学校の外から

伊吹文科相の文科省権限強化発言

2006年11月4日掲載

 教育基本法改悪の動きについて、与党は11月10日の衆議院特別委員会と本会議で強行採決の構えと新聞報道は伝えており、緊急事態となっている。
 この間の教育基本法国会での伊吹文部科学大臣の発言には、ウルトラ右翼傾向が目立っており、その発言内容を整理してみる。伊吹文科大臣の思想傾向については「心のノート ガラガラポン」掲載の鈴村明氏の「安倍内閣と教育基本法改悪問題」を参照ください。

 伊吹文科相は高校世界史未履修問題と多発するいじめ問題にからんで、「法改正も視野に、教育に関する国の指導監督権限強化を図る」考えを示し、「具体的には教育長任命の際の認可権を文科相に付与することなどを検討する」と発言している。(産経新聞 10月31日)また、「政治からの中立性のため教育委員会は置くべきだとは思うが、文科相の教育長の(任命の)認可権、是正措置を要求する権利がなくなっている。かなりの見直しをしなければいけない」と述べている。地方分権一括法施行に伴い弱まった文科省の指導監督権限の再強化を図ろうとしている。

 このように国が教育長認可権を掌握し、地方教育委員会の監督強化をしようとするのは、過去2回の教科書採択において、「つくる会」教科書の採択が圧倒的少数であった原因を教育委員会に採択権にあったためとするものであり、なんとか教科書採択権を教育委員会から取りあげたい文科省は、地方教育委員会に対して中央集権的直轄指導体制敷き、掌握しようとする、極めて危険な策動である。

 さらに伊吹文科相は、東京都教育委員会による「君が代」強制に対する東京地裁判決に関して、「国旗・国歌尊重は教職員の職務義務」であり、「指導要領は法律の一部」と発言している。(産経新聞 11月1日)今回の東京地裁判決の国旗に向かっての起立や国歌斉唱を求める東京都教育委員会の通達を憲法違反、教育基本法第10条違反であるとする画期的憲法判断を否定している。教育基本法改悪の意図がここにあることを露骨に表している。文科省告示である「指導要領」がなんで「法律」なのか、見識を疑う。

 また、高校世界史未履修問題が表面化する前に、伊吹文科省は「高校の日本史は必修に」と中教審に検討を指示している。(産経新聞 10月21日)「倫理観や社会規範、秩序を守る力を学ぶ根本に歴史教育がある」とし、教育基本法改悪の中心である「愛国心教育」の徹底を意図している。この後、「高校世界史」未履修問題が大きな問題になったので、あまり注目されていないが警戒すべき問題である。(以下、新聞記事のため転載禁止)

国に教育長認可権 文科相、監督強化を検討

 30日、衆院教育基本法特別委員会で始まった教育基本法改正案の審議で、伊吹文明文部科学相は、高校必修科目の未履修問題や多発するいじめ事件をめぐる教育委員会の対応が問題化していることに対し、法改正も視野に、教育に関する国の指導監督権限強化を図る考えを示した。具体的には教育長任命の際の認可権を文科相に付与することなどを検討する。また、「政治からの中立性のため教育委員会は置くべきだとは思うが、文科相の教育長の(任命の)認可権、是正措置を要求する権利がなくなっている。かなりの見直しをしなければいけない」と述べた。地方分権一括法施行に伴い弱まった文科省の指導監督権限の再強化を図り、国が教育現場に責任を持つべきだとの考えである。

 特別委は、安倍晋三首柞らが出席して総拒質疑を行った。首相は同改正案について、「志ある国民を育て品格ある国家を作るのが改正の目的だ。公教育を改正しなければ(経済的な)格差が拡大する恐れもある。改革は待ったなしだ」と述べ、今国会で成立を期す考えを強調した。

 一方、伊吹氏はいじめや未履修問題に関連し、「政治からの中立性のため教育委員会は置くべきだとは思うが、文科相の教育長の(任命の)認可権、是正措置を要求する権利がなくなっている。かなりの見直しをしなければいけない」と述べた。地方分権一括法施行に伴い弱まった文科省の指導監督権限の再強化を図り、国が教育現場に責任を持つべきだとの認識を示したものだ。これに関連し、安倍首相は同夜、「教委はチェック機能を果たしていなかった」と指摘した。

 また、伊吹氏は、未履修修生徒の救済策について「補習を受けていただく。しかし、受験前なのでアンバランスが起きないようにする」と述べ、卒業資格を与える考えを示した。また、未履修の既卒者の問題も含め、週内に対策をまとめることを強調した。
(産経新聞 2006年10月31日)

国旗・国歌尊重は教職員の職務義務 伊吹文科相「指導要領は法律」

 伊吹文明文部科学相は31日の衆院教育基本法特別委員会で「学習指導要領は法律の一部だ。これに従って学校の管理・指導をしていただくのは当然のことだ」と述べ、教職員は入学式や卒業式で国旗・国歌を尊重する職務上の義務があると強調した。今年9月の東京地裁判決が、国旗掲揚の際の起立や国歌斉唱を求める東京都教育委員会の通達を憲法違反としたことに反論した形だ。民主党の藤村修氏も「公立学校の教職員は法律や告示に従い、義務を果たすことが求められている」と伊吹文科相に同調した。

 東京地裁の判決は、教育基本法10条にある「教育は、不当な支配に服することなく」との規定を引き、都教委通達による学校長の職務命令を「不当な支配」に当たると認定した(都教委は控訴)。「不当な支配」の文言は、教職員組合が教委の指導・監督を拒否する理由に使っている。市民団体などによる国旗・国歌反対運動にも利用されてきたが、政府の教育基本法改正案16条は、現行法と同じ「不当な支配」の文言を残している。

 これについて田中壮一郎・文科省生涯学習政策局長は「今までは一部教職員団体が、教育行政が教育内容・方法にかかわることは『不当な支配』だと主張を展開してきた」と指摘。その上で「政府案では『法の定める所により』と新たに規定した。法律に基づいて行われる教育委員会の命令や指導は、『不当な支配』でないことが明確になっている」と説明した。稲田朋美氏(自民)の質問に答えた。
(産経新聞 2006年11月1日8時1分更新)

伊吹文科相「高校の日本史は必修に」 中教審に検討を指示

 伊吹文明文部科学相は20日の衆院文部科学委員会で、現在は選択科目である高校の日本史を必修科目とすべきだとの考えを示した。早急に文科相の諮問機関である中央教育審議会に検討を指示する。

 伊吹氏は委員会で、野田佳彦氏(民主)が日本史を必修化すべきだと指摘したのに対し、「(野田氏と)立場を共有している」と同意した。その上で「小、中、高校(の教育課程)も含めて再編を考えなければならない。中央教育審議会に尋ねさせていただきたい」と述べた。

 また、「倫理観や社会規範、秩序を守る力を学ぶ根本に歴史教育がある」とも述べ、日本史教育の重要性を強調した。

 現在、高校では世界史は必修科目だが、日本史は選択科目。野田氏の委員会提出資料によれば、神奈川県の全日制県立高校で、日本史を履修せずに来年3月に卒業する高校生は28・2%に上る。

 伊吹氏は小中学校での日本史教育、特に近現代史教育についても「十分なことが教えられているのか。日本の伝統や社会が建設された過程をマスターすべきだ」と主張した上で、学校教育法の改正と学習指導要領の見直しを進める考えを示唆した。
(産経新聞 10月21日8時0分更新)
*(注)高校世界史未履修問題が発覚する前に上記の日本史必修を中教審に諮問している。