2008年2月10日掲載
1月31日に教育再生会議の最終報告が出た。安倍前首相の鳴り物入りで始まった教育再生会議は、安倍首相の突然の辞任とともに影のうすいものになったかのようだが、しかし、教育基本法の改悪と関連する教育法が改悪され、教育再生会議が意図した目的の大半は実現されたと考えるべきだろう。教育再生会議が狙ったもので実現が見合わされたのは、学校民営化のための教育バウチャー制度と道徳の教科化だけだろう。私たちにとって、内堀も外堀もすでに埋められ、残るは天守閣だけとなったと言える。危機は大変深刻だ。教育再生会議の最終報告が出たあと、「道徳専任教員」の配置を文部科学省が考えているとの報道があったが、教育再生会議の狙いが具体化する表れのひとつであろう。
教育再生会議の最終報告は以下のサイトに掲載されている。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/houkoku.html
<以下、新聞記事のため転載禁止。>
教育再生会議―安倍氏と共に去りぬ(朝日新聞「社説」 2008・2・1)
世が世ならば……。そんな無念の思いで、この日を迎えた委員も少なくなかったろう。
政府の教育再生会議が、最終報告を福田首相に提出した。これまで3回にわたった提言を速やかに実行するよう改めて求めている。
しかし、再生会議の生みの親だった安倍晋三氏がすでに政権を去っており、今後、提言がどのくらい実現されるかはわからない。
再生会議が設けられたのは06年秋、教育改革を最重要課題に掲げた当時の安倍首相の肝いりだった。ノーベル賞を受賞した野依良治氏を座長に、各界の有識者が名を連ねた。
21世紀の日本にふさわしい教育体制を築くため、教育の基本にさかのぼって改革する。これが会議の目的だった。その幅広い顔ぶれから、活発な議論と骨太の提言を期待した人もいただろう。
しかし、同時に、時の政権とあまりに近すぎるという危うさを抱えていた。
1次報告の「基本的考え方」に、安倍氏のキャッチフレーズである「美しい国、日本」がそのまま引用されていることが象徴的だった。
教員免許の更新制や、文部科学相による教育委員会への指示を認めることなどがそろって1次報告に盛り込まれたのも、官邸からの強い意向だった。これらが教育3法の改正につながった。
私たちは社説で、この改正の持つ問題点を再三指摘した。学力の向上やいじめの解決につながるのか。文科省の管理が強まれば、教師を萎縮(いしゅく)させ、現場の工夫をそいでしまわないか。しかし、そうした疑問が会議の場できちんと議論された形跡はない。
安倍氏が熱心だった徳育の教科化は、最終報告の提言にも盛り込まれている。だが、文科省も中央教育審議会も消極的で、見送られる公算が大きい。
時の政権の影が色濃ければ、その行く末も政権とともにあるものだろう。福田政権になって、文科省や官邸はすっと距離を取り始めた。これに対し、委員からは不満や恨み言が聞かれた。
しかし、どうだろう。提言そのものに力があれば、旗振り役の安倍氏が去っても、その提言は世論の支持を得たのではないか。結局、提言には見るべきものがなかったということだろう。
とはいえ、いまの教育に改革が必要なことは言うまでもない。各界から様々な知恵を出し合う場も必要だろう。
その際、大切なのは政治や行政の思惑から離れて一から議論を積み上げることだ。時の政権がやりたいことを後付けするのでは意味がない。
そのうえで、印象論や思いつきだけで議論をしないことだ。過去の改革を検証し、専門家の意見に耳を傾けることも欠かせない。
教育再生会議の寂しき幕切れから学ぶべきことは多い
提言は着実に実行しよう(産経新聞「主張」 2008・2・2)
政府の教育再生会議が徳育の充実などを改めて求めた最終報告を福田康夫首相に提出した。文部科学省や中央教育審議会に迅速な教育改革を促す役割を果たした。
その最大の成果は、ゆとり教育の是正である。再生会議は昨年1月の第1次報告で、授業時間の「10%増」を求めた。この提言はその後の中教審の審議に生かされ、今年1月、30年ぶりに授業時間を増やす次期学習指導要領の最終答申が出された。
国語、算数(数学)など教科学習の時間を大幅に削減した今のゆとり教育は、平成8年の中教審答申で打ち出された。中教審はこの過ちを容易に認めようとしなかったが、昨秋の中間報告で、「授業時間を減らしすぎた」など5つの反省点も明記した。
再生会議はさらに、指導力不足教員の排除を含めた教員免許更新制の導入や学校運営を効率化させるための「副校長」「主幹」ポストの設置などを求めた。
中教審で、これらの提言を法案化するための審議がただちに行われ、教員免許の有効期間を10年とする改正教員免許法など教育再生関連3法が昨年の通常国会で成立した。
中教審委員や文科省の官僚がこれだけせかされるように動いたことは、かつてはあまりなかった。
教育再生会議は一昨年10月、官邸主導による公教育再生を目指す安倍晋三前首相の肝いりで発足した。今回の最終報告を含め、3回の提言を行った。その評価をめぐり、一部マスコミの社説や識者談話の中に、「結局、提言には見るべきものがなかった」「いずれも時代錯誤もはなはだしい提言だった」などと全否定する論評もあるが、あまりにも一面的な見方である。
ただ、再生会議が再三にわたって提言した「徳育の教科化」について、中教審や文科省で十分な議論が行われなかったことは極めて残念である。再生会議は徳育の教科書づくりも求め、ふるさと、日本、世界の偉人伝や古典などの活用を例示したが、これらが真剣に検討された形跡はない。
再生会議の提言は内閣が代わったからといって、なおざりにされるべきものではない。徳育の教科化を含め、着実に実行されることが必要である。内閣に設置される点検機関に、実施状況の厳しいチェックを求めたい。
教育再生会議、「後継」設置へ 最終報告受け首相表明
朝日新聞 2008年01月31日23時27分
政府の教育再生会議(野依良治座長)は31日、最後の総会を首相官邸で開き、「社会総がかりで教育再生を」と題した最終報告を福田首相に提出した。道徳を「徳育」として教科化することや「ゆとり教育」の見直しなどを盛り込んだ。首相は総会で、提言の実現度合いを点検する後継会議を内閣に設置する考えを表明した。
最終報告では「直ちに実施に取りかかるべき事項」として「徳育」の教科化と「ゆとり教育」見直しのほか、(1)小学校に理科や算数の専科教員を配置(2)社会人からの教員採用を5年間で2割以上に増員(3)学校の適正配置の促進、などを挙げた。
また「検討を開始すべき事項」としてスポーツ庁の創設、6・3・3・4制の弾力化、幼児教育の無償化などを記した。
ただ、「徳育」の教科化は中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)で慎重意見が相次ぎ実現の見通しは立っていない。6・3・3・4制の弾力化も飛び級などについて賛否が割れたままで、すべての提言を実現するのは難しいと見られている。
一方、福田首相は総会で「最終報告をしっかりと受け止めて、みなさまの論議の成果を今後十分生かせていくように、提言の実現、フォローアップに取り組んでいく」と述べ、後継会議を設置する意向を示した。
後継会議は首相と官房長官、文科相と外部の有識者で構成。2月中に設置し、提言が実現に向けて進んでいるかを定期的に点検する。幼稚園と保育園の一元化や産学協同の人材育成など、省庁にまたがる提言に対応するため、厚生労働相や経済産業相、総務相らを加えることも検討する。
教育再生会議:安倍カラー消え終了 追加提言なく最終報告
毎日新聞 (最終更新時間 2月1日 11時14分)
政府の教育再生会議(野依良治座長)は31日、首相官邸で最後の総会を開き、最終報告を決定した。ただ、新たな提言は追加せず、昨年の第1~3次報告に盛り込んだ事項について「すべて具体的に実行されてこそ初めて意味を持つ」と政府に具体的な取り組みを求めるにとどめた。
安倍晋三前首相の肝いりで06年10月に発足した同会議はこれで役割を終える。学校選択に競争原理を持ち込む「教育バウチャー制」の全国一律導入を断念したほか、第三者機関による学校や教育委員会の外部評価など、鳴り物入りだった「安倍カラー」のテーマの多くは報告書から消えた。
福田康夫首相は総会で「議論の成果を十分に生かせるように提言のフォローアップに取り組む」と述べ、同会議に代えて渡海紀三朗文部科学相ら関係閣僚と有識者による別の会合を新設する考えを表明した。同会議は最終報告で、これまでの提言を「直ちに実施に取りかかるべき事項」と「検討を開始すべき事項」に分類しており、新機関が実施状況を点検することになる。
最終報告書は「徳育」の教科化や高校での奉仕活動、英語教育の抜本的改革などを、直ちに実施に取りかかるものとして挙げた。
半面、飛び級や大学への飛び入学を促す「6・3・3・4制」の弾力化は検討開始事項にとどめた。大学全入時代を迎え、最後まで検討していた大学入学に必要な学力をはかる「高卒学力テスト」導入も見送られた。
福田首相は今月18日の施政方針演説で、5本柱の基本方針から教育再生を外し別建てで言及するなど安倍前首相との違いを鮮明にしていた。【石川貴教】
教育再生会議 内閣に点検機関設置 「徳育の充実」明記
産経新聞 2008年2月1日(金)02:51
政府の教育再生会議(座長・野依良治理化学研究所理事長)は31日、首相官邸で開いた総会で最終報告を決定し、福田康夫首相に提出した。最終報告で再生会議は、提言の実効性を担保するために実施状況を点検する新たな機関を政府に設置するよう要請し、首相は同意した。「公教育の再生」を掲げた安倍晋三前首相の肝いりで立ち上がった再生会議は約1年4カ月の活動を終えたが、提言の内容にはあいまいな表現が目立ち、福田内閣がいかに実現させていくかが課題となる。
首相は、「最終報告をしっかり受け止め、論議の成果が今後、十分生かされるように提言の実現に内閣として真摯(しんし)に取り組む」と述べた。
最終報告は第1~3次報告を総括し、「直ちに実施に取りかかるべき事項」として、「徳育の充実」など27項目を列挙した。「検討を開始すべき事項」として、現在の学制である「6・3・3・4」制の弾力化など9項目を明記した。実施主体となる文部科学省や各地の教育委員会には「実施計画を作成し、提言の内容を着実に実行することが必要だ」と求めた。
再生会議は官邸主導による教育改革を提言する組織として平成18年10月に発足。授業時間を10%増やす「ゆとり教育の見直し」や、法改正による教員免許更新制の導入などを実現した。
だが、最終報告では今回明記した「社会人教員を今後5年間で2割以上に」というような具体的な提言は少なく、学制見直しなど教育制度を根本的に変える「壮大な大改革」(自民党文教族)を必要とする課題は積み残された。首相直属の再生会議と、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)の関係もあいまいなままで、文科省などがどこまで提言を尊重するかは不透明だ。
教育問題への言及が少ない首相の姿勢を反映するように、最終報告の提言も尻すぼみとなった印象はぬぐえない。
教育再生会議が最終報告、道徳の教科化など改めて列記
読売新聞 2008年1月31日(木)21:37
政府の教育再生会議(野依良治座長)は31日夕、首相官邸で最後の総会を開き、教育再生に向けた最終報告を福田首相に提出した。
報告は、「道徳」の教科化や学力向上に向けた対策など、これまでの1~3次報告の提言内容のうち、実行されていない重要課題を改めて明記した。また、提言を具体化するため、学校現場での実施状況の評価など、新たな役割を担う組織を政府内に設けるよう求めた。
2006年10月、安倍首相(当時)の肝いりで発足した同会議は、これで役割を終え、解散する。
最終報告は、<1>教育内容<2>教育現場<3>教育支援システム<4>大学・大学院改革<5>社会総がかり--の5本柱で構成。同会議がこれまでに提言した内容を「直ちに実施に取りかかるべき事項」と「検討を開始すべき事項」に分け、具体的に列挙した。
「直ちに実施に取りかかるべき事項」としては、▽道徳の教科化▽小学校への理科や算数、体育などの専科教員の配置▽大学の全授業の30%の英語による実施--などをあげた。
「検討を開始すべき事項」では、▽スポーツ庁の設置▽6・3・3・4制の弾力化▽携帯電話のフィルタリング(選別)機能の義務づけ--などを列挙した。
最終報告は、これらの内容について、文部科学省など関係省庁や地方自治体、教育委員会に対し、実施計画を作って着実に実行するよう求めた。
提言を受け、政府は2月中にも、フォローアップ(事後点検)型の新組織を内閣に設置する予定だ。
「道徳」に責任教員配置、次期学習指導要領で明記
(2008年2月3日03時07分 読売新聞)
文部科学省は、現在改定作業を進めている次期学習指導要領で、道徳教育の全体計画と「道徳」の時間の年間指導計画作成の中心となる教員を各小中学校に1人ずつ配置することを明記する方針を決めた。
政府の教育再生会議が強く主張した道徳の教科化を見送る一方で、道徳教育の充実を図ることで一定の配慮をした形だ。同会議が求めていた偉人伝などを道徳の教材として活用することも指導要領に盛り込む。
現在の学習指導要領は道徳の時間の年間指導計画について、「校長をはじめ全教師が協力して作成する」と規定している。道徳は、ほかの教科と違い教員免許がないため責任があいまいになっている面があり、今回の改定により各校が、責任者となる教員を決めることでより計画的な指導をすることを狙ったものだ。
道徳は、国語や理科などの教科とは別枠に位置づけられており正式な教科とは認められていない。教育再生会議が1月31日の最終報告で「直ちに実施に取りかかるべき事項」として「道徳を教科として充実させ、人間として必要な規範意識を学校で身につけさせる」と明記するなど「教科化」を求めてきた経緯がある。また、町村官房長官も文科省に対し、次期学習指導要領に道徳を正式な教科として位置づけるように促してきた。
ただ、正式な教科とするためには〈1〉5段階など数値で評価する〈2〉検定教科書を使用する〈3〉中学校以上は各教科専門の教員免許を設ける――の3条件が必要だ。指導要領の改定を審議してきた中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)では、数値での評価や検定教科書を作ることは道徳教育になじまないとして反対論が根強かった。
このため文科省内で、道徳の扱いについて調整し、教育再生会議の意見も反映させることにした。