学校の外から

『心のノート』改定問題を考える
=文科省、改定版『心のノート』を新一年生に配布

2005年7月3日掲載

2005年6月28日  鈴村明(教育問題研究者)

2002年度に登場した国定の道徳教材『心のノート』の改訂作業が開始されています。4種類ある『心のノート』のうち、「改訂版『こころのノート』小学校1、2年生用」が既に作られています。この「改訂版『こころのノート』小学校1、2年生用」は、2005年4月に小学校に入学した新1年生に配布する国定教材です。
現在、『心のノート』の他の3冊についての改訂作業もすすめられており、これらが、06年度以降に配布される段取りになっているようです。
この点、『心のノート』編集委員会の主査を務める新宮弘識(しんぐうひろつね)氏が、「『心のノート』改訂の趣旨」という論文を書いています(明治図書の『道徳教育』誌05年5月号。以下、「論文」と略。新宮氏は淑徳大学名誉教授で日本道徳基礎教育学会会長)。また、「改訂版『こころのノート』小学校1、2年生用」も市販されています(注1)。そこで、これらの資料をもとに、増設されたページや改訂されたページについて紹介するとともに、『心のノート』改訂問題を少し分析しておきます。

(1)改訂版『こころのノート』小学校1、2年生用について

『こころのノート』小学校1、2年生用の、どこがどのようにかわったのでしょうか。まず、その点をみておきます。

(ア)「植物の向日性」に自分の心を重ねるページ
改訂版『こころのノート』では、2種類ある目次が両方ともかえられていますが、はじめの目次の次の見開きは、チューリップの花が太陽の光を浴びて青空に向かって輝いている写真のページになっており、そこに「うつくしいこころをそだてよう」とあります。この追加したページについて、編集委員会主査の新宮氏は、チューリップの「花に自分を重ねて、自分もこのように生きようと『心のノート』に誘われていくように編集した」としています(論文)。同氏は自著の中で、「植物の向日性」をとりあげながら、子どもの道徳性の発達について論じています(新宮著『子どもの可能性に立つ道徳教育』国土社)。しかし、子どもの発達過程はジクザクなものであり、「植物の向日性」と一緒にするのは、あまりにも単純すぎます。

(イ)いつでも、どこでも、何度でも活用する「使い方」をイラスト化
改訂版『こころのノート』では、「このノートのつかいかた」の見開きページが大きく変わりました。旧版では「こころのえいようをじょうずにとるためのヒントもたくさん」あり、「このノートをがっこうやいえで、くりかえしひらいて、あなたのこころをおおきくうつくしくしてくだざい」等と書かれていただけでした。しかし、改訂版は、このノートについて、子ども自身が、いつでも、どこでも、何度でも進んで使う教材であることを、鮮明なイラストにし、一目でわかるようにしてあります。「すきなときに、すきなところをひらいてみよう」「かいたり、ぬったり、はったりしよう」「くりかえし、なんどもおなじページをみてもいいんだよ」など、低学年の小学生にも分かる言葉とともにビジュアルなイラストが置かれています。このページは、このノートを使う主体が主に小学生じしんであることをはっきりさせており、『心のノート』が〈子ども自身が日常的に活用していく道徳学習のテキスト〉であることを教師にも示しているのです。

(ウ)「ないしょのはこ」のページの改訂
『こころのノート』で、大きな批判の的になっていたのが「ないしょのはこ」のページでした(三宅晶子著『「心のノート」を考える』岩波ブックレット)。改訂版では、「ないしょのはこ」のイラストやイメージを大幅に改訂し、説明文も「あなたのこころの中のないしょのはこ。ないしょをしまっておくだいじなはこ。そのはこには、どんなないしょがはいっているかな。しまっておきたいなしょかな。だしてしまいたいないしょかな」という平易な文章に入れ替えています。旧版にあった黄色の大きな箱のイラストはなくなり、うず巻のようなイメージが置かれており、その周りに「ハート型のフタがついた小さな色箱」が三つ浮かんでおり、その周辺で箱と同じ色の小人が戯れています。旧版の黄色の箱には、「(ひみつの)はこをもっていること。あなたはすきかな。きらいかな」と書かれており、前後関係から、内緒の箱に対して「嫌い」、あるいは「怖い」と感じるように内面誘導していたわけですが、今回は、妖精に似た小人を配置し、〈あなたの友だちの小人もいるから、こわくないんだよ〉という印象をあたえながら、小学生をこのページに誘っているのです。「ないしょのはこ」のページは、改訂されたとはいえ、小学生の内緒(プライバシー)に文部科学省が介入し、小学生の内面を国が直接的に操作しようとしており、そうした問題点は全くかわっていないのです。

(エ)多数の人間的な交わりを自覚させるためのページの増設
改訂版『こころのノート』には、増設ページがあり、人間が多くの人々の関係の中にいることを自覚させるページを置いています。色粘土とイラストで作られたビルやお店、公園や道路などの街に、80人を超える人々のイラストがあり、その内、30人には色がなく、塗り絵ができるようになっています。新宮氏は、「この絵を見たり、色を塗ったりしているうちに、多数の人間的な交わりの中での会話が聞こえてきたり、関係の様子を想像したりして、人は、多くの人々と支えあって生活していることを感得させたいと考えた」としています(論文)。小学生にとって大切なのは、自らの声に誠実に応答してくれる周囲の大人たちの存在であり、そうした意味での〈関係性〉です。小学生は、安心できる現実の〈人間関係〉を通じて、より広い世界についても理解していくのではないでしょうか。『こころのノート』には、そうした視点がありません。

(オ)生命についての特設ページを増設
新宮氏は、改訂版において「子ども・若者・老人・魚・樹木等生きとし生けるものすべてが、命を受け継ぎ、他者に支えられ、精一杯いきている姿が想像できる写真を示し、このことを子どもたちが感性的に受け止めてくれるように編集した」としています(論文)。これは、改訂版で増設した見開きページについての説明です。新宮氏は、「『人の命は大切だから大切にしましょう』というスローガンでは、命の教育の周辺をなぞるだけである」と書いていますが(論文)、命に関する写真を掲載したからといって、「命の教育の周辺をなぞるだけ」であり、その点は、ほとんどかわりがありません。

(カ)その他の改訂について
改訂版『こころノート』では、細かい点での変更も少なくありません。例えば、これまで「書き込み欄」がなかったページに、新たに「書き込み欄」が追加されている箇所もあります(「学校大好き」のページ)。また、これまで一つしかなかった見開きのページ「こころのアルバム」が、1年生用と2年生用に拡充されています。『心のノート』の特徴の一つは、子どもの心を覚醒する〈メッセージ性〉と、その文科省発の〈メッセージ〉を内面化させるために、子どもが「書き込んだり」「塗り絵をしたり」「写真をはったり」する〈活動性〉とを結びつけている点にあります。『こころのノート』には、ポスターのように〈メッセージ性〉だけの見開きページもあり、逆に「こころのアルバム」のように、子どもの〈活動性〉を重視している見開きページもあるのですが、全体として〈メッセージ性〉と〈活動性〉とを結びつけています(注2)。子どもの〈活動性〉とは、子どもの〈心の活動性〉を意味しており、この点、心理療法の一種である箱庭療法や自由画という心理テストと同じように、子どもの〈心の深層を活性化させるユング心理学の手法〉が使われています。各ページに「書き込み欄」や「塗り絵をする絵の枠」、「写真を貼る欄」などが沢山あるのもそのためです。また、『心のノート』では、色彩心理学の手法も使われています。改訂版で変更された箇所や追加されているページをみると、光や色彩心理の手法がたいへん重視されていることもはっきりします。 

(2)『心のノート』改定の趣旨と理由について (承前)

『心のノート』編集委員会主査の新宮氏は、『心のノート』を部分改訂する理由を「3つの趣旨」という言い方でまとめています(論文)
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①生命の尊厳に対する自覚と、人間関係の拡充を促進しなければならないという教育の今日的課題に対応する必要があること。
②子ども一人一人が自分の生き方を自ら考え、自分の心を自ら育てていこうとする力を育成するために、子どもが『心のノート』をもっと自由に進んで使えるように、より一層の工夫をする必要があること。
③家庭や地域社会においてもっと活用できるような工夫をする必要があること。
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 以下、これらの「3つの趣旨」に沿って少し分析しておきます。

(ア)「良い子」モラルで子どもを追い詰める『心のノート』の誤り

『心のノート』を改訂する第1の趣旨にかかわって、新宮氏は、とくに佐世保の小6事件をとりあげ、この事件は「決して特殊な事件ではない」とし、「現代の子どもの心の病」について指摘し、「このような傾向に対して、刑罰の低年齢化の動きがみられるが、刑罰の強化だけでこれらの問題が解決するはずがない」と力説しています。これは、佐世保事件を契機に、〈命と心の教育を強めるべき〉〈『心のノート』で良い子づくりをすすめていくべき〉という主張です。
佐世保事件がおきた長崎県の教育委員会は、「家族10分間読書運動、あいさつ、声かけ運動など、ココロ根っこ運動を一層推進し、家庭、地域社会の教育力の向上を図る」と提言し、県内の「全学級において、『心を育てる道徳教材集』や『心のノート』等を用いた道徳授業を公開するとともに、学校で学んだことを家庭や地域での実践につなげる方策等を協議し、地域全体で進める『心の教育』の在り方について共通理解を図る」と指示しています(長崎っ子の心を見つめる教育週間)。しかし、こうした提言に対して「どこか的はずれではないか。子どもは、周囲の大人が悪いことさえしなければ、必ず成長発達するものだ。それなのに、提言はひたすら子どもを、監督され指導される対象として見ている」という批判的な指摘も出されています(朝日新聞西部本社編『11歳の衝撃』の高岡健論文「心の教育は不要だ!」、254頁、雲母書房)。
佐世保事件を契機に、文科省が「心の教育」押しつけ政策を強化するのも、長崎県の「ココロ根っこ運動」と同じように(注3)、子どもの全生活を道徳的に囲い込むためなのです。子どもへの刑罰を強化するだけでなく、文部科学省が直接「心の先生」になった『心のノート』によって、子ども達の心を覚醒し、操作し、そして特定の方向に水路づけていこうとしているわけです。
文部科学省は、全国の子ども達が国定教材『心のノート』を鏡にして〈人間としての在り方や生き方〉を日常的に自己点検していくことを期待しています。しかし、『心のノート』のように、子どもの悲しみや辛さなど、子ども自身の〈否定的な感情〉を無視し、いつも〈にこにこ、明るく元気な良い子〉でいるよう、9年間という息長い期間、子ども達の心を追いこみ続ければ、どういうことになってしまうでしょうか?子どもの心の中に〈否定的な感情〉が閉じ込められ、それが大きなものに育ってしまい、それが何かの理由で〈暴発〉してしまうことにもなってしまうのではないでしょうか?「にこにこ笑顔、明るく元気、素直で頑張る」モラルのみで、日常的かつ長期間、子ども達の心を追い詰める『心のノート』の危うさや誤りに、文部科学省は全く気づいていないか、気づいていても、そうした問題を隠蔽しているのです(注4)。

(イ)子ども自身の「道徳学習の日常化」を徹底すべき?!

 第2に、今回の改訂を契機に、子ども自身の「道徳学習の日常化」政策を徹底しようとしている問題です。『心のノート』編集委員会の新宮弘識主査は、次のように書いています(論文)。
 
「『心のノート』の活用状況をみると、主として先生方の指導資料として活用されているようであり、子どもたち一人一人が自由に進んで活用するという点からみると不十分であると思われる。『「心のノート」は、子どもたちへのプレゼントです』と強調したのは、子どもが人間として身につける道徳的な内容を子どもたちにわかりやすく表し、子ども一人一人が人間としての生き方を自ら学習するために作成した冊子であることを強調したわけであった。この趣旨の徹底をはかり、子ども一人一人にもっとまかせる必要があると考えたわけである」

新宮氏は、『心のノート』を自分のために進んで活用する子どもを育てることが必要なのに、その作成趣旨が徹底されておらず、『心のノート』が「主として先生方の指導資料として活用されている」点を問題視しているわけです。『心のノート』の諸活用が開始されたものの、その多くは、教師が「道徳の時間」で資料として活用する使用法であり、子どもが『心のノート』を日常的に活用していくことを促進していない、という指摘です。
今回の改訂で、「子ども自身がいつでも、どこでも、何度でも、進んで使う『心のノート』」というイメージをイラストで示しているのも、『心のノート』の作成趣旨を徹底するためなのです。

(ウ)家庭や地域社会との連携での活用を強める?!

第3に、家庭や地域社会で『心のノート』を活用していくことを強調している問題です。新宮氏は、論文「『心のノート』改訂の趣旨」の中で次のように書いています。

「『心のノート』は、家庭や地域社会における道徳教育をもっと強化する必要があるという願いから作成したものであるが、平成15年10月に実施された『道徳教育状況調査結果』によると、『心のノート』の家庭での活用は、小学校39%、中学校12%、家庭や地域との連携に活用した数値は、小学校23%、中学校7%であり、『心のノート』作成の趣旨が十分生かされているとは思えないのである。したがって、(改訂においてはー引用者)発達段階にもよるが、親子や家族が一緒に楽しめたり作業をしたりするページを工夫する必要があると考えたわけである」

新宮氏は、『心のノート』について「ほとんどの学校で、趣旨が積極的に理解され、活用され、成果を挙げつつあることは心強いこと」と評価しつつも、家庭や地域での活用という作成の趣旨が十分生かされていないことも明らかになったとしています。そして、そうした面での『心のノート』の活用を重視していく、と今後の課題を提起しているわけです。子ども向けの『心のノート』を家庭教育で活用していくことは、文部科学省が親向けに作成・配布した『新家庭教育手帳』を活用していくことと結びついています。1999年4月に登場した旧版の『家庭教育手帳』『家庭教育ノート』の企画・編集委員長は、『心のノート』作成協力者会議座長と同一人物の河合隼雄氏ですので、これらの教材はリンクするように作られているわけです。実際に、『心のノート』を編集担当した押谷由夫昭和女子大学教授(元文科省教科調査官)は、「道徳教育」領域の用語解説の中で、『新家庭教育手帳』についての解説もしているのです(『最新教育用語集05年度版』小学館)。

(おわりに)

 『心のノート』が登場して以来、『心のノート』編集委員や文科省の『心のノート』編集担当者が、都道府県並びに市区町村の教育委員会、あるいは各種の道徳教育研修会などを通じて、『心のノート』的道徳教育のテコ入れをしてきました。そうした中で、『心のノート』が学校現場に徐々に浸透していることは軽視できない問題です。同時に、さまざまな批判や反対運動もあり、『心のノート』による「道徳教育見直し」政策が、この教材の作成趣旨どおりに進んでいるわけでもないのです。
つまり、『心のノート』を作成し、編集した人々からみれば、『心のノート』的な道徳教育政策が軌道にのっている状況では必ずしもないのです。それだけに、『心のノート』を作成し、編集した人々は、『心のノート』的な道徳教育政策を徹底させ、『心のノート』を軸にした政策を軌道にのせようと必死になっています。今回の改訂版『こころのノート』や他の3冊の改訂作業も、そうした動機ですすめられているのです。ですから、『心のノート』への批判を引き続き強めていくことが求められているわけです。
『心のノート』の押しつけ問題は、教育基本法「改定」問題と密接に関連しています。『心のノート』編集委員会主査の新宮氏は、論文「『心のノート』改訂の趣旨」の中で、「教育基本法改正の政府案では、『学校・家庭・地域社会の連携と協力』『家庭教育』という条項を強調しているが、これらは、教育の今日的課題である」とし(注5)、その上で、「学校・家庭・地域社会の連携」や「家庭教育」で『心のノート』を活用していく方向性を強調しているのです。このように『心のノート』は、教育基本法「改定」を先取りした特別の道徳教材です。『心のノート』の押しつけ政策をゆるさない観点からも、教育基本法改悪の策動をくいとめることがきわめて重要になっています。

【注1】、『心のノート』は、文溪堂(小学校低学年用)、学習研究社(小学校中学年用)、暁教育図書(小学校高学年用、中学校用)という教育関連の3つの出版社から刊行されています。この3社のうち、4種類ある『心のノート』の市販は、「暁教育図書」が窓口になっています。「暁教育図書」に直接連絡して郵送してもらうことが可能ですし、書店を通じた注文も可能です。なお、文部科学省『心のノート』関連図書(『小学校「心のノート」活用のために』、『中学校「心のノート」活用のために』、『「心のノート」を生かした道徳教育の展開』)の3冊も、「暁教育図書」から市販されています。
【注2】、『心のノート』編集委員の上杉賢士千葉大学教授が、『心のノート』における「メッセージ性」と「活動性」について論じています(上杉氏は、『こころのノート』小学校1、2年生用の冊子代表者=編集責任者)。上杉賢士「『心のノート』と道徳教育、今日的な意義」参照(『道徳教育』誌02年9月号、明治図書)
【注3】、長崎県の「ココロ根っこ運動」とは、同県の青少年健全育成事業の名称で、〈善悪を判断する道徳などを、家庭において親が子どもにしっかり教える。地域の大人がしっかり教える。学齢期には学校で『道徳教育』の中で教え、幼児期から一貫して道徳心が身に付く教育をすすめ、子どもの全生活にかかわる道徳教育を徹底していく事業〉のことです。同県は、「地域でのボランティア活動や社会貢献を含めた『ココロ根っこ運動』をはじめとする活動を通して、『道徳心』を柱とする県づくり」を進めるとしています。長崎県の立石教育長は「道徳教育充実のための組織強化」について、「学校教育課の中に『心の教育推進班』を設置し」、「学校教育だけでなく、子どもが生まれてから成長していく過程全体を見守り、育むシステムが必要」であるとし、「そのために、教育庁内や知事部局の関係課との横断的な連携強化を図っていくことも重要」としています。また、立石教育長は『心のノート』についても、「本県では、全ての公立小中学校が、道徳の授業だけでなく、学級会や総合的な学習の時間、家庭との連携の手段として、このノートを計画的に活用しております」と説明し、「活用の仕方については、学校間で違いが見られますので、一層積極的に活用するよう指導してまいりたい」と力説しています(04年6月8日の県議会における答弁)。文部科学省教科調査官として『心のノート』を編集担当した永田繁雄氏は、全国小学校道徳教育研究会第27回研究発表大会の講演の中で(05年2月25日)、「長崎で取り組んでいる『心根っこ運動』が成果をあげている」と述べ、この取り組みを賞賛しています(『道徳教育』誌05年7月号、86頁)。
【注4】、『心のノート』作成協力者会議の河合隼雄座長は、2002年1月に文化庁長官に就任する前の2000年9月、文部科学省顧問に就任し、『心のノート』の作成を開始しています。河合氏は臨床心理学者ですから、『心のノート』によって「にこにこ笑顔、明るく元気、素直で頑張る」モラルで追い詰められた子ども達にとって、自分の弱さやストレス、否定的な感情をだせるカウンセラーのような相手が必要になることを、よく知っているのです(河合隼雄氏の対談集『誰だってちょっと落ちこぼれ』講談社、41~2頁)。つまり、『心のノート』的道徳教育を徹底すれば、河合氏が最も重視している「スクールカウンセラー」が求められるような学校環境ができあがる、という仕掛けなのです。
【注5】、新宮氏が「教育基本法改正の政府案」としているのは、『読売新聞』が05年1月13日付で報道したものです。この報道に対して、文部科学省は、次のようにコメントしていました。「去る1月13日、『教育基本法改正案の政府原案が明らかになった』旨の記事が読売新聞に掲載されました。この記事には『改正案原案の要旨』とありますが、これは事実に基づかないものであり、現時点で政府原案なるものは存在いたしません」。2005年1月の「時点で政府原案なるものは存在しない」とコメントしていたものの、その後、文部科学省は〈教育基本法改正の文科省案〉として作成した「仮要綱案」なるものを、5月11日に自民・公明両党でつくる「与党教育基本法改正に関する検討会」(座長・保利耕輔元文相)に提示しています。ただし、この「仮要綱案」は、非公開のものです(05年6月段階)。