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週間読書人    2012年9月7日    評者:伊村靖子(国立新美術館情報資料室研究補佐員)
美術手帖    2012年9月号    文=吉田宏子
美術手帖    2012年9月号「BOOK    新着のアート&カルチャー本から」    文=中島水緒
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週間読書人    2012年9月7日    評者:伊村靖子(国立新美術館情報資料室研究補佐員)

「大地の芸術祭」が送り出した生きるための「夢」の数々

マリーナ・アブラモヴィッチの「夢の本」と聞けば、現代美術に親しむ多くの人々には冊子がつくだろう。この本は、今年で5回目を数える「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭」の「夢の家」プロジェクトの一環として、設立当初から構想されていたものだ。それゆえ本書は作品の性質を反映し、世界的パフォーマンス・アーティスト、マリーナ・アブラモヴィッチのモノローグではなく、「夢の家」で紡がれた「夢のアーカイブ」と名指しされているのであろう。

そもそも「夢の家」では、宿泊者はアブラモヴィッチのインストラクションに従い、着替え、入浴し、特別に用意された環境で各々が非日常の一夜を過ごす。そこで見た夢を宿泊者自身が「夢の家」に書き記すことにより、夢の集積が作品の一部として成長し続けてきた。この体験型の作品の一部を収録し再発信することが、本書の目的であったといっても過言ではないだろう。とはいえ、アーティストの活動や芸術祭の背景を知らずに初めて本書を手にとる人にとって、夢の記録は文字通りアーカイブさながらに他者の夢の集積として相対化されてしまうかもしれない。「夢の家」プロジェクトに関する手記や本書のために夢をめぐって書き下ろされた詩やエッセイの意味もまた、プロジェクトの理解を促すための伏線としての編者の意図は抑えられ、解釈はあくまで読者の積極性に委ねられている。しかしながら、ここで語られる「夢」の力は、むしろ現実のプロジェクトの発展や「大地の芸術祭」とのつながりにおいてこそ本領を発揮するはずではないだろうか。

筆者は、冒頭と末尾にアブラモヴィッチと北川フラムが寄せた短い文章に注目したい。アブラモヴィッチは次のように述べている。「プロジェクトは、『大地の芸術祭』のためにつくられた。だが、本当に信じられないことが起こったのだ。『夢の家』の集落の住民たちが、その家を自分たちのものとして受け入れ、『夢の家』が彼等のコミュニティーの一部となったのである。作品がアートというコンテクストから出て、現実の生活に入っていったのは、私にとって初めてのことだった」(本書、5頁)。

彼女はこれまで、パフォーマンスという表現手段を通じ、まさに身を挺して社会や人間の暗部を直視させるメッセージを発し続け、それでもなお他者にい向き合う遺志を、観客に向けてダイレクトに示してきた。他者や異文化との関係性を問う活動を続けてきた彼女だからこそ、北川が言うように「そのままではマイナスになってしまう空家を舞台に選び、空家を使った最初の作家になり、しかもそれ(プロジェクト)は来圏者と集落が関われる仕組みをもつものとして構想された。まさに越後妻有という過疎高齢化により地域力が減退していくところでの大きな指針となるような作品を直感的に選び取った」(本書、228-229頁)のだろう。

思えば、「大地の芸術祭」そのものが開始から12年余を経て、グローバルとローカル、都市と地域、旅行者と住民、若者と高齢者など、実に多くの異なる価値や立場、方向性を束ね、送り返す場として定着しつつある。「夢の家」を訪れて旅人たちが見た夢のみならず、現実を変えるために芸術祭の立ち上げや運営に関わったすべての人々が、夢の力を信じたはずである。月日を経て芸術祭が成長した今こそ、改めて書く芸術のもつメッセージを伝えるよき水先案内人が必要ではないかと強く感じさせる機会であった。

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美術手帖    2012年9月号    文=吉田宏子

夢とは何かを追い求めた記録『夢の本』――マリーナ・アブラモヴィッチ《夢の家》約10年の軌跡

パフォーマンス・アーティスト、マリーナ・アブラモヴィッチが「大地の芸術祭  越後妻有アートトリエンナーレ2000」で発表した《夢の家》は、日常生活から離れて「夢をみる」ための体験型宿泊施設だ。そのプロジェクトの約10年間に及ぶ軌跡がまとめられた「夢の本」が刊行された。《夢の家》で、人々はどんな夢を見て、何を感じたのか。そして「夢」とはなんなのか――。

築100年を越える古民家を再生してつくられたマリーナ・アブラモヴィッチの作品《夢の家》。体験者は、作家が容易したお風呂で身を清め、「夢の服」を着てベッドに横たわり眠りにつく。そして翌朝、見た夢を「夢の本」に書き残す。ここは「夢を見る」ために訪れる場所であり、夢の収集所でもある。《夢の家》が生まれてから現在まで体験者が記した夢の数は1862。その中から100の夢が、この度刊行された『夢の本』に収録されている。

茂木健一郎は「夢の中でならば、私たちは、みな、マリーナ・アブラモヴィッチになれる」と本書の中で記す。彼女がつくった装置に身を委ね、無意識のもとで夢を見ることは、自らの身体を酷使し、自我を解放することによって成立するマリーナのパフォーマンスに通じるのかもしれない。

その結果がまとまった本書は、《夢の家》プロジェクトそのものの一部でもあるだろう。

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美術手帖    2012年9月号「BOOK    新着のアート&カルチャー本から」    文=中島水緒

新潟県の山中にある日本家屋を改造し、体験型アートプロジェクトとしてアブラモヴィッチが開設した「夢の家」。その概要、宿泊者による夢の記述と、中沢新一、茂木健一郎など研修者や作家らによる夢にまつわるテキストを収録し、夢を触媒とした内観へ読者を導く記録集




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