「セレクトブック」のコーナーでは、現代企画室の本をひとつのテーマのもとにジャンルを横断してご紹介します。現在約400タイトルに及ぶ現代企画室の本をさまざまなテーマで結び合わせてみると、新たな世界が見えてくるかもしれません。
第11回 「1960年代・70年代の芸術――粟津潔・中原佑介の仕事から」
昨年来、現代企画室では、粟津潔さん、中原佑介さんといった先達たちの仕事をまとめる機会に恵まれてきました。(『粟津潔、マクリヒロゲル――金沢21世紀美術館コレクション・カタログ』「中原佑介美術批評選集」)
主に1960年代、70年代に多様な展開を示したふたりの仕事をふりかえると、当時の作品や文章がもつ現代的な意義にあらためて気づかされます。アーティストがジャンルの垣根を越えて協働し、社会の動きと密接なところで未知の世界を切り拓こうとしていた戦後の芸術が、70年代をさかいに分業化が進行したと見てとる中原さんは、「ジャンルの異種交配っていうのは、戦後派と言われる、焼け野原の荒野から出発した私たちだけのことであるかもしれない」と述べています(『粟津潔、マクリヒロゲル』収録の講演より)。そうすると「芸術」が自足し、そのなかでの分業が確立している現在の状況は、私たちの社会が達成した「安定」や「繁栄」の結果といえるのかもしれません。しかし、粟津さんが終生告発しつづけた人間の疎外や、中原さんが対峙した物質文明の蹉跌は、束の間の「繁栄」のうちにいかほど軽減したのでしょうか。
昨年の震災と原発事故をへて、21世紀初頭のいま、私たちはふたたび文明の「荒野」に立たされていることを自覚せずにはいられません。粟津さんと中原さんが課題としつづけた「環境」「物質」との関係を新たにむすびなおし、私たち自身の手でこれからの生活や表現を構想していくための数多くの手がかりが、以下に集めた1960年代・70年代の芸術をつぶさに見てきた美術家や批評家たちの言葉から得られるものと思います。
金沢21世紀美術館 コレクション・カタログ
定価3000円+税
1960年代の代表選手、奇才・粟津潔の全貌をしめすコレクション・カタログ!戦後の焼け野原にひとりで立ち、そこから人並みはずれたパワーと好奇心でマクリヒロゲられた粟津潔の世界が発する熱は、21世紀の初頭、ふたたび「荒野」をさまよう私たちになにを伝えるだろうか。
粟津潔横断的デザインの原点
定価1800円+税
日本を代表するデザイナー粟津潔の少年時代の記憶。独学で学んだ粟津にとって、街が教師であり、眼にした不思議やさまざまな出会いが題材であった。
日本初の本格的な国際展
定価2400円+税
中原佑介美術批評選集第5巻。芸術・文化の世界に衝撃をあたえた国際展「人間と物質」を中心に、展覧会の全容、「人間と物質」に至る中原の思考の軌跡、展覧会後の反響への応答を示す文章をそれぞれ集めた。
1960-1983
定価3000円+税
60年以降の美術の動向を記録した美術記者の事件簿。美術の現場から送られる数々のルポルタージュ、作家論、展覧会評は、万国博をピークにする日本画壇の実情と趨勢をあますところなく伝えている。120余人の人物評、作品写真多数。著者は共同通信美術記者。
脱意味の美術/1979〜1981
定価3000円+税
純粋・高級志向を足蹴にし、多重・他面・B級志向の現代文化論。戦後のアール・ポップから80年代文化の本質をなすイエロー・センスまで、柔軟な感性が捉えた〈現在〉。