2019年11月5日掲載
(1)資料が正しくない。
17頁「食べ物の安全性」で、日本の放射性セシウム数値は2018年度のものですが、EU・米国の基準値はチェルノブイリ翌年時の緊急値。ちなみに、日本の飲料水平常値10に対し、EUは8.7。米国は4.2。1986年にチェルノブイリ原発事故を起こしたウクライナは、2006年の飲料水の数値が2。乳幼児食品は、日本が50に対し、ウクライナは40です。「(日本の基準値は)世界で最も厳しいレベルです」は明らかに偽りです。
(2)「放射線量の測定結果では、検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかった(14頁)」の欺瞞
「福島の子供の甲状腺がん発症率は他地方の子どもの20~50倍」と 津田敏秀氏(岡山大学大学院)が指摘しています。 「スクリーニング検査による精度向上や過剰診断ではせいぜい2~7倍。1桁の上昇のみ。20~50倍は、統計学的な誤差の範囲もはるかに超えている(副読本には、具体的な測定結果の数値は書かれていません。)」さらに津田氏は、「チェルノブイリ原発事故で4年以内に観察された甲状腺がんの多発と同様の現象が福島で起きているが、日本国内ではこのことが理解されていない」と国・県を批判しています。
(3)いじめの問題(15頁)を放射線過小評価の中で語る欺瞞
2015年、福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した6年男子児童が、転入先の市立小学校でいじめを受けて不登校になりました。彼は、手記の中で「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と悲痛な思いを綴っています。
一方、文部科学大臣は「被害児童生徒へのいじめの防止について」メッセージを副読本の巻末近くに載せ、「被災し自主避難した友達を支えて学校生活を送ってほしい」と述べた後、「また、放射線について科学的に理解することも大事なことです。そうすれば皆さんが(略)いじめをなくすことができると私は信じています」と結んでいます。
ここで彼が述べた「放射線の科学的理解」というのは何でしょう?それは、本文(1)(2)にある「誤った基準値のとらえ方」であり、「福島の子どもの甲状がん異常発症率を認めない」という、ひとの命に冷たい政府対応に他なりません。私にはまるで、悲痛ないじめ事件を、「放射能は安全、福島は復興しているんだ」という、事実と違ったことに利用にしているように思えます。
(4)「副読本」回収を求めます。
他にも、冊子前半では、「放射線は自然や医療の中で日常的に接しているもの(~11頁)」と、放射線の安全性を強調。「現在では、病院やお店など、生活するための環境整備や学校の再開など、復興に向けた取組が着実に進められています(14頁)」と、福島が順調に復興しているかのように記述しています。悲痛ないじめ事件の本質を韜晦し、福島のひと達が主人公にならないおざなりの未来(19頁)を語る「副読本」は、子どもに有害な本と言えるのではないでしょうか?
野洲市は、「放射線の安全性を強調し、避難者への思いが抜け落ちている」と副読本を回収しました。高槻市教委は、「内容等を精査し配布について検討する」と今年度は回答しています。政策の上意下達ではなく、人権を大事にした対応を高槻市教委に求めます。 (長谷川)