2006年11月25日掲載
教育基本法改悪問題は参議院で実質審議入りし、参議院教育基本法特別委員会での答弁で、教育への「不当な介入」をめぐる政府・与党の思惑が明らかになった。これに対抗する民主党の教育基本法案がこの項目の削除であるから、あきれる。以下、「不当な支配」に関する質疑・応答を整理してみる。(一作)<新聞記事のため転載禁止>
安倍首相「国旗国歌への敬意重要」=教基法改正案、参院で実質審議入り
(時事通信 2006年11月22日13時2分)
安倍晋三首相は22日午前の参院教育基本法特別委員会で、学校の卒業式などでの国旗掲揚と国歌斉唱について、「自国の国旗国歌への敬意、尊重の気持ちを涵養(かんよう)することは極めて大事」と述べ、「政治的闘争の一環として国旗の掲揚や国歌の斉唱が行われないことは問題」との考えを強調した。
自民党の舛添要一氏が、一部の学校では国旗掲揚などが行われていないことを「法律違反」と指摘したのに対する答弁。伊吹文明文部科学相は、国は教育委員会に対し要請や指導をするが、現場が従わない場合の権限が無い点を挙げ、「これをどうするか、与野党を超えて、教育の根幹にかかわる問題として議論してほしい」と述べた。
教育行政、「不当支配にあたらず」 国会審議で文科相
(朝日新聞 2006年11月23日00時07分)
伊吹文部科学相は22日の参院教育基本法特別委員会で、政府の教育基本法改正案が、教育は「不当な支配」に服することはないと規定していることについて「国会で決められた法律と違うことを、特定のグループ、団体が行う場合を『不当な支配』と言っている」と語った。一方、法律や政令、大臣告示などは「国民の意思として決められた」ことから、「不当な支配」にあたることはないとの考えを強調した。
現行の教育基本法は「教育は、不当な支配に服することなく」と規定。政府の改正案も、この表現を踏襲しつつ、「法律の定めるところにより、行われるべきだ」との規定が追加された。
これまで教職員組合などは「不当な支配」の規定を、教育行政による教育現場への「介入」を阻止する「盾」と位置づけてきた。また、9月の東京地裁判決では、国の学習指導要領に基づき国旗掲揚・国歌斉唱などを強要する都教委の通達や処分が「不当な支配」にあたると判断された。
しかし、伊吹氏は、政府案の規定は、教育に対する「政治結社、イズム(主義)を持っている団体の介入を排除する」目的だと説明。むしろ、一部の政党や組合などによる「介入」を念頭に置いていることを示唆した。
一方、安倍首相は、国旗・国歌について「学校のセレモニーを通じて敬意・尊重の気持ちを育てることは極めて重要だ」と強調。「政治的闘争の一環として国旗掲揚や国歌斉唱が行われないのは問題だ」と批判した。
教育基本法:民主党「不当な支配」で論戦 参院特別委
(毎日新聞 2006年11月22日21時58分)
22日に実質審議入りした参院教育基本法特別委員会で、教育基本法改正案で禁じている「不当な支配」が焦点となった。政府・与党は新たに「教育は法律の定めるところにより行われる」との表現を盛り込んだことで、「命令・指導は『不当な支配』ではない」(文部科学省)との立場。一方、民主党は「政府案では教育への国の介入が強まる」と主張し、改革論議で対決姿勢を打ち出す。
改正案は、現行法の「教育は不当な支配に服することなく」との表記を残しつつ、法令順守の表現を新設した。東京地裁は9月、都教委の国旗・国歌を義務付ける通達を「不当な支配」と認める違法判決を下したが、自民党幹部は「こうした判決は基本法改正で出なくなる」と明言する。
これに対し、民主党は17日の参院への対案提出に当たり、文科省の都道府県教委に対する「指導」規定の廃止や、教委に代わって自治体の教育行政をチェックする「教育監査委員会」創設を盛り込んだ関連法案を出した。与党の「民主案は改革の具体像が不明確」との批判をかわし、教育委員会制度の廃止など、具体的な改革論議に持ち込む戦略だ。
22日の特別委の審議で、民主党の佐藤泰介氏は「『不当な支配』とは誰の誰に対する支配か」と追及。伊吹文明文科相は「地方分権は、地方が何をやってもいいということではない」などと反論し、文科省の権限強化が必要との持論を展開した。【竹島一登】
日教組、教基法改正阻止に3億円投入
(産経新聞 2006年11月25日10:25)
日本教職員組合(日教組)の反教育基本法改正運動への支出が約3億円に上ることが24日、分かった。教師が平日も国会前でのデモに参加していることに対し、自民党幹部からは「高い給料をもらいながら政治活動していいのか」(中川昭一政調会長)と批判が出ているが、日教組は「授業代行を他の教師に頼み、年休を取って活動している」(組織局)と組合費支出や運動の正当性を強調している。
関係者によると今年4~10月、教育基本法改正反対運動のため日教組が主催した国会前デモ行進や都内での集会などは7回行われ、組合員延べ約1万5000人が動員された。ほとんどが現役の教職員で、交通費や宿泊費、食費は日教組が負担した。さらに、25日には東京都千代田区の日比谷公会堂で3000人規模、12月8日には1万人規模の反対集会を予定。ビラ作成や新聞への意見広告掲載費も組合費から支出しており、反対運動への支出は約3億円に達する見込みだ。
日教組は10月26日、同法改正に反対し31年ぶりに「非常事態」を宣言しており、「近年にない取り組み」(連合関係者)という。
◇
≪教職員組合 政府の思惑 教基法「不当な支配」で攻防≫
参院教育基本法特別委員会は24日、一般質疑に移った。教職員組合を支持組織に持つ民主、社民の野党側と伊吹文明文部科学相は、焦点の一つである教育基本法改正案16条の「不当な支配」の主体をめぐり、厳しいやりとりを交わした。背景には、この文言を運動に利用してきた教職員組合の事情と、改正によって法に基づく教育行政を目指す政府との思惑の違いがある。
「不当な支配の主体には、行政府や政治権力も含まれるのか」
民主党の福山哲郎氏はこの日、繰り返しこうただした。民主党は22日の総括質疑でも、所属議員が同様の質問を執拗(しつよう)に展開した。
現行の教育基本法10条には、「教育は、不当な支配に服することなく」との規定がある。教職員組合などはこの「不当な支配」を根拠に、教育委員会の指導を拒否したり、国旗国歌反対運動に利用したりしてきた。国旗掲揚時の起立や国歌斉唱を求める東京都教委通達を「不当な支配」と認めた9月の東京地裁判決のような例もある。
しかし、改正案16条では、新たに「(教育は)この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」との文言が加えられた。政府は、これにより「法に基づいて行われる教育委員会の命令や指導は『不当な支配』ではない」(田中壮一郎文科省生涯学習政策局長)ことが担保されたとしている。
また、伊吹氏は「不当な支配」の定義について、「特定のイズム(主義)や考えを持ち、国会で決められた意思とは違うことを画策することだ」と指摘。政党や宗教団体、特定の思想的背景を持つ組織が教育に介入することを防ぐための規定だと説明する。これは暗に、教職員組合による教育現場の「不当な支配」は許されないことを述べたものだ。
伊吹文科相は24日、社民党の近藤正道氏の質問に対し、「何が不当か、何が介入にあたるのかは見解の相違だ。(見解の相違があれば最終的に)司法の判断を仰ぐことになるが、司法も法律をもとに判断するだろう」と指摘した。基本法改正が実現すれば、9月の東京地裁のような判断は、下されにくくなるとの見方を示したといえそうだ。(佐々木美恵)
【正論】高崎経済大学教授・八木秀次 教基法は教職員の法令遵守が眼目
(産経新聞 2006年11月10日
■左派系教職員組合の影響力排除を
≪「愛国心」盛り込む意味≫
教育基本法の改正案が衆議院に上程され、審議が行われている。今のところ、いじめや高校の必修科目の履修漏れに時間が割かれ、本質的な問題は後回しにされている。
メディアは相変わらず法案にある「愛国心」に関心があるようだが、政府案の「愛国心」は「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」とし、表現も控えめで、5つある教育目標の最後に置かれたものに過ぎない。
私などには物足りないが、この程度のものが改正反対派からは大問題のように騒がれている。いわく「戦争をする国」への大転換、戦争を担う「お国のための子ども」をつくる狙いだ、国家主義・軍国主義・ファッショへの道だ、等々。十年一日の如く変わらぬ台詞(せりふ)でうんざりする。もちろん為にする議論だ。
愛国心の涵養(かんよう)については、既に学習指導要領で規定されている。例えば小学6年生の歴史学習の目標には「我が国の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を育てる」とある。しかし、この法的拘束力を持つ指導要領に反する指導が教育現場では横行しているために、上位法である教育基本法で規定せざるを得ないのだ。
教育現場がどこの国でも行われている自然な愛国心の涵養をしているのであれば、その必要はないが、「国を愛する心情」どころか「国を憎悪する心情」を育てているがゆえにあえて法律で規定せざるを得ないのである。
≪日教組や全教の影響力大≫
このような事態に至った背景には言うまでもなく、左派系の教職員組合の存在がある。組織率は低下したとはいえ、日教組や全教など、いまだにマルクス・レーニン主義を信奉する教職員組合が我が国の教育界では大きな影響力を振るっている。その組合が組織の運動として「日の丸・君が代」反対闘争や反戦教育、反日自虐教育をしているがゆえに、いくら学習指導要領で愛国心の涵養を規定しても実効力がなかったのだ。
あまりはっきり言う人はいないが、今回の教育基本法改正の眼目の一つは、この左派系教職員組合の影響力を排除し、教育の主導権を国民の手に取り戻すことにある。冷戦が終焉(しゅうえん)して15年以上も経つのに、我が国の教育界には依然として「東側」、いや38度線の北側に位置する勢力が大きな影響力を持ち続けている。そして税金を使って、国家の転覆を考えるような子供や日本に帰属意識を持たない子供を大量生産している。それを正常化するのが教育基本法改正の目的の一つなのだ。
その意味で改正法案の大きな目玉となるのは「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」とする第16条第1項前段の規定である。
現行教育基本法第10条第1項の「教育は、不当な支配に服することなく」の規定は、文部科学省や教育委員会の教育内容への関与を「不当な支配」として排除し、左派系教職員組合や連携する外部団体の文字通り“不当な支配”を招いたいわく付きのものだが、そこに法律の縛りをかけることによって、教育は法令に基づいて行われなければならないことを規定するものだ。
≪「不当な支配」とは何か≫
東京都教育委員会の国旗国歌指導をめぐる9月21日の東京地裁判決でも明らかになったが、現行法の第10条第1項の規定は教育公務員たる教職員が法令を遵守(じゅんしゅ)しないことを正当化する根拠となり得る。学習指導要領は「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と、教職員に児童生徒への指導を義務付けているのに、それを遵守せず、入学式や卒業式に「日の丸」にバッテンをしたTシャツを着てきたりサンダル履きで出席した教職員を処分することが「不当な支配」とされたのだ。
この一事をもってしても現行教育基本法では教育界の正常化は難しい。そこで「この法律及び他の法律に定めるところにより行われるべきものであり」との文言を付け加え、教職員に法令遵守の徹底を求めようというのである。
必修科目の履修漏れでも明らかなように、教育現場の遵法意識は低い。それが国旗国歌の問題や勤務時間中の組合活動、露骨な選挙運動という違法行為にも繋がっている。
左派系教職員組合の影響力を排除し、教育界を正常化するためにも早期の教育基本法改正が望まれる。(やぎ ひでつぐ)