会」。今も週に2日依頼を受けた小学校や幼稚園を訪れています。
「きっかけは娘に読んで聞かせるものだった絵本に私自身が心を揺さぶられたこと。だから私の朗読は子供だけでなく必ず大人も対象としています」
と中井さん。今回選んでくれた3冊の翻訳の絵本も、大人をハッとさせるものばかりです。
「日本の絵本はどうしても勧善懲悪になりがちですが、外国の絵本は題材にタブーがなく現代的です。ここにあげた『パパはジョニーっていうんだ』は子供が離婚後別居している父親に会う切ない1日の話ですし、他にも身近な人の死を扱ったり、本当に多彩です」
『かんぺきなこども』もかなりシニカルな内容で最初はびっくりしたそう。
「まず冒頭の〈こどもストア〉で〈かんぺきなこども〉を手に入れるという設定が道徳的ではないですよね。どの親の心の中にも完璧な子供を求める気持ちがありますが、“いい子”と“親にとっての都合のいい子”は違うということに気づかせてくれます」
『ピアノ調律師』の作者ゴフスタインは日本にもファンの多い作家です。
「訳者で絵本編集者の末盛千枝子さんはまだ絵本が子どものものとされていた時代に上質で大人も楽しめる彼女の作品に出合い、私が作りたかったのはこういう本だと衝撃を受けたそうです」
中井さんが朗読したかったのもまさにこんな本。さっそく「大人の絵本の朗読会」で朗読しているそうです。
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『京都新聞 ジュニアタイムス』2019年9月7日
本の海へ
ギターなら自分でキー(音の高さ)を合せる。バイオリンもそう。演奏の前にギーギーと鳴らしているのを聞いたことがあるかもしれない。ピアノはそうはいかない。専門の調律師が少しのくるいもないように直す。
小さいデビーは両親をなくし、すごく腕のいい調律師のおじいさんとくらす。デビーはおじいさんみたいな調律師になりたい。なのに、おじいさんの方はピアニストになってほしい。上達しないデビーがもどかしい。
町に有名なピアニストがやって来る。調律はおじいさんだ。そのせいで、できなくなった仕事をことわりに、デビーが行かされる。でもデビーはおじいさんの古い仕事道具を持っていく…。
仕事へのほこり、あこがれ。働くことの中心にあるとても大切なことがえがかれる。
デビーのゆめは変わらないだろうか。そしてかなうだろうか。いや、変わっても、かなわなくてもいい。その仕事へのほこりがあるなら。
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『岩手経済研究』2019年8月号 「松尾だより」末盛千枝子
あの少年達
6月の最後の土曜日に東京に行ってきました。前から楽しみにしていた「ピアノ調律師」という絵本のイベントが代官山であったのです。自分が翻訳を手がけた絵本の中でも、最も好きな作品のひとつですし、女優の中井貴恵さんが見事に物語を語ってくださって、それに合わせたピアニストの石塚まさみさんとのデュオが、素晴らしい舞台を作り上げてくださいました。
第一部として、中井さんと私との対談があり、原作者ゴフスタインのことなどをお話しました。それに私は戦後盛岡で小学生の時に学校から連れて行ってもらった映画で中井さんのお父上の佐田啓二さんを見て、なんて素敵な人だろう、と思ったのです。生意気な子供でした。ですから、その数年後に中井さんと弟さんの中井貴一さんがまだ本当に小さい時に、佐田さんが交通事故で亡くなられた時のことは、はっきりと覚えています。そのお嬢様との対談でしたから、思いは特別でした。
ところが私は、この舞台がどのように展開するのか、初めてのことで想像もつかなかったのですが、それは予想をはるかに超えて素敵でした。絵本と言っても、絵はまったく見せず、いわゆる読み聞かせともまるで違って、中井さんの語りとピアノだけで進む、実に見事な舞台でした。時々、ほろっと涙が溢れるようでした。終わった時、そうか、私はこんな風に演じてもらえる作品を手がけたのか、と懐かしく嬉しい気持ちになりました。
そして、舞台が終わって、一番前に座らせていただいていた私が立ち上がると、知人たちが次々と声をかけてくれました。その中に、思いもかけない懐かしい方がおられたのです。私と同年輩の素敵な美しいご婦人が、名乗ってくださいました。忘れもしない、あの、美しく、悲しい少年の名前を名乗って「母です」と言ってくださったのです。
それは、今年44歳になる長男がまだ高校1年だった時のことです。冬休み明けの最初の日の、息子と同学年だったその子達のクラスの1時間目の授業は体育でした。そして、グラウンドでのランニングの途中で、その子が突然倒れ、そのまま亡くなってしまったのです。
本当に悲しい出来事でした。とても活発な、バンドではドラムを叩き、演劇の会では主役を務め、髪はポニーテールにしたりという、ちょっと悪ぶったところのある、下級生にも人気のあるそれは素敵な男の子でした。中高一貫校でしたが、学校中が呆然と悲しみに沈みました。私の家では、中学生の次男が、彼に憧れていて、その嘆きは見ていられないほどでした。
葬儀は、湘南辻堂の葬祭場で行われ、生徒たちも親たちもたくさん参加しました。彼の一番の親友だった静かな感じの少年が型破りで素晴らしい弔辞を述べてくれました。そのあと、火葬場は狭くてみんなは入れないからと、弔辞をしたその子だけが行くようにと言われたようですが、その子は、「みんなで行くか、みんな行かないかだ」と言って、断ったのだそうです。
それから、葬祭場を見下ろす駅の階段にみんなで座り、出棺を見送り、しばらく、みんな呆然としていたようですが、誰いうともなく、海に行こう、ということになり、4キロもある茅ケ崎の海岸まで黙々と歩き、何も言わず、冬の海に18人が並んで座り、夕日が落ちていくのを静かに眺め、彼らなりのお別れをしたそうです。
今になって思うのですが、私自身、あの時のあの子たちからもらったものは計り知れません。あの子のお母さんとお会いしたのは、あのお別れの日以来、初めての事でした。この何十年の間、何回も、あのお母様はどうしておられるだろうかと思っていました。
それにしても、どうしてあのイベントに来てくださったのでしょう。いろいろお聞きする間もなく、お別れしてしまったのが、なんとも悔やまれます。
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『熱風 GHIBLI』2019年7月号 (インタビュー)絵本編集者 末盛千枝子
『ピアノ調律師』―――人に贈りたくなる絵本
編集部(以下――)次にM・B・ゴフスタインの『ピアノ調律師』の話に移りたいと思うんですけれども、これまでたくさんの絵本を作られてきた中で、今回この作品を選んだ理由というのは?
末盛 ひとつには、先日『文藝春秋』(五月号)で「素顔の両陛下」という特集があって、その中で『ピアノ調律師』のことを宮下奈都さんが書いてくださっていたんです。映画『羊と鋼の森』をご覧になった美智子さまが、原作者である宮下さんに『ピアノ調律師』を贈ってくださったそうなんです。
最初に『ピアノ調律師』を刊行したとき、銀座の松坂屋で調律師の道具をディスプレイしてイベントを開いたんですが、そのときも美智子さまは見にきてくださいました。美智子さまはピアノを演奏なさるから、調律師へのオマージュがおありなんでしょうね。この本をとても気に入って、何冊もお買い求めになって、これまでお世話になったピアノ調律師の方や、そのご家族に贈ったそうなんです。
じつは作者のゴフスタインは二年前、自身の七十七歳の誕生日に亡くなってしまいました。ご主人も編集者で、彼女が最後に遺した言葉を小さな美しい冊子にして関係者に送ってくれたんです。自分はすばらしい人生を送ってきた、死を恐れてはいないということが書かれていて、とてもすばらしい一冊でした。
そのとき、ちょうど美智子さまのところへうかがうことがあったので、「こういうものが送られてきました」と言って、お見せしたんです。そうしたら、何回も丁寧にご覧になったあとで、「これ、コピーをとらせてくれる?」とおっしゃったので、「私はあとでもう一冊送ってもらいますから」と言って差し上げました。
――末盛さんにとっても、ゴフスタインは特別な作家の一人ですか?
末盛 そうですね。彼女とは同い年でとても気が合いました。『どうぶつたち』を刊行するとき、アメリカの出版社との打ち合わせでニューヨークへ行くことになったので、ゴフスタインに連絡したんです。そうしたら、ホテルまで会いに来てくれました。話し出したら、まるで昔からの友達のようにおしゃべりが止まらなくなってしまってね。当時、彼女はパーソンズ美術大学で教えていて、「クラスを見に来る?」と言うので、大学にも訪ねていきました。
――ゴフスタインの作家としての魅力はどのあたりにあるんでしょうか?
末盛 彼女のものを見る目、人を見る目が、私はとても好きなんです。簡潔な言葉を使いながら、とても深いことを書いていますよね。おじいさんはすばらしいピアノ調律師なんですが、孫娘にはピアニストになってもらいたいと思っている。ところが、孫のほうはおじいさんの仕事である調律師にしか興味がない。そのお互いの気持ちのずれが泣かせるんですよね。
朝日新聞の大阪本社の編集局長だった方もゴフスタインのファンで、後輩や部下が転勤になるときには必ず彼女の『作家』という絵本を贈っていたそうです。あるとき、ボローニャのブックフェアに行ったら、朝日新聞のローマ支局長の女性記者が来ていたので、その話をしたら、「私もそれをもらいました」と言っていました。
その編集局長さんは病気になってしまって、『ピアノ調律師』が出るころには、もうかなり悪くなっていました。間に合うといいなと思いながら、本をおくったところ、「“人生で自分の好きなことを仕事にできる以上に幸せなことがあるかい”というメッセージ、確かに受け取りました」という手紙が送られてきました。その後すぐに亡くなってしまったんですが・・・・・。そういうわけで、いろいろな意味で忘れがたい本です。
――ゴフスタインの本には、人にプレゼントしたくなる何かがあるのかもしれませんね。末盛さんもまたそういう絵本を作ってこられた。
末盛 そうかもしれません。そうだといいですね。
(2019年5月30日 八幡平にて)
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文藝春秋 5月号 評者:宮下奈都(作家)
白樺のおしるしと『ピアノ調律師』
二〇一八年、映画『羊と鋼の森』の試写を両陛下お揃いでご覧になってくださいました。その後に二十分ほどお話しさせていただいたのですが、おふたりはずっとにこやかに話しかけてくださいました。こちらから話題を提供しなければと意気込んでいたのですが、その意気込みも緊張もすべて溶かして慈愛で包み込んでくださるようなおふたりでした。
天皇陛下は映画をご覧になって、白樺が美しく描かれていたのがうれしかったとおっしゃいました。そして、白樺は美智子さまの「おしるし」だから、と付け足されたのです。私は隣にいらした橋本光二郎監督と思わず顔を見合わせました。大切な「おしるし」である白樺を美しく描けたよろこびと安堵。
陛下は続けて、皇居のお庭に自ら白樺を植えて育てているのだともおっしゃいました。それがもうこんなに大きくなって、と手で大きさをしめして見せてくださったときの、にこにことうれしそうなご様子は、なんともいえないやさしさに満ちておられ、ほんとうに美智子さまのことを大切に思っておられるのだとしみじみ伝わってきました。
美智子さまは、もともとゴフスタインがお好きで、絵本『ピアノ調律師』も好んで読んでおられたとのことでした。それで、調律師の物語である『羊と鋼の森』もお読みになってくださっていたそうです。小説と映画がどんなふうによかったか、やわらかく、親しみやすい口調で語ってくださったのですが、私は胸がいっぱいで、よく覚えていません。
ただ、夢中でお話をお聞きし、ご質問にお答えし、でも、うまく言葉が出せないでいると、「私もなの。たくさんお話ししたいことを考えてきても、そのときはうまくお話しできなくて、帰りの車に乗ってから、ああ、あれも話したかった、これもお聞きしたかった、って思うのです」とおっしゃったのです。なんとおやさしいお心遣いかと涙が出そうになりました。
後日、ゴフスタイン『ピアノ調律師』が自宅に送られてきました。あの日のおふたりの笑顔とお心遣い、そしてこの絵本が私の宝物です。
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「13歳からの絵本ガイド―YA(ワイエー)のための100冊」監修:金原瑞人、ひこ・田中(西村書店)
本当に好きなことを仕事にする、その幸せを書いた物語
「ピアノ調律師」
活発で、頑張り屋の女の子デビーは、ピアノ調律師のおじいさんと二人暮らし。朝、おじいさんがデビーを起こしにいくと毛布の中から歌声がします。
「フフフフーン」。
「フフフフーン」と返したあと、「おまえは今日、半音高いようだよ」とおじいさん。デビーは飛び起きてピアノをたたき、「本当だ!」と確かめます。
おじいさんは孫娘に、いつかピアニストになってもらいたいと思っています。ピアノ調律師よりも、もう少し良い仕事に。けれども誰よりもおじいさんの近くにいて、その仕事を見てきたデビーは、ピアノの調律の音色を本当に美しいと感じ、どんな音楽よりも好きだと感じていました。そう、世界一のピアニストの弾く音楽よりも。
おじいさんがどんなにデビーを愛していて、どんなに幸せになってほしいと願っているか、言葉の端々から伝わってきます。そしてデビーもまた、おじいさんのことを心から尊敬し、初めてひとりで挑戦した調律が上手くいかないと知って涙するぐらい、もうこの仕事に誇りを持っているのでした。
デビーは調律師になることができたのでしょうか?それは今も続く二人のおはようの挨拶でわかります。
「フフフフーン」。
「フフフフーン」。「今朝はふたりとも調子がいいようだね」。
そこにいるのは二人のプロフェッショナル。とても素敵な関係だと思いませんか。
どんなにピアノ弾きの才能があったとしても、きっと本当に好きなことを仕事にする以上に幸せにはなれないでしょう。
シンプルな絵は物語の素朴さを引き立てます。優しく降り積もるような文章をゆっくり味わってください。(奥野菜緒子)
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玉川百科 こども博物誌 音楽のカギ 空想びじゅつかん 2017年9月
デビーのおじいちゃんは、うでのいい調律師です。ピアノの音がくるわないように調整するのが仕事です。ある日、おじいちゃんはデビーに、パールマンさんのところにいって、調律にいく日を明日にかえてもらうようにことづてをしました。ところが調律をしてみたくてたまらないデビーは、パールマンさんの家につくと、「おじいちゃんのかわりをたのまれた」とピアノのふたを開け、チューニングハンマーをとりだし、けんばんをたたきはじめました。
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月刊ピアノ 2017年5月号
『ピアノ調律師』(M・B・ゴフスタイン:著)は絵本と挿絵の多い童話の中間というイメージの作品だ。ピアノ調律師ルーベン・ワインストックは、両親を亡くした孫娘のでビート2人暮らし。ルーベンはデビーにピアニストになってほしいと思っている他が、彼女はピアノを弾くことよりも調律に興味津々だった。そんなルーベンとデビーの毎日を、そっと見守る周囲の人々。物語の優しい空気感を伝えてくれる、シンプルな線画で描かれた挿絵もとてもかわいい。
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朝日新聞 2013年4月16日 生活面「読む」
デビー・ワインストックはがんばり屋さんの女の子。両親を亡くし、ピアノ調律師のおじいさんに育てられる。おじいさんが調律する音色の美しさに魅せられ、この仕事をしようと心に決心して―。
ゴフスタインは米国の絵本作家で友情や家族、仕事をテーマに若い人たちに向けて作品を発表。あたたかい文章とシンプルな絵が持ち味だ。
訳者は国際児童図書評議会の国際理事としても活躍した編集者。「3・11絵本プロジェクトいわて」代表として、被災地の子どもに絵本を届ける活動をする。
この作品はかつて刊行された「すえもりブックス」の一冊で、復刊だ。
帯にはこうある。
人生で自分の好きなことを仕事にする以上に幸せなことがあるかい?
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岩手日報 2012年12月26日 評者:早坂ヒロ子(盛岡児童文学研究会)
〈夢見た仕事にいどむ〉
デビーのおじいさんのルーベン・ワインストックは世界一の調律師。デビーはおじいさんのような調律師になりたいと、いつも調律の音に聞き入り調律道具の動きに目をこらす女の子です。でもおじいさんはデビーをピアニストにする夢をもちピアノのおけいこを欠かしません。
ある日、ピンチヒッターとして町を訪れた著名なピアニスト、アイザック・リップマンは友人ルーベンにコンサートピアノの調律を依頼しルーベンは引き受けます。その間デビーは、おじいさんを助けるためにその日頼まれていたパールマン夫人のピアノの調律を始めてしまいます!
仕事に厳しいおじいさんにデビーの願いは届くでしょうか。チューニングハンマーでたたく「ド」の音や、デビーとリプマンが弾くメンデルスゾーン「夢」などピアノの音が聞こえてくるような一冊。「人生で自分の好きなことを仕事にする以上に幸せなことがあるかい?」という老ピアニストの言葉が心に残ります。小学高学年以上。
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ブックバード日本版 No.11
〈好きなことを仕事にする幸せがメッセージとして伝わる〉
IBBYの元国際理事で、児童書の名編集者でもある末盛千枝子さんが手掛けた「すえもりブックス」で人気の高かった名作が復刻版として蘇りました。何を仕事にするのかは、子どもにとってとても大切な将来の夢。そんな子どもたちに与えたい1冊は、紙の本からピアノの音色が聞こえてきそうなほど、元気に描かれた女の子の物語。文字の多い絵本ですが、絵とのハーモニーが楽しめる文章です。
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カトリック新聞 2012年12月16日
画家として活動し、絵本の制作も手がける米国の作家ゴフスタインの作品。これまでも友情や自然、家族、仕事などをテーマにした絵本を数多く発表してきた。
主人公はピアノ調律師のルーベン・ワインストック。彼はひとり息子夫妻を亡くし、孫娘デビーを急に引き取ることになった。
男手ひとつで女の子を育てられるのか、周囲は心配するが、ルーベンは答える。「でもわたしは音楽を知っています。だからあの子にピアノを教えることができると思うのです」
ピアニストになってほしいというルーベンの願いをよそに、孫娘のデビーはいっこうにピアノが上達しない。デビーがなりたかったのはピアニストではなく、実はルーベンと同じ調律師だった。
ルーベンは著名なピアニストから絶大な信頼を受けるほどの技術を持っているものの、孫娘には「もうすこし良い仕事」に就いてもらいたいと考えていた。だが、デビーのひたむきさ、真剣な思いに次第に心を動かされていく。それは自分自身の仕事への誇りと、孫の幸せという、この上ない宝を同時に受け止めていく心の過程でもあった。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
この本読んで!edu 2012年12月号 「末盛さんの本棚から選んだ、ママの時間を豊かにしてくれる本」
末盛さんが、翻訳もてがけたアメリカの絵本作家・ゴフスタインの作品。孫娘をピアニストにしたいおじいさんは、ピアノ調律師。でも娘が本当になりたいものは……。「自分の好きなことを仕事にできるほど、しあわせなことがあるかい?」というメッセージが心を揺さぶります。「復刊プロジェクト第1作」。
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