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■部落解放 2011年7月号
■図書新聞 2011年2月26日 評者:とよだもとゆき(スローワーク・ジャーナリスト)
■出版ニュース 2010年10月中旬号ブックガイド欄
■信濃毎日新聞 2010年10月3日書評欄
■ふぇみん 2010年10月5日 「チカラミナギル本のカズカズ」書評欄
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部落解放 2011年7月号
死刑か無期懲役かを争う事件の場合、「永山基準」という言葉を耳にする。東京高裁における永山則夫の無期懲役判決を覆した1983年の最高裁判決をこう呼ぶようになった。一方で、永山の犯した罪や生い立ち、彼の残した数々の小説や手記を知る人は少ないかもしれない。しかも出版された書籍の印税は、毎年ペルーの貧しい子どもたちに送られているのだ。そんな彼の複雑な実像を、弁護団の一員であった著者が語る。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
図書新聞 2011年2月26日 評者:とよだもとゆき(スローワーク・ジャーナリスト)
〈裁判で命まで奪い得る「真実と確かさ」があるのか
―永山則夫の弁護人が死刑制度の根底を問う〉
裁判員制度が始まって1年半を経た昨年11月、施行後初めての死刑判決が横浜地裁で下された。「およそ人間が想像しうる殺害方法で最も残忍で、被害者の恐怖や肉体的苦痛は想像を絶する」とまで認定された事件だ。死刑か否かの判断基準として「永山基準」に沿って量刑理由が列挙された。判決文を読みあげたあと、裁判長は「重大な結論なので、裁判所としては控訴を勧めたい」旨の異例の言葉を付け加えた。死刑判決を下しつつ控訴を進めるという撞着は、判決に反対した裁判員がいたこと、あるいは極刑判決を下す「不安」「ためらい」が評議の過程で強くあったことをうかがわせる。ここに象徴的に示される裁判員裁判の難しさと課題について、いちはやく問題提起していたのが本書である。
著者は、最高裁が「永山基準」を示した「連続射殺魔事件」裁判で、被告永山則夫の弁護人を一時期務め、以後も彼の意志を継ぎ活動を続けている弁護士で、この書で死刑判決とその執行への「異議申し立て」を行っている。
1968年秋に起きた「連続射殺魔事件」では、1ヵ月足らずの間にガードマンやタクシー運転手4人の命が奪われた。逮捕されたのは当時19歳の永山則夫。極貧の環境のもと、家出した母親に置き去りにされたのは5歳のとき。寒さと飢えのなかで辛うじて生をつなぎ、中学卒業と同時に上京した彼は、偶然も重なり事件を起こしてしまう。自らの死を覚悟したが、逮捕される。ほとんど読み書きもできなかった少年は獄中で猛勉強し、この社会のあり方に激しい怒りを覚えるようになるとともに、被害者のなかに幼な子をもつタクシー運転手がいたことを知り、自らと同じ境遇の子をつくりだしてしまったのではないかと悔恨にとらわれ、獄中で著した『無知の涙』ほか著作印税を各遺族に送るようになる。
地裁では死刑の判決が下される。当初極刑を覚悟していたが、文通で知り合った女性と獄中結婚し生への希望を抱き、高裁では無期懲役となる。しかし最高裁で破棄後の差し戻し審での死刑判決が90年に確定。死刑ー無期懲役ー死刑と変転する判決で心的に追い詰められる混乱のなかで離婚があり、身柄引受人が一時期空白となった97年8月、前触れもなく死刑が執行された。死刑と無期の間で揺れ動き、結果として彼の心情を翻弄した裁判と確定判決だけでなく、身柄引受人の空隙を衝くかのような刑の執行、間髪おかない荼毘、領置品目録提示拒否の拘置所、法務省にも、著者は強い疑念を表明している。
はじめは弁護団すら罵倒し頑なに閉ざしていた被告の心を開いた著者は、「被告人との魂の出会いの魔力にとりつかれ」、献身的な活動を続け、被告の妻とともに、事件遺族への謝罪行脚に出る。この事件を通じ、著者は「確信的な死刑廃止論者」になっていく。
ただし、本書は大上段から理念をかざして死刑制度廃止を訴えているのではない。被告や妻との交流、被害者遺族への贖罪への旅を経て、死刑判決ははたしてどのような論拠をもって下しうるのかを問うようになる。人間の判断がつねに不確かさをもち、危ういことをこの事件が示しているからだ。裁く側に立つ裁判官や裁判員がこれらと無縁であるわけがない。序文を寄せた元最高裁判事・団藤重光氏がかつて死刑事件で「一抹の不安」を抱いた苦悩が紹介されている。この「一抹の不安」こそ、「極刑とすることには躊躇せざるをえない」と無期判決を出した二審の船田裁判官も抱いたものだと推測している。一つの事件で裁く者によって死刑と無期、両方の判決が生まれる。裁判官や検察官、弁護人の構成だけでなく、マス・メディアや社会情勢によって判断が左右される。であるがゆえに、判断は絶対不動のものではない。人が人を裁く裁判に、生命までも奪い得るほどの「真実と確かさ」があるのか、という著者の問いかけは、死刑制度の是非を超えて重く迫ってくる。
最高裁判決の中で示された「永山基準」は、今日では死刑、無期の求刑論告、弁論、判決にあたってその適合判断基準として引き合いに出される。無期判決を破棄した最高裁判決がその後の法的基準になっていることに、著者は不愉快を隠さない。しかし、判決結論は別として、適用における厳格性を示した精神は生かされなければならないとし、この基準の安易な運用を厳しく批判する。犯行の罪質、動機、被害者数など9つの要素は判断材料の例示にすぎず、「死刑を選択するにつきほとんど異論の余地がない程度に極めて情状が悪い場合」に限られるとする謙抑的な基本精神が、現在では後退していることを指摘し、死刑制度が存続している限りは、永山基準を死刑適否の「謙抑的基準」とするべきことを訴えている。裁判員制度が始まった今日、99年に『死刑事件弁護人』として出された旧版が改訂新版として刊行された意義は大きい。
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出版ニュース 2010年10月中旬号ブックガイド欄
「連続射殺魔事件」の永山則夫の死刑が執行されてから13年がたつ。各級裁判所の死刑→無期→死刑という異なる裁判に翻弄されながらも、彼は「生」への希望は失っておらず、死刑執行直前に印税を世界の貧しい子たち、とくにペルーの子たちのために使うように述べている。これは「永山子ども基金」となり、貧しい子どもたちが集まり、勉強やレクレーションをするための塾をつくるための資金として使われていることを紹介し、改めて永山裁判の過程を辿り、「永山基準」と呼ばれるようになった1983年の最高裁判決に触れ、死刑適用についての客観的基準になった永山基準だが、九つの量刑基準のうちの被害者の数のみが一人歩きをしていると疑問を投げかける。
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信濃毎日新聞 2010年10月3日書評欄
19歳のとき拳銃で4人を射殺して逮捕され、一審死刑、二審無期懲役、最高裁で死刑判決という経過をたどった永山則夫元死刑囚(1997年執行)。彼は獄中で何を学び、どう変化し、社会にどんな影響を与えたのか。弁護人としてかかわった著者がその魂の遍歴を負う。
遺言に従い、著作の印税はペルーの貧しい子どもたちに送金されている。一方で、最高裁判決が死刑適否の基準となっている実態がある。裁判員制度が導入された今、死刑制度そのものを問う本書の意味は重い。
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ふぇみん 2010年10月5日 「チカラミナギル本のカズカズ」書評欄
19歳で4人を殺し、最初の殺人の後からは自殺志願者となり心を閉ざしていた永山則夫は、獄中で書物と出会う。なぜ自分は殺人を犯したのかを問い、遺族への償いを自らに課し、貧困と無知による犯罪の根絶を叫び『無知の涙』などの作品を世に問うが、1997年、死刑となった。永山則夫の弁護人を務めた著者は「(高裁での)無期は軽きに過ぎて“正義”に反する」とした最高裁判断に対し、多くの事実を示し、反論を試みている。死刑廃止論者ではなかった著者だが、この事件を引き受けるなかで確信的な死刑廃止論者に変わったという。
裁判員時代を迎え、命を奪った者は自らの命で償うべきと考える人にも、本書はひとつのテキストになるだろう。
永山則夫の良き理解者でもあった著者らが処刑後も彼の遺志を継ぎ、ペルーの貧しい子どもたちに永山の印税とコンサート収益を届けている姿にも感動した。(束)
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