ギリシャ裏町散歩
 
稲生 節/著
本永惠子/装丁  

46版、上製、191頁
定価1200円+税
ISBN4-7738-0508-0 C0026 Y1200E

 
大きな歴史遺産、世界の古都アテネ。旅行者たちを釘づけにする魅力のエーゲ海――。そういう旅行案内書の類の視点では書かれることのなかったギリシャ。そこに焦点を当てた「裏町散歩」。

 著者の眼を通して、ギリシャに暮らす人々、その明け暮れの生の姿、日々の哀歓が浮かび上がる。

アテネのポン引き、モノを乞う人の姿、そして午後のシエスタをむさぼる幸せな犬たち・・・・・・。ギリシャの「影」も「光」も、ともに単独では存在しない。

【著者 稲尾 節】
1942年 大阪府生まれ ルポライター・編集者
主な編・共著に『琵琶湖周航の歌 うたの心』(海曜社)『異空間の俳句たち』(発売・雄山閣出版)『大道寺将司句集 友へ』(ぱる出版)ほか
   

 
 失われた記憶を求めて
 狂気の時代を考える
 
文富軾(ムン・ブシク)/著
板垣竜太/訳
泉沢儒花(Bit Rabbit)/装丁  

46判・上製・278頁
定価2500円+税
ISBN4-7738-0412-2 C0036

 
あの生々しい暴力の記憶はどこへ消え去ったのか。韓国民主化
運動に関わる「記憶」と「忘却」の問題を深くえぐり、韓国社会
に大きな論争を巻き起こした問題作。

1980年代韓国、光州事件に始まる、さらなる抑圧の時代を生き抜いた
著者が鳴らす警鐘が、「冷戦」の記憶が遠ざかろうとしている現在、
同じ東アジアに生きる私たちの心を打つ。

空前の「韓国ブーム」に沸き、数多くの人びとが韓国と日本を行き来
する昨今、1980年代の韓国民主化運動と激しい暴力によるその抑圧を、
どれだけの人がどのような形で「記憶」しているだろうか。本書は、
権力者と民衆、米国と韓国の関係などをめぐる「記憶」と「忘却」の
構造を、独自の視点から分析する試みである。

季刊の思想誌『当代批評』の編集者をつとめてきた著者、文富軾は、
神学を専攻する大学生であった1982年、光州事件弾圧の背後には米国
がいたと考えて、「釜山アメリカ文化院」に放火した事件の主導者と
して関わった。死刑判決を受けたが、その後恩赦で減刑となり、結局
1980年代の7年間を獄中で過ごした後、釈放された。
放火事件によって、図書室で学習していた韓国の一学生が死んだという、
忘れ得ぬ自らの記憶を根底におき、深い傷を負った心に感じる違和感に
正面から取り組もうとする真摯な姿勢が、読む者を深く揺り動かす文章
となっている。

著者=文富軾(ムン ブシク)
1959年、韓国釜山に生まれる。1978年、釜山の高麗神学大学(現・高神大)に入学。1982年3月、釜山アメリカ文化院に放火。4月に自首し、死刑判決を受けるが、「恩赦」により無期懲役に減刑。6年半の監獄生活をおくる。1993年に詩集『花々』を刊行。1997年に季刊・思想誌『当代批評』を創刊したが、現在は休刊中。
   

  ジャン=ピエール・レイノー 国旗プロジェクト
 
B5変形
久保悟(thisway)/装丁
定価1800円+税
ISBN4-7738-0507-2 C0071 Y1800E

 
国旗プロジェクト 

植木鉢、交通標識、危険物の告知シールなど日常のオブジェをモチーフとして反復し、人間の生と死を追求してきたレイノーは、1997年、突然、国旗へとその関心を集中させます。本物の国旗を枠に張り、「レイノーのオブジェ」として主張するという「運動」を、彼はフランス、ベルギー、オーストリア、キューバ、アルジェリア、アルゼンチンで展開してきました。そして今回、このアジア・シリーズを、日本を皮切りにアジア大陸において展開しようとしています。
「国旗」とは何か。オブジェとなった国旗たちはさまざまな問いを投げかけるでしょう。

ジャン=ピエール・レイノー
現代フランスを代表するアーティストの一人、ジャン=ピエール・レイノー。1962年、園芸家を目指していた青年は、植木鉢をセメントで塞ぎ、真っ赤に塗ることで、アーティストとして鮮烈なデビューを飾ります。1969年には、パリ郊外に、床も天井もすべてを白い浴室用タイルで覆った自宅を建設、その美術館兼自宅で23年間を過ごし、やがて自らの手で破壊したことは有名であり、映画にもなりました。レイノーは、「目的は芸術作品をつくることではない、芸術作品を生きることなのだ」という自らの言葉そのままの人生を歩んできた、現代において稀有なアーティストと言えるでしょう。


ジャン=ピエール・レイノーは国旗をオブジェとして美術の分野に転移させた。それらは記号としての機能を剥奪された国旗であり、レイノーのいいかたを借りれば、「それをわがものとした」国旗である。それにしても、国旗をオブジェとする美術家があるとは。だれもが考えそうなことだが、レイノーがその先鞭をつけた。
――中原佑介



 

 
 ヨーロッパ・アジア・パシフィック建築の新潮流2004-2005
 NEW TRENDS of ARCHITECTURE in EUROPE and ASIA-PACIFIC 2004-2005
 
A4判並製・110頁(カラー80頁)
定価2400円+税
ISBN 4-7738-0406-8 C0071

 
都市・コミュニティ・環境・文化など、さまざまな課題に応えようとする建築の現在を照射する多様な表現。
住宅から公共建築、都市計画、ランドスケープ、インスタレーション、アートワークまで、ヨーロッパとアジアパシフィックの20組の建築家による37のプ ロジェクトを、豊富なカラー図版と建築家本人による解説つきで紹介します。(日英併記)

日本・EUの共同企画として、2001年より代官山・ヒルサイドテラスなどで開催されている「建築の新潮流」展。3回目となる今回は、対象地域をヨ−
ロッパとアジアパシフィックにまで広げ、より多彩な顔ぶれとなった各国の若手を代表する気鋭の建築家たちが、コミッショナー(ドミニク・ペロー、原広 司)の招へいに応じて集まりました。本書は、その「建築の新潮流2004-2005」の公式カタログです。

【参加建築家】BKK-3/オーストリア  オーシャンノース/フィンランド
 デコイ・アーキテクツ/フランス J・マイヤー・H/ドイツ ハセット・デュカテス・アーキテクツ/アイルランド エラスティコ/イタリア
 レネ・ファン・ズーク・アルヒテクテン/オランダ ディディエ・フィウザ・ファウスティノ/ビュロー・デ・メザーシテクテュール/ポルトガル サダル・ヴガ・アルヒテクティ/スロヴェニア RCRアランダ・ピヘム・ヴィラルタ ・アーキテクテス/スペイン  カースティン・トンプソン・アーキテクツ/オーストラリア 張永和 / 非常建築/中国  ロッコ・デザイン/香港  イ・ジョンホ/韓国  ZLGSdn Bhd/マレーシア  アトリエ・ワン/日本 坂 茂/日本   古谷 誠章/日本 隈 研吾/日本 竹山 聖/日本
【序文】ドミニク・ペロー、原 広司


 



 
 モード! mode!
 ドイツ新世紀のファッションデザイナーとそのスタイル
 
企画・編集:ベル・エポック社(ケルン)
A5判・並製・102頁(カラー76頁)・日独並記
定価1500円+税
ISBN4-7738-0506-4 C0077

 
いま、もっとも世界の注目を集めている「ドイツ的スタイル」
自らのルーツに思いをはせつつ時代の欲求に鋭く反応する、ドイツ新世代を代表する9組のデザイナーによるプレゼンテーション
ドイツ文化の新しい動きをリードする気鋭の論客、ウルフ・ポシャルトの論考を収録

【本書に登場する、ドイツ新世代を代表する9組のデザイナー】
BLESS ブレス/FRANK LEDER フランク・レーダー(フランク・リーダー)/MARKUS LUPFER マルクス・ルプファー(マーカス・ルプファー)/LUTZ ルッツ/KOSTAS MURKUDIS コスタス・ムルクディス/STEPHAN SCHNEIDER シュテファン・シュナイダー(ステファン・シュナイダー)/DIRK SCHBERGER ディルク・シェーンベルガー(ダーク・ショーンベルガー)/STEPHAN SCHWARZ シュテファン・シュヴァルツ/BERNHARD WILLHELM ベルンハルト・ヴィルヘルム

本書は「日本におけるドイツ2005/2006」のmoDe!展を機会に出版されるものです。
moDe!展
2005年5月28日〜6月19日 会場:代官山ヒルサイドテラス

 
  


 
 木下川地区のあゆみ・戦後編
 皮革業者たちと油脂業者たち
 
木下川沿革史研究会/編
A5判・並製 120頁
定価1400円+税
ISBN4-7738-0503-X C0021

 
「皮革のまち」として知られる東京・墨田の木下川地区。
日本の近代化、経済成長を根底で支えてきたまちはいかにして生まれ、そこで生活する人びとはどのような思いで自分たちの産業を育ててきたかを綿密な調査 に基づいて明らかにし、大都市・東京の知られざる一断面を示す。
コミュニティの確かな息づかいが聞こえる「まちの物語」を綴った、みずみずしい地域史。

■本書の目次
はじめに
皮革関連産業の地域差 近代の被差別部落と皮革産業
T 木下川地区の歴史・前史
墨田区の皮革関連産業の事業所数 木下川地区の前史 近代の被差別部落と皮革産業 新谷町と甲田・山川原のひとびと 工場の強制移転
U 戦後復興――戦後の木下川の歴史のはじまり
一 戦時統制と江東皮革工業組合
さまざまな皮革業者たち
二 戦後復興から江東事業協同組合の創立
三 高度経済成長と製革組合
豚革鞣しの盛衰 皮革組合の意味と役割
四 高度経済成長以降の木下川の皮革業
木下川地区の環境改善事業 皮革産業の現在
V 木下川の油脂業
一 戦後油脂産業のなりたち
木下川の油脂業者たち レンダリング業 動物性油脂の需要の増加 平釜から圧力釜へ 東京油脂事業協同組合 油脂業と環境改善事業 これからの油脂業
二 木下川の膠屋さん
膠の作り方と用途 膠屋さんの歴史 出稼ぎのひとびと いまの膠屋さん
W 木下川地区の変化と部落解放運動
一 木下川小学校の閉校
二 部落解放運動と木下川
木下川の住宅闘争 北川京子さんのお話 部落解放運動に誘われて 狭山事件 支部の専従になる 三世代の解放運動
おわりに 転機を迎える木下川

   



 
 改憲という名のクーデター
 改憲論の論点を斬る
 
ピープルズプラン研究所編
定価1000円+税
ISBN4-7738-0504-8 C0036

 
内容
 序 論 憲法の横取りとしての「改憲」のプロセス
     ●小倉利丸
 論点1 憲法とは何か
     ――なぜ、「国民の義務規定」としてはならないか
     ●白川真澄
 論点2「前文」をめぐる改憲論とその問題点
     ●岡田健一郎
 論点3 改憲派(支配者)はなぜ天皇制に執着するのか
     ●天野恵一
 論点4 戦争放棄条項をめぐる改憲論とその問題点
     ●山口響
 論点5 基本的人権をめぐる改憲論とその問題点
     ●笹沼弘志
 論点6 改憲論の家族観
     ●齊藤笑美子

◆ピープルズ・プラン研究所「発行に当たって」より

このシリーズは、憲法改悪の企てに反対し、改憲の狙いや内容を批判し、改憲反対の大きな民衆運動をつくるための問題提起を行うことをめざして刊行される。
しかし、私たちは、改憲に対して、いわゆる護憲ではないスタンスに立って反対する立場をとりたい。護憲は、現在の憲法がいかに素晴らしいものであるかを強調して、改憲に反対する立場である。私たちは、政治や社会の現状を徹底的に批判し、民衆にとって望ましい政治や社会のあり方(オルタナティブ)がどのようなものであるのかを自由に構想し、論じることから出発して、改憲に反対する。
    
【今後のシリーズ発刊予定】 
『日本国家の「大改造」と改憲』(六月末発行予定)
●武藤一羊・木下ちがや著

以降は次のテーマを予定しています。
◆国民投票法案
◆九条と民衆の安全保障
◆「天皇の国」にしていいのか
◆国家に仕える家族なら要らない

(予定価格1000〜1200円)

   



 
 グローバル化に抵抗するラテンアメリカの先住民族
 
藤岡美恵子・中野憲志=編集
発行 反差別国際運動(IMADR)グァテマラプロジェクト
発売 現代企画室
定価 1,000円+税、124頁
ISBN4-7738-0502-1C0039
4月25日刊行

 
● <グローバリゼーション>と官製の<多文化・多民族主義>に抵抗するメキシコ、グァテマラ、エクアドル、ボリビアの先住民族とアフロ系コロンビア人の最新動向を分析。気鋭のラテンアメリカ研究者とNGOアクティビストの共同研究書。
● 2004年、6回にわたって行った同タイトルの連続講座から生まれたブックレットです。

目次
□ はじめに (太田昌国)
□ サパティスタ運動の十年が提起したもの (小林致広)
サパティスタ蜂起の十周年/十年間のバランスシートの枠組み/言葉=対話を機軸とする十年間の歩み/先住民も小規模企業家に?/われわれぬきのメキシコ?/人々の意思に従って統治する/ゆっくりした自治構築の試み
□ 政治参加から社会変革へ――エクアドル先住民族の挑戦 (新木秀和)
政治参加の進展――「民主化」は誰のために/多民族国家と多文化主義?―「国民」の中身を問う/社会変革への試練――オルタナティブと脱植民地化
□ 鉱山にNO、生命にYES――コーヒー栽培による森林保護とエコツーリズム (藤岡亜美)ナマケモノ倶楽部とエクアドル/フニン村の鉱山開発問題/生態系に配慮した発展を目指すコタカチ郡/三つのオルタナティブ/日本とのつながり
□ 先住民族の「能力」とグローバリゼーション――開発研究からのアプローチ(狐崎知己)問題の所在/先住民族と開発/グローバリゼーションと貧困
□ 先住民族の権利と鉱山開発 (青西靖夫)グァテマラ内戦と先住民族の権利/鉱山開発と先住民族運動/イサバル県におけるニッケル鉱山開発/先住民族運動の展開と政府の対応/何も知らない、何も相談されていない
□ マヤ民族のスピリチュアリティについて (実松克義)
□ 二〇〇三年十月政変から改憲議会へ――ボリビア政治情勢への視点 (藤田 護)「長い十月(largo octubre)」/ボリビアの社会運動の特徴/改憲議会に向けて
□ 暴力状況下の民族創生――アフロ系コロンビア人のたたかい (石橋 純)コロンビアにおけるアフロ系住民/混沌とする暴力状況/憲法改正と一九九〇年代の民族創生
□ 自由貿易協定と先住民族女性 (藤岡美恵子)自由貿易協定の女性への影響/土地・資源と先住民族女性/先住民族女性と土地・資源管理/伝統工芸と知的所有権/自由貿易体制と女性の雇用/国内法と自由貿易協定

□ ポスト九・一一における米国の中南米政策と先住民族 (中野憲志)
「対テロ戦争を戦う民主主義構築と開発戦略」への変質/軍事化するブッシュ政権の中南米政策/先住民族の権利保障と米国/おわりに――中南米の多民族・多文化社会への道と米国



 
 哲学的クロニクル
 
ジャン=リュック・ナンシー/著
大西雅一郎/訳
本永惠子/装丁  
4/6判・上製・144頁 定価2,200円+税
ISBN4-7738-0501-3 C0010 Y2200E
2005年4月上旬発売

 
哲学を専門とする者のみがこのテクストを理解しうるのではなく、このテクストによる自由=開放性への呼びかけを聴取=理解する者が、今この場において「哲学する者」であることを発見することになるのであろう。(「訳者あとがき」より)

【著者紹介】ジャン=リュック・ナンシー/Jean-Luc Nancy
1940年生まれ。ストラスブール・マルク=ブロック大学名誉教授。特にハイデガーが解明した実存の二重性をなす共存在・共同性と独異性・単独性の共有=分割(パルタージュ)という問題系を徹底化させることで、西洋形而上学・存在神論における身体性やテクネーの否認を脱構築し、出来事が真に到来しうるような世界、表象作用に還元されえないイマージュが現前しうるような世界、絶対的に切り離された単独者が、その絶対性=分離性のままに、“芸術的に”、触れ合うことが起きるような世界の創造──主体ならざる自己の自己触発、無カラノ創造──の可能性を素描し続けている。邦訳書に、『エゴ・スム』(朝日出版社)、『無為の共同体』『侵入者』(以文社)、『共同−体』、『声の分割』『哲学の忘却』『神的な様々の場』『共出現』『訪問』『映画の明らかさ』(松籟社)、『肖像の眼差し』(人文書院)、『自由の経験』(未来社)、『ヘーゲル』『世界の創造あるいは世界化』(現代企画室)、フィリップ・ラクー=ラバルトとの共著の邦訳に『ナチ神話』(松籟社)、編著に『主体の後に誰が来るのか?』(現代企画室)などがある。
   



 インディアス群書第5巻
 サパティスタの夢
 

マルコス副司令官&イボン・ル・ボ/著
佐々木真一/訳 
粟津潔/装丁
A5判・上製・定価3,500円+税
ISBN4-7738-0101-8

 
先住民共同体の価値観とマルクス主義との、絶妙なる組み合わせ。
 社会主義が敗北し、ユートピア思想の不可能性が取り沙汰されていた1994 年、メキシコ南東部の辺境で武器を手に立ち上がった覆面のゲリラたち。
 ゲバラの遺訓に学ぶと言いつつ、その活動と言語のスタイルは、従来の社会運動のスタイルを一新した。原初的な民主主義の実践、武装しつつ究極的には人殺しの仕事である兵士と軍隊の廃絶を展望する未来のイメージ、地域に依拠しているからこそ自由貿易市場への参入に反対する世界性、政府軍による武装鎮圧を許さず、和平に向けた対話に引きずりこんだ戦略性――それらすべての基盤に、無文字社会に生きる先住民の言語と、都市出身のマルクス主義的言語との、不思議な混淆が見られる。
 フランスの社会学者、イボン・ル・ボが、チアパスの密林の奥深いゲリラ根拠地で行なった、謎の副司令官マルコスとの長時間インタビュー。

【マルコスが語る内容】第一部◆たくさんの世界から成る世界を求めて◆EZLN前史/チェ・ゲバラとの最後の決別/先住民共同体との出会い・文化的衝
突/マルコスと仲間たち/蜂起/倫理、共同体と民主主義/どんな変革を求めるのか/ポピュリズム、国家、マルクス主義/シンボルと情報の戦争/マルコスは消滅するべきである etc.
【イボン・ル・ボ解説】第二部◎ふたたび世界を魅了する
   



 「娘/子どもたちと話す」シリーズ
 娘と話す科学ってなに?
 
池内 了/著
泉沢儒花(Bit Rabbit)/装丁
46変判・定価1,200円+税
ISBN 4-7738-0500-5 C0040

 
「科学者ってどんな人たちなの?」
「科学はいつ頃、どのように始まったの?」
「科学と技術ってどう違うの?」
「科学と戦争は、どのように関わってきたの?」
「地震や津波の大災害を、科学の力で防ぐことはできないの?」
私たちの生活に深く関わる「科学」をめぐるさまざまな疑問に、科学者の父が、科学者としての責任を自覚しながらじっくりと答える。
立ち止まって、もう一歩ふみこんで考えてみよう。よりよい明日を迎えるために。

著者紹介
池内 了(いけうち さとる)
「泡宇宙論」など独自の宇宙理論で国際的に知られる宇宙物理学者。現在、名古屋大学大学院教授。専門の宇宙論に加えて、寺田寅彦、中谷宇吉郎の系譜を継ぐ科学と社会の関係を問うエッセイを精力的に発表している。技術化、制度化、企業化に向かう科学の方向性に警鐘を鳴らし「等身大の科学」を提唱。「新しい博物学」を目指す自然科学館の立ち上げ(新潟県松之山町)に関わるなど、各方面で活躍している。

著書多数。近著に『寺田寅彦と現代』(みすず書房)、『考えてみれば不思議なこと』『ヤバンな科学』(以上、晶文社)、『物理学と神』(集英社新書)など
   



 老アントニオのお話
 サパティスタと叛乱する先住民族の伝承
 
マルコス副司令/著
小林致広/訳 
有賀 強/装丁
46判・上製・定価2500円+税
ISBN4-7738-0411-4

 
【陰の語り部】
老アントニオ(El Viejo Antonio)
(?〜1994年3月上旬)素性をめぐっては諸説あるが、ここではマルコスの説明に基づいてその輪郭を描くに留めよう。マルコスたちが完全に孤立していた1984年ころ、密林の奥深い川岸で、狩猟中の老アントニオに初めて出会った。

とても近いところに住んでいたので、その後も頻繁に顔を合わせるようになり、マルコスらはメヒコの歴史やサパティスタの歩みを、老アントニオはマヤ先住民の神話的な世界の話をして、交感しあった。南東部山中における先住民問題の特徴をサパティスタに理解させたのが、老アントニオの「最大の功績」だとマルコスは語っている。

いずれにせよ、先住民世界と、マルコスら都市世界のマルクス主義とは、老アントニオを媒介者として、奇跡的な融合を遂げたと言えよう。両者が出会ってから10年目の1994年、結核で死亡した。遺言として、「覆面の起源の物語」「太陽と月を創るために犠牲になる神々の物語」「どうして黒い炭から光が生まれるのかという物語」を遺した。

写真も肖像画も残っていない。ごく一般的なチアパス州の老人を描いたのであろう上の図は “Relatos de El Viejo Antonio” の扉に Itziar Villanueva が描いたものから採った。

サパティスタ特有の言語はここから生まれた!歩く書物=老アントニオは語る。誰かが受け継ぐ。受け継いだ者がまた語る。永遠の時を超えて、語り継がれるチアパスの伝承。

「マルコスは、アントニオ老から得たものを利用して先住民世界と都市世界を結ぶのだ。外部向けにサパティスタが語るもののなかにある先住民的要素は、アントニオ老の遺したものなのだ。私は盗作をしているようなものだ……」
【イボン・ル・ボ+マルコス『サパティスタの夢』(現代企画室、2005年)にお
けるマルコスの言葉】

【著者紹介】
マルコス副司令(Sup Marcos)
メキシコ・チアパス州で1994年に反政府・反グローバリズムの主張を掲げて武装蜂起したEZLN(サパティスタ民族解放軍)のスポークスパースン。

先住民主体の組織にあって、数少ない非先住民のメンバー。メヒコ政府は実在の誰某であると特定しているが、人前では常に覆面をして素性を明かさず、その半生も不明な謎の人物であるが、『サパティスタの夢』(現代企画室、2005年)では、政治・軍事組織の形成史に関してはかなり明快に明らかにしている。

「文章を書いていないと発砲してしまうから」と語るほどに膨大な文書生産量を誇る。広範な分野におよぶその表現は、今後も順次小社から刊行する予定である。(写真=佐々木真一)
 



 メキシコの百年1810-1910
 権力者の列伝
 
エンリケ・クラウセ/著
大垣貴志郎/訳 
有賀 強/装丁
A5判・上製・定価4500円+税
ISBN4-7738-0409-2

 
神格化された人物も、英雄の政敵とされた人物も、対等な地平に並べて描いた斬新なメキシコ近代史の力作。

19世紀メキシコ、カウディーヨの世紀に登場した人物は全員、メキシコ革命に活躍した偉大な人物(サパタやビーヤ)のように独特のオーラを共有している。

つかの間であったが、そんな特徴を保持していたのがチアパスで先住民蜂起を指揮したマルコス副司令官かもしれない。彼らは国難の時期や戦乱の最中を、重厚な伝統(先住民文化、キリスト教文化、スペイン文化)の強力な引力と葛藤しながら、一刻の猶予も許されない状況で弾圧からの解放と経済の発展を、追い求めなければならなかった。【本書より】


【著者紹介】
エンリケ・クラウセ
メキシコの歴史家・評論家。1947年生まれ。オクタビオ・パスが編集長をしていた Vuelta 誌で執筆活動を始める。81年からは同誌の編集長。

廃刊後、91年に出版社を創設現在に至る。99年に創刊された Letras Libres 誌の編集長として、メキシコ内外の問題に論鋒鋭く詰め寄る編集方針と硬派の掲載記事で注目を集めている。