2014年11月30日掲載
拉致問題とナショナリズムを考える蓮池透講演会
2014年11月2日(日)
茨木市男女共生センターローズWAMホール
主催*教科書問題を考える北摂ネットワーク
180名満席で講演会は始まった。主催者から「来年は中学校の教科書採択の年。育鵬社の教科書のシェアは全体の4%だが、横浜市、東大阪市など大規模な市が使っている。
問題点として、①検定基準が変えられ、育鵬社の教科書が採択しやすい状況になった。②教育委員会制度が変えられ、市の介入を許す状態になっている。その結果、日本会議系議員が議会決議をあげて、首長や教育委員会に圧力をかけている市や、右派市長が教育委員を入れ替えている市がある」と状況の説明があった。
「問題は、他社の自主規制。内容がどんどん悪くなっている。 そんな中、清水書院が良心的な教科書を作ってがんばっている。また、退職金を出し合い、教科書会社を立ち上げ右傾化に対抗する教科書が作られ始めた。これから、私たち市民も市教委にどんどん働きかけ、育鵬社の教科書を阻んでいかねばならない。」と話を結んだ。
育鵬社の教科書とは・・・・
日本会議が後ろ盾になった、きわめて右寄り歴史・公民教科書。日中戦争について、被害も加害も小さく描かれ「戦争ってかっこいい」と思わせる。「国防は国民最大の義務」とし、ひめゆり隊については「日本人の鑑」であり、沖縄戦は米軍がすべて悪いとする。日本軍の責任についてふれていない。
後段、蓮池透さんのお話に会場は引きこまれた。
「1997年に家族会が立ち上げられた時から、救う会(作る会・日本会議系)が署名ボランティアなどで力を貸し、家族会と関わりが強まる事になった。」と蓮池さんは、拉致問題にナショナリスト達が関わり始めた経過を語り始める。 それから02年(「2週間の一時帰国」が実現した年)にかけて、外務省は政治を優先した行動をとり、被害者家族は外務省から冷たい扱いを受けた事が詳しく語られ、その生々しさ、官僚の非情さに会場は静まりかえった。 02年、拉致事件が起こって23年目。政府は被害者の生存をアピールし、大きく盛り上がった北朝鮮批判の日本世論を少しでも沈静化させ、国交正常化につなげようとした。当時の中山恭子内閣官房参与は、北朝鮮と「十日程で(生存者を)返しますから」と約束した。被害者は「(日本の)親をとるか、(ピョンヤンに残された)子をとるか」二者択一を迫られた
小泉再訪朝では、5人の家族の帰国・来日により拉致問題の進展を世間に訴え、国交正常化を図ろうとしたが失敗。最後は横田めぐみさんの偽遺骨問題である。めぐみさんの遺骨により死亡を宣言し、世論を鎮めようとしたが、偽物であることが判明。日本のナショナリズムはますます北朝鮮批判に傾き政治決着はことごとく失敗し、現在の安倍政権は失敗から学ぶ事も出来ていない。「北朝鮮の視点に立ち思考をめぐらすことが必要なのです。彼らの琴線にふれる事が大事なのです。」と蓮池さんは語る。
最後に蓮池さんは、教科書問題・道徳の教科化について触れた。「横田めぐみさんの事を教科書に載せるなら、日朝間の過去の清算のこともしっかり書かねばならない。地村さんは『過去の清算をしてこなかったことが拉致問題の原因なのです』と話しています。日朝は犯罪の応酬をしてきたのです。」「自分で考えることが大事であるのに、道徳が教科化されて自分の考えをステレオタイプに押しつけるようになる事は本当に危険です」と話を結ばれた。
現在、蓮池さんは家族会を出られている。右寄りだからと拉致問題を私は避けてきた。しかし、語られた国の非情さやぞっとするような国益優先は、教育・教科書問題への国の政策と全く同じだ。
蓮池薫さんは兄さんにかつてこう語られたそうだ。「2,3年は日本から助けに来ると思っていたがだめだった。ここで生きていこう、子どもに良い生活を受けさせたい。(だから)言いなりになって生きようと思った。」
この話は、一体どこの国の話なのだろうか?
(長谷川 洋子)