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生駒市図書館 図書館だよりNo.152 2019年4月1日
SKYWARD(JAL機内誌)    2013年6月号「梅雨のシーズンにおすすめの本」評者:幅允孝
朝日新聞(大阪) 2010年10月16日 評者:河合真美江
週刊読書人 2010年6月4日(金) 評者:森下みさ子(白百合女子大学准教授・児童文化専攻)
毎日新聞 2010年5月9日(日)評者:湯川豊

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生駒市図書館 図書館だよりNo.152 2019年4月1日

すえもりブックスの設立者、末盛千枝子さん。彼女が人生で出会った忘れられない作品の数々が、人生の出来事とともに味わい深い文章で綴られています。

大人のあなたに出会ってほしい本がここにあります。
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SKYWARD(JAL機内誌)    2013年6月号「梅雨のシーズンにおすすめの本」評者:幅允孝

〈何気なく書店に並んでいる絵本の数々。その背景にある作者と編集者の物語〉

絵本が紡ぐのは、シンプルで、誰にでもわかるストーリー。しかし、その奥には作者の深い思いや作品をめぐる物語が存在します。

本書は、絵本出版を手がけてきた編集者・末盛さんが、作家たちとの出会いを振り返ったもの。タシャ・チューダー、エリック・カールをはじめとした著名な作家たちと、チャーミングな末盛さんとの交流エピソードからわかるのは、作品が生まれた背景や、時間をかけて積み上げられた絵本がもたらしてくれるもの。知っているのと知らないのとでは、絵本を手にしたときに感じる重さが異なるでしょう。
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朝日新聞(大阪) 2010年10月16日 評者:河合真美江

〈愛あふれる絵本の世界〉

絵本編集者として活躍する末盛千枝子さんが、人生と絵本をめぐる話を「人生に大切なことはすべて絵本から教わった」(現代企画室刊、本体2000円)にまとめた。絵本を通して出会った世界中の作家、編集者や家族のエピソード、宝物のような絵本の数々を紹介している。

末盛さんは1983年に前夫を突然死で亡くした後、2児を育てながら出版社を設立。まどみちおさんの詩を皇后美智子さまが英訳した「どうぶつたち」など国内外の絵本を出してきた。

本書では、米国の作家で園芸家のタシャ・チューダーを森深い家まで訪ねていく話や「はらぺこあおむし」の作家エリック・カールや「ピアノ調律師」の作家M・Bゴフスタインらとの出会いが語られる。

そして、いつも問いかける。いい絵本とは何か。それは、悲しみのひとはけがありながら、希望のもてるハッピーエンドになっているものだという。作家シャーロット・ゾロトウらの作品を紹介したのも「悲しんでいる子どものそばに立っている」からだ。将来に希望をつなぐ絵本に出会っていれば、大人になった時、かなりのことに耐え、人を愛していける、とつづる。

末盛さんの父は彫刻の大家の故舟越保武さん、弟はやはり彫刻家として活躍する舟越桂さん、直木さんだ。

「本から広がる世界」と題して、31日午後1時、大阪市北区の朝日カルチャーセンター中之島教室で講演もある。3500円。同センター(06-6222-5222)へ。

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週刊図書新聞 2010年6月4日(金) 評者:森下みさ子(白百合女子大学准教授・児童文化専攻)

〈絵本を愛おしみをこめて「紹介」―「すばらしい」出会いをつづる「美しい」本〉

「本」という紙の束の中に、今ここにはない「別の世界」が在ることを、人はいつごろ、どのようにして知るのだろう?「別の世界」の最初の扉が絵本にあったことはまちがいないように思われる。紙をめくって中を覗き込もうとする行為は8カ月頃から見られるというが、そこに別世界が開けていることを教えてくれたのは、絵本をめくってくれたり書き込まれた文字を読んでくれたりした大人であり、その絵本を創り出したり出版したりした大人である。自分自身が大人になって再び絵本を開き「ここが別世界への旅の入口だった」と振り返るとき、魂が憧れ出て行くようないくつもの旅を用意してくれた本の創り手や与え手に、わたしはひそかに深々と感謝する。

末盛さんも、そんな感謝をささげたい大人の一人だ。が、この本は、至光社で絵本の出版に携わった後「すえもりブックス」を設立して美しい絵本を世に送り出し、さらにIBBY(国際児童図書評議会)の活動に取り組んできた末盛さん自身が、みずからの人生を振り返って「絵本の誕生」にかかわった人たちに感謝をささげるものである。「絵本」といっても子どものためのものとは限らない。「本」として人の目を憩わせ和ませ、ときに悲しみとともに深く考えさせ希望や喜びを喚起させる、よりストレートに魂を揺さぶる絵や写真を載せて別世界へと誘う本が、ここには取り上げられている。2008年に代官山ヒルサイドテラスで行われた10回にわたるセミナーを通して、末盛さんはそれらの絵本を愛おしみをこめて「紹介」する。そう、決して声高に論じたり解読したりすることなく、その絵本や絵本を創り出した人たちとの出会いが優しい口調でいかにもうれしそうに語られるのだ。

不思議なことに、優しく「紹介」されればされるほどに、絵本は根を張って立ち上がってくる。タシャ・チューダーの『すばらしい季節』、ゴフスタインの『作家』『画家』、シャーロット・ゾロトウの『けんか』、グランマ・モーゼスの絵、ジョージア・オキーフの画本、末盛さんの家族がそれぞれに心に刻み付けていた『ザ・ファミリー・オブ・マン』という展覧会の図録までもが、人の生をしっかりと支えてくれる立木となってみずみずしい若葉を広げる。「絵本」というものが、さまざまな出会いの中に生まれ育ってくるものだからなのか、絵本が生えている大地や澄んだ大気までもが感じられる「紹介」である。合わせて同じく絵本の森の守り人である絵本作家安野光雅氏や「暮しの手帖」編集長の松浦弥太郎氏との楽しげな対談も収められている。

ところで、いくつもの絵本やその誕生に携わった人との出会いを語ったこの本には、「美しい」という形容詞と「すばらしい」という形容詞が随所に散りばめられている。どちらも聞き慣れた言葉であるのに、わたしはこれらの言葉の本当の意味を初めて知ったかのような気がした。紹介された絵本の表紙がモノクロで小さく載せられているだけなのに、末盛さんが「美しい本」として取り出したときの輝きが、そして、その本と出会えたことの「すばらしさ」が芳しいほどに伝わってくる。一人の女性の生き方の中に「絵本」を形容する美しさもすばらしさもしっかりと編みこまれているからだろう。この本そのものが、絵本との「すばらしい」出会いをつづる「美しい」本であることはまちがいない。

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毎日新聞 2010年5月9日(日)評者:湯川豊

<祈りを込め 編んできた半世紀>

末盛千枝子氏は45年にも及ぼうという、長い経歴をもつ絵本編集者である。2つの絵本出版社を経て、1988年に独立し「すえもりブックス」を設立。絵本の編集ひとすじでやってきた。若いころNHKのディレクターだった夫が突然死し、二人の男の子をかかえて編集者をやり通した、というような個人的な軌跡も折にふれて語られてはいるが、これは単純な回想記ではない。

では、この本の魅力はどこにあるか。

第一に、世界的な絵本作家たちの肖像と、その仕事の成果がじつにあざやかに語られていることだ。 たとえば、日本でもファンが多い、アメリカのタシャ・チューダー。1991年、担当編集者に連れられてバーモントの森の中に住むタシャ・チューダーに会いに行く。ニューヨークから7時間のドライブで夜遅く深い森の中の家に着く。

次の日の早朝、起きだしてみるとタシャはすでに庭に出て働いていて、それも素足。朝食には最終した木の実が次から次へと出てくる。タシャはこのとき75歳すぎ。

長年、畑仕事をしながらコツコツと職人のように絵を描きつづけ、4人の子どもを育てた(夫とは離婚)。絵本が大ヒットしたとき、バーモントに30万坪の土地を手に入れて住んだ。

末盛氏は本物の孤独の中に生きるタシャを掘り深く描きながら、この絵本作家の特徴が徹底した職人仕事であることを指摘している。説得力十分だ。

『ピアノ調律師』の作家、M・B・ゴフスタインと初めて会ったとき、その風貌が彼女の描く「絵本そのものじゃないの!」と思ってしまう話は、つい笑ってしまう。この本には随所に品のあるユーモアがあふれている。ゴフスタインの絵本の魅力は、「悲しみのひとはけが塗られている」こと、という見方もなるほどと腑に落ちる。

他にもたくさんの作家たちが登場するが、それは省略。この本の魅力の第2は、欧米のとてつもない編集者とのつきあいが紹介されていること。アメリカのマーガレット・マッケルダリーという、この世界では知らぬものなしという女性編集者の風格。といっても、80歳のマッケルダリーが末盛氏の友人である銀行マンを指して、あの人とならデートしてもいいわ、とささやくあたり、なかなかこみ入った風格なのだ。

編集者としては、11人のノーベル賞作家を担当した英国のトム・マシュラーの話など、おもしろいエピソードが多い。

魅力の第3は、家族のことが、押しつけがましさはみじんもなく、自然に、こまやかに語られていることだ。末盛氏の父は、彫刻家の舟越保武、弟の桂、直木の二人も彫刻家である。父の親友に若くして亡くなった画家の松本竣介がいるが、父の死後その年譜をつくったとき、母の道子が「汽車賃の工面ができず(松本の)葬式に参加できなかった」と1行書き足した。夏の夕暮れのすみれ色の空を、父が「それは竣介の空だ」といっていたという、心打つ挿話。

いい絵本とは何か。きちんと希望があること。ハッピーエンドではないとしても、「悲しんでいる子どものそばに立っている」ことが大切なのだと、作家で編集者のゾロトウに言及しながら末盛氏はいう。絵本編集者の、長い体験と祈りがこもっている主張である。

本書はあるサークルでの話がもとになっているが、きれいに整理されている。巻末に、本文で取り上げた絵本の全リストが掲載されているなど、行き届いた本づくりにも好感をもった。



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