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数学セミナー 2011年11月号    「BOOK  PLAZA」欄
評者:八森正泰(筑波大学大学院システム情報工学研究科)
MORGEN 2011年6月8日

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数学セミナー 2011年11月号    「BOOK  PLAZA」欄
評者:八森正泰(筑波大学大学院システム情報工学研究科)

本書は、数学が嫌いな娘が数学者のお父さんと数学について会話をする、という本である。学校の数学の授業が大嫌いな女の子が家でお父さんを相手に数学の納得できないところを愚痴り、それに対してお父さんが数学のよさを伝えようと答えていく、という展開の中で、数学についていろいろな紹介がされていく、という感じである。

なんとなくタイトルから、数学の本質はどういうものか、というような思想が述べられているのかと思う方もいるかもしれないが、そういう部分も少し混ざってはいるけれども、全体としてはそういうことを目指した本では(たぶん)なく、数学に普段触れていない人(文系の人や、この本の登場人物のような数学嫌いな中高生など)向けの、数学全般についての背景的な知識や基礎的な考え方を紹介する数学入門の本である。扱う範囲も中学生程度までの数学の題材で、数と演算(とその歴史)、初頭幾何、方程式、あと、証明するということの意味について、などである。

本書は最初、何か少し違和感を覚えながら読んだ。原書がフランス語で、その訳本であるということで納得できる。例えば、冒頭、『「説明する」ってどういうこと?』と娘に質問されて、お父さんは、フランス語の「expliquer」の語源を説明し始める。もし日本での会話だったら、同じ質問に対して「説明」の語源を説明し始めるという展開はありえないだろう。これは文化の違いで、語源についての説明から論を展開する文化なんだなぁと思って読めば読み流せるだろう。また、お父さんと娘は『レイ』と『ローラ』である。日本だったら、『お父さん』と『ローラ』だろう。(最近はそうでもない?)ただ、これは訳がよくない、ということではなく、訳は読みやすく、数学的なところもきちんと訳されていると思う。国の違いで文化的な違いがあるんだなぁと思いながら読むとよいだろう。

もう1つの違和感は、最初、ローラの年齢設定が分からないまま読んでいたからかもと思ったが(読み進めるうちに、中学生と分かる)、もう少し根が深くて、そもそも会話がうまく噛み合っていないんじゃないか、と思われるところである。しばしば、お父さんはローラの質問に対して延々と、このレベルの質問者にはついてこれないんじゃないかと思われるほどに込み入った説明をし始め、説明もやけに数学的な言い回しになったりする。ローラの方も、お父さんが長々と説明してくれた後にとんちんかんなことを言い、それに対して何かフォローするでもなくあっさりと全く違う話題に転換したり。会話というよりは、概ね、お父さんのモノローグである。とはいっても、一般の人から見た数学者の話し方の印象には合致しているのでしょうか。

以上、2つの違和感を指摘したが、その辺は割り切って、数学を巡る散文的モノローグのような読み物と思って読めば、初頭数学の入門としてはよい読み物と思う。

なお、本書の解説は複雑系の分野で活躍されている池上高志氏が、ご自身の子どもの頃の父親との会話の経験を交えて書かれている。個人的にはこの解説を非常に楽しく読んだ。この解説だけでも本書は充分に価値がある。
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MORGEN 2011年6月8日

「数学って、普通の生活のなかで、何の役に立つの?」。作家、数学者、コメディ俳優、多くの才能を持つ著者が、娘と父の対話形式で送る、教科書の外に広がるスーガクの世界。巻末には、理学博士・池上高志氏の丁寧な解説付き。



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