head

労働情報    830・1号    評者:伊藤みどり(『労働情報』編集企画委員)
連合通信    2011年1月7日    「話題の一冊」欄
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
労働情報    830・1号    評者:伊藤みどり(『労働情報』編集企画委員)

映画「外泊」を観た後、キム・ミレ監督は観衆に「外泊はどんな意味を持っていたと感じましたか?」「民主労総の闘い方についてどう思いましたか?」と質問を投げかけた。男性と女性では、感想が全く違っていた。男性は、「機動隊との激烈な戦闘場面に感動した」とか、「韓国はすごい」と民主労総や韓国労働運動賛美の感想が多かった。一方、女性は、外泊が女性たちにとって妻の役割からの自己解放でもあったことへの共感、民主労総や左派政党の支援のありかたに対する疑問などが上がった。

今年、本書の出版にあたりキム・ミレ監督と対談することになり、そのゲラを、私は食い入るように読んだ。「『外泊外伝』は、ドキュメンタリー映画『外泊』の“裏側”に、あるいは“外側”に目を向けるためにつくられました」と書かれている。女性労働者が、企業、社会、家族、労働組合という四重の抑圧の中で、自らの雇用を守るためにどのようにもがき苦しみながら闘いぬいたのかを組合員の聞き苦きやインタビューで振り返っていく。その中でも、キム・ミレ監督の次のような言葉に私は深く共感した。

「個人よりも組織を優先するべきだという論理。これは自身の状況をよりよく変えていこうとする当事者を後ろで支えるのではなく、自分たちが決めた枠の中へと引き入れるものに見えた。組織の力のために人々を引き入れるか、引き込まれない人々は切り捨てるやり方……。真摯さこそがすべてであるかのように、気持ちを分かち合おうとしない支持や連帯が果たしてどれだけ当事者の力になった だろうか。どれだけ有効だっただろうか?」

私がこの言葉に共感するのは、日本の労働組合の多くも同じに思えるからだ。IMF危機の時に、現代自動車労組は整理解雇撤廃のために命を懸けて闘ったという記憶があったが、本当は違っていたことを初めて知った。現代自動車での整理解雇闘争を、277人の解雇受け入れで合意し、長い過激な闘争を終結させるのだが、276人の食堂のパー卜の解雇を認めることで妥協したのだ。

そのことを批判的に描いた映画「飯・花・羊」に対して検関が入り、韓国の人権映画祭そのものが中止に追い込まれたことも知った。これは、かつて日本の闘う労働組合が企業の整理解雇に対してパートの解雇を「夫に養ってもらえばいい」と正社員の雇用を優先させて終結させた歴史と重なって思えた。こうした出来事の中で、民主労総の激烈なゼネストは以前より効果を失っていったのだということがよく判った。「外伝」は、女性や非正規を運動の軸に裾えない、代行的で男性中心の労働組合の闘争スタイルについて、証言をもとに検証する。

労働組合に参加するのに夫の許可がいる。勇ましく支媛に入ってきた労働組合や政党の幹部たちも自分たちのスタイルに引き込んだだけで、闘いの軸になる女性たちの「外泊」の意味を、本当に寄り添い後方で支媛しなかった。むしろ代行し、期待を裏切り、撤退した。

必要な時だけ、組合員のために「飯」を作らせ、闘いでは目立つ「花」だからと女を前に出す。しかし、女性がリーダーシップをとることを嫌い、男性幹部の指示に忠実に動く「羊」であることを求める。

私は、「外泊外伝」を日本の労働組合の男性幹部にこそ読んでほしいと思う。また男女問わず「かわいそうな労働者を救いたい」として労働運動をしている人たちの、「『支援』という名の勘違い」に気づくためにも、この「外泊外伝」をじっくり読んでほしい。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
連合通信    2011年1月7日    「話題の一冊」欄

韓国で2007年6月30日から510日間にわたり、パートの女性らが職場であるスーパーマーケットのレジカウンターを占拠した「イーランド闘争」。解雇撤回などを求めた闘いは、封建的な家族制度に縛られた女性たちが大々的に決起した運動として韓国社会で大きな注目を集めました。

本書は、社会問題をテーマにした作品を撮り続けてきたキム・ミレ監督がイーランド闘争に密着し、完成させたドキュメンタリー映画『外泊』の製作過程をまとめたものです。労働者たちが立ち上がった背景や、社会からの反響、闘争に参加した女性たちのライフヒストリーなどを丹念に紹介しています。

日本ではあまり知られていない韓国における労働運動の課題や現状を知る手引きとしてもおすすめです。



com 現代企画室 〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町15-8高木ビル204
TEL 03-3461-5082 FAX 03-3461-5083

Copyright (C) Gendaikikakushitu. All Rights Reserved.