学校の外から

教育再生会議・その後の審議

2006年12月12日掲載

 教育再生会議は11月29日に「いじめ問題の緊急提言」を出したが、その懲罰的発想、学校現場の実態とはかけ離れた提言には、さまざまな批判が出されている。しかし、首相直属の教育再生会議から今後出される提案は強い影響力を与えるであろう。そこで、その後の教育再生会議での議論を新聞記事から追ってみた。教育再生会議の全体を俯瞰した記事は朝日新聞からPDFで、また、教育再生会議と同一歩調で取材する産経新聞記事とを掲載する。(一作)<以下、新聞記事のため転載禁止>

以下はPDFでご覧下さい。
再生会議案 実現に難題 文科省・現場の反発も(朝日新聞 '06/12/2)>>>こちらです。

教育再生会議 足踏み(朝日新聞 '06/12/10)>>>こちらです。

教委改革 首相 教育基本法成立後に着手

 安倍晋三首相は30日午前、参院教育基本法特別委員会の集中審議で、いじめや未履修への対応の遅れが問われている教育委員会の在り方について「多くの人の議論をうかがい、教育基本法改正案の成立後に(改革案を)提案したい」と述べ、教育基本法改正をめぐる議論などを踏まえて、法改正を含めた教育委員会制度の見直しに着手する考えを明らかにした。

 また、安倍首相は29日に政府の教育再生会議がまとめたいじめに対する緊急提言について「すぐにできるものはすぐに取りかかりたい。何としてもいじめによる自殺の連鎖は食い止めなければいけない」と述べた。

 その上で、提言がいじめを行う児童・生徒に社会奉仕や別室での指導・懲戒の基準を設け「毅然(きぜん)とした対応」をとるよう求めていることについて「いじめられている子供が転校を余儀なくされるのはおかしい。いじめている子供にただちにやめるよう指導することが大事で、先生が厳しい指導ができるようでなければ指導は難しいのではないか」と指摘。いじめの加害児童・生徒への指導が必要だとの考えを示した。
(産経新聞 2006/11/30 11:21)

教員人事権、市町村教委や校長に委譲 教育再生会議が方針

 政府の教育再生会議は30日午前、都内のホテルで「学校再生」をテーマにした第1分科会(主査・白石真澄東洋大教授)を開いた。現在は都道府県教委が握っている教員人事権について、市町村教委や校長に委譲する仕組みを具体化する方針を決めた。

 この日の会合では、指導力が不足するか適性に欠ける「不適格教員」について議論が集中。参加者から「教員の全体数からみて、不適格の認定が少ない」「現状では、不適格教員を辞めさせる仕組みが整っていない」といった問題点の指摘が相次いだ。

 対策として、校長・生徒・保護者の3者による教員評価制度や、不適格教員を辞めさせる適正な仕組みについて検討を深める。また、多様な人材を教員に採用することで、教員全体の指導力を向上させていくべきだとの認識で一致した。

 教育委員会については、教育に対する国の責任を明確化し、教員の人事権などの権限をできるだけ教育現場に委譲するよう具体論を詰めていく。学習指導要領の改定では、基礎学力の習得を重視し、保護者に対しても簡明な形で示すなど情報公開を進める必要性が指摘された。

 第1分科会は、来年1月下旬に中間報告を公表する予定。12月中にも合宿で集中討議を実施、中間報告のたたき台を策定する方針だ。
(産経新聞 2006/11/30 15:26)

教員の評価、誰が…教育再生会議きょうから審議

 教員評価を誰に委ねるかという問題がクローズアップされている。政府の教育再生会議が来年1月にまとめる中間報告の素案に、「児童・生徒らによる教員評価」が盛り込まれたためだ。「ダメ教師の排除につながる」という期待がある一方、教育関係者からは「子供や保護者に迎合する教員が増えてしまうのでは」という慎重論や批判が相次いでいる。教育再生会議では8、9日に都内で合宿審議を開き、議論する。

 ▼処遇反映4教委

 教員評価には、地方公務員法と地方教育行政法に基づく「勤務評定」がある。だが、組合側の反対闘争から実質的に機能しなかったり、実施していない自治体があり、文部科学省では是正を求めてきた。

 こんな事情もあり、全国の教育委員会では勤務評定とは別に、新しい教員評価システムを作る動きが広がっている。文科省の調査では、今年10月時点で都道府県と政令市の計62教委のうち60教委が新システムを導入。このうち、新システムを勤務評定として活用しているのが27教委、従来の勤務評定と併用しているのが33教委だった。

 しかし、こうした評価結果を給与などの処遇に反映しているのは東京都など4教委のみ。反映する予定も3教委にとどまっている。「反映されなければ実効性が保てない」との意見も根強い。

 ▼規制会議が再三要請

 「教育はサービス」と唱える政府の規制改革・民間開放推進会議は、児童・生徒や保護者による教員評価を再三、求めてきた。

 この結果、3月末に閣議決定した「規制改革・民間開放推進3か年計画」では、「学校教育活動に関する児童生徒・保護者による評価を学校評価の一環として実施し、評価結果を公表するよう促す」と明記。教育再生会議の素案にも「保護者、学校評議員、児童・生徒などが参画する仕組みを導入する」と盛り込まれた。

 昨年度に「指導力不足」と認定された公立校教員506人のうち、約2割は教壇を去ったが、大半は依願退職など本人の希望によるもので、教委の判断で免職させる「分限免職」は6人のみ。「現場で自浄作用が働いていない」との声は大きい。福岡県筑前町で起きたいじめ自殺では、担任教諭がいじめを助長していたとされ、「問題教師排除」の世論は強まっている。

 ▼相次ぐ慎重論

 しかし、児童・生徒を教員評価の主体として参画させることには、慎重論や反対論も多い。

 『教育評価』の著書がある梶田叡一・兵庫教育大学長は「子供、保護者が評価して教員の処遇に生かすこと自体は賛成だが、子供が教師を追い出す形になってはいけない」と制度設計に慎重さを求めたうえで、「『仲良し』だけが評価されれば、教師は子供に迎合してしまい、本来あるべき師弟関係が崩れる。教員評価は親、子供、教師の3者の信頼関係を強める形で行うべきだ」と主張する。

 民間教育臨調の委員、小川義男・狭山ケ丘高校長は「子供の人格は尊重すべきだが、子供の判断に評価を委ねるのは危険だ。生徒指導は発達段階を踏まえるべきで、小さいころは先生と子供の緊張関係が大切。力量ある先生が実力を発揮できる構造に改めるだけで良いのではないか」と、反対の立場をとる。

 11月30日の教育再生会議でも「子供、保護者にこびる先生が出てくる。学校の秩序が保たれない」との声が上がった。

 教員の評価は誰がすべきか。難しい問題をテーマの一つに、きょうから合宿審議が始まる。
(産経新聞 2006/12/08 07:55)

中間報告「いじめ」柱 教育再生会議、集中討議

 安倍晋三首相の諮問機関「教育再生会議」(野依良治座長)は9日、都内のホテルで前日に引き続き、来年1月下旬に公表する中間報告策定に向け、3つの分科会による集中討議を行った。「規範意識・家族・地域教育再生」をテーマとする第2分科会では、主に「子供の心の成長」について議論し、中間報告ではいじめ問題を柱に据えて提言することを決めた。

 討議では、社会や他人への奉仕の精神、優しさ、友情、勇気、親孝行などといった「徳目」を身につける上での読書の重要性が改めて指摘された。具体的には、一部学校で実施されている始業前10分間の「読書の時間」を全国普及することなどが目指される。

 また、礼儀作法などの「形」を学ぶことで「心」も養われるという意見が相次ぎ、登下校時や給食時のあいさつの督励も含め、学校現場に浸透・普及させていく方向となった。

 悪質ないじめ行為を繰り返すなど、特に問題のある生徒・児童について「出席停止」措置をとるかに関しては、意見が分かれ結論は出なかった。中間報告では、「出席停止」を別の言葉に言い換えて提言する見通しだ。
(産経新聞 2006/12/09 14:33)

教育再生会議、「懲戒許さず」の通達見直しを提言へ

 安倍晋三首相の諮問機関「教育再生会議」(野依良治座長)は9日、都内のホテルで、来年1月下旬の中間報告策定に向けた3分科会の集中討議を行い、2日間の日程を終えた。「規範意識・家族・地域教育再生」がテーマの第2分科会では、悪質ないじめを繰り返すなど、特に問題のある児童でも、授業を受けさせない「懲戒」は許されないとした昭和23年の法務庁(現法務省)通達は見直すべきだとの意見が続出。新指針づくりを検討することで合意した。

 討議では、「通達は今日はそぐわない。一日も早く(省令を)改正すべきだ」との認識でほぼ一致した。ただ、いじめ加害児童に対し、実際に「出席停止」措置を取ることには意見が分かれ、結論は出なかった。中間報告では「出席停止」を他の言葉に置き換え、何らかの措置と実施基準が盛り込まれる見通しだ。

 これに関連し、中間報告では「いじめ問題を柱に据えて提言する」(池田守男・第2分科会主査)ことも決めた。

 このほか、社会や他人への奉仕の精神、優しさ、友情、親孝行-といった「徳目」を身につける上での読書の重要性が改めて指摘された。一部学校で実施されている始業前10分間の「読書の時間」を全国普及することなどを目指す。登下校時や給食時のあいさつの督励を普及させていく。

 教育理念や、大学・大学院改革について検討する第3分科会は、国際競争力の低下傾向が指摘される大学院を強化する計画「プロジェクトX」を、来夏をめどに策定する。「X」に大学卒業後の学習・研究年限は多様という意味を込めた。

 再生会議は今後、分科会や全体会議で1、2回協議した上で、中間報告をまとめる方針だ。 
(産経新聞 2006/12/09 23:51)

中教審部会長が再生会議を批判 免許更新制めぐり

 教員免許更新制度をめぐって、導入を提言する答申をまとめた中教審の梶田叡一教員養成部会長は11月27日、大学関係者を集めた東京都内のフォーラムで「教育再生会議のやり方でできるとは思えない。われわれの考えで改正したい」と述べ、免許更新制と不適格教員排除は分けて考えるべきだとの考えを示した。

 梶田氏は「不適格教員はすぐに辞めてもらう。10年に1回はまどろっこしい。(更新時に必須の)講習で適格性を判断するのは神業だ。無理してやればゆがみが出る」と強調し、「免許法改正で辞めさせられるよう協議している」と述べた。
(産経新聞 2006/12/04 13:06)

【解答乱麻】首相補佐官・山谷えり子 教育再生へ「志を立つ」

 ベネッセの調査では、今の子供たちは1日平均2時間テレビを見ているという。また全国高等学校PTA連合会の調査では、小学校低学年のときにゲームが1日3時間以上、テレビ視聴が4時間以上あるといじめをすることが多く、携帯電話のメール交換が1日41回以上の高校生もいじめをする割合が高くなるという結果が出た。日本の子供たちの家庭での勉強時間は先進国平均を下回り、群れて遊んだり、スポーツするよりテレビ、ゲーム、ケータイに縛られて頭と心と体のバランスを崩し、友情や志をはぐくむ暇もない状況にある。

 私の故郷福井は幕末の志士橋本左内が育った土地で、小学生時代に私は、左内が15歳のときに自ら誓った5つの誓いを習ったものだった。「一つ、稚心を去る。一つ、気を振う。一つ、志を立つ。一つ、学に勉む。一つ、交友を択(えら)ぶ」というものだが、静かに唱えるだけで、心が清められ高められる思いがした。今も福井では“左内の十五の誓い”を教えている。

 現在、教育再生会議では、3つの分科会を作り議論している。1つは学校再生のための分科会で、いじめ問題、教育委員会のあり方、教員の資質向上、評価と処遇改革、学力向上のためのカリキュラムと授業時間増などを検討し「塾に行かなくても基礎学力がつく学校」「安全、安心な場所としての学校」「心を大切にする教育を行う学校」を当面の目標としている。来年の4月24日には実に40年ぶりに学力調査を実施する。結果をもとに、具体的な特別支援を早急に行うための全国調査であるので、すべての教育委員会と教員が実施し、学力向上に心を合わせて進むよう理解を深めていきたい。

 また“考える力を高める”といういわゆる“新しい学力観”方針の下で教育課程がズタズタになったところも見直さねばならない。たとえば現在では47都道府県の場所を教えず、2つか3つの県を考えさせればいいという指導基準に変更されたため、北海道がどこにあるか分からない子が半数を超えてしまった。中学3年間の英語の必修単語数も507を100にしたため、子供たちの英語力は哀れな状態である。基礎学力あっての“考える力”である。

 第2分科会では家庭と地域社会の連携、規範意識、心の教育、伝統文化、体験、交流、読書活動の充実などを検討し、第3分科会においては教育再生100年の骨組み、理念と目標を同時並行で検討している。

 先日、塩川正十郎元財務相にお会いすると「中曽根内閣のとき文部大臣をしていたが、臨教審の最終報告と言って高さ1メートルの報告文書を持ってこられたときはびっくりした。議論だけでは駄目。実績として残さなあかんで」と励まし、助言をくださった。

 教育再生会議では、目的を明確にして、それを実現させる手順、手段、法改正をスピードと責任をもってやり遂げたい。そして、学校だけでなく家庭、地域、産業、マスコミなどすべての人が当事者意識を持って取り組んでいただけるよう具体的メニューを出していきたい。
(産経新聞 2006/12/04 12:59)

正論【主張】教委の体質 遅すぎる教壇からの排除

 東京都羽村市の小学校で、インターネットのホームページ(HP)に交通事故などで死亡した児童の写真や遺族の感情を逆なでするコメントを掲載していた教師の存在が、遺族側の告訴・告発により明るみに出た。最大の疑問は、このような問題教師がなぜ、教壇に立ち続けていたかである。

 告訴・告発状などによると、この教師のHPには、死亡した子供を侮辱する内容や性的イメージを連想させる記述もあったという。教師の職業倫理以前に、人間として許せない行為だ。

 学校が事件を知ったのは、教師の自宅が著作権法違反容疑で警察の家宅捜索を受けた今年6月だ。教師はこのことを校長に話し、校長は教師から事情を聴いたものの、HPの内容を確認せず、担任を続けさせていた。同市教育委員会は校長から報告を受けながら、「処分するほどではない」と判断し、口頭での注意にとどめたという。

 学校も市教委も、教師の問題行動に対し、あまりにも鈍感である。教師の自宅が捜索を受けた時点で、HPの内容などを詳しく調べ、この教師を教壇から外しておかねばならない。

 市教委は都教委と協議し、問題教師の扱いについて厳正に対処するとしているが、市教委と学校の不適切な対応にも厳しい指導が必要である。

 児童生徒を適切に指導できず、「指導力不足」と認定された公立学校の教員は昨年度、2年連続で500人を超えた。一方、わいせつ行為や国旗・国歌の不適切な指導などで懲戒処分を受けた教職員は平成16年度で1200人余にのぼる。いじめ問題で指摘された学校や教委の隠蔽(いんぺい)体質を考えると、これらの数字は氷山の一角だろう。

 政府の教育再生会議では、教師の質向上や教育委員会のあり方をめぐり、生徒や親による教員評価や教員人事権を都道府県教委から市町村教委に移譲することなどが検討されている。

 だが、給食費を払わないような理不尽な親も増えており、それだけで適正な評価が行えるとは思えない。また、羽村市のように、学校と一体となって教師の問題行動を隠すような教委に人事権を渡せるのかとの疑問も残る。

 再生会議には、教育現場をよく把握し、かつ現場のしがらみにとらわれない抜本的な是正策を期待したい。
(産経新聞 2006/12/06 05:04)