■救援 2012年3月10日
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救援 2012年3月10日
2月7日映画「サルバドールの朝」を鑑賞した。死刑映画週間10本上映のうちの1本である。悲しみに押しつぶされ、足をひきずり帰宅した。
物語は「反体制活動で警官を射殺し、軍事法廷で死刑判決を受けた25歳の青年サルバドールが、鉄環絞首刑で74年3月2日朝、惨殺されるまでを実話にもとづいて描いた」作品(プログラムより主旨引用)。06年スペイン映画、134分。日本上映は2007年9月から。
鉄環絞首刑とは文字通り鋼鉄の輪を首に嵌め、背面からボルトをねじ込んで首骨を断裂する処刑だ。フランコ独裁体制下、36年余にわたりこういう残虐刑をしていたのだ……上映館ユーロスペースを出ると、朝の雨があがっていた。だが鉛色の空は「暗殺・リトビネンコ事件」のときと同じ。あの日はたしか小雪が舞っていたのでは?もう4年前だけれども。
フランコは75年11月、80歳で病没。青年処刑から1年8か月後だ。また憲法でスペインが死刑を廃止したのが78年12月。サルバドールの悲死から4年9か月後である。彼はどこまでも不運だった。つまり73年12月20日、地下抵抗組織がフランコの右腕だったブランコ首相を暗殺独裁政府の復讐を一身に受ける羽目に陥ったのだ。
時折スクリーンにチェロの演奏が流れ、08年桜季、辺見庸講演会での海野幹雄さんの姿を思い出した。そういえば青年の故郷はバルセロナ。そのカタル0ニャ地方からは、世紀の巨匠といわれるパブロ・カルザスが輩出している。チェロの音色は、命を語る音色なのである。
翌翌日、原作を版元(株)現代企画室から購入した。税込2310円。映画は30年以上の史実に正確にそって制作されているのが分かった。また25歳青年の短い命を強力に支えたのが4人の姉妹だったことも。姉27歳。妹が22歳と20歳。そして末っ子は13歳。
残酷な時間に耐え続けた苦しみはいかばかりだったか。彼女たちは今日も病む人、幼児、障がい者に寄り添う職業に就いている。米国へ移住した医師の長兄が45歳で早世したのは気の毒。両親は絶望の深淵で生涯をおえた。
偉そうな口ぶりになって申し訳ないが、今回の死刑映画週間はいい企画だと思う。次回には「暗黒街のふたり」もどうだろうか。73年、フランス=イタリア映画。
偏執的につきまとう刑事を絞殺した仮釈放中の主人公はなぜ法廷で最後の弁明を沈黙したのか。身元引受人となり私生活あげて更正を援助した保護観察司は、なぜ訣別の言葉を沈黙したか。
アラン・ドロンとジャン・ギャバンの名演技とジョヴァンニ監督のリアリズムが死刑制度の非情をえぐる。フランスの死刑廃止は、本作から8年後の81年9月だ。DVD発売中。
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