学労ネット

労働時間規制撤廃(ホワイトカラー・エグゼンプション)その後の動き

2006年12月9日掲載

 労働時間規制撤廃(ホワイトカラー・エグゼンプション)について以前に取り上げたが、その後動きがどうなっているか気になっていた。厚生労働省及び労働政策審議会での審議関係の記事を追ってみた。ホワイトカラー・エグゼンプションについては、厚生労働省の最終報告案は「導入はするが、具体的な年収の金額は明示せず、今後の調整に委ねる」。また、同時に解雇の「金銭的解決」という大変な問題である「労働契約法」の検討もされていることに注意をする必要がある。今回は法制化は見送られたようだ。なお、ホワイトカラー・エグゼンプションについては以下のサイトに詳しい解説があり、便利です。(一作)<以下、新聞記事のため転載禁止>

週休2日確保し導入 労働時間規制見直しで厚労省が新案
(朝日新聞 2006年11月10日16:20)

 労働法制改正の焦点となっている労働時間規制の見直しで、厚生労働省が新たな素案をまとめた。一定の年収以上の会社員を労働時間規制の対象から外す自律的労働時間制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)について「自由度の高い働き方にふさわしい制度」と名称を変えて導入を明記。同制度には過労による健康被害を懸念する声が強いことから、対象者の休日を週2日以上とすることを企業に義務づけ、適正に運営しなかった企業には改善命令や罰則を科すなどの内容を盛り込んだ。

 同省は、10日午後に開かれる同省の審議会に素案を提示。来年の通常国会に労働基準法改正案など関連法案を提出する考えだが、休日確保で過労が防げるのかなど論点も多く、労使の調整は難航が予想される。

 ホワイトカラー・エグゼンプションは、時間ではなく成果に応じて賃金を支払う制度で、対象者は残業代の規制から外れる。素案では、対象者として(1)労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事(2)業務上の重要な権限や責任を相当程度伴う地位にある(3)年収が相当程度高い――などの条件を列挙。具体的な年収水準は、素案段階での明示は見送り、今後の労使の協議に委ねた。

 一方で長時間労働を助長しないよう、「休日の確保、健康・福祉確保措置の実施を確実に担保」との表現を盛り込んだ。現在、労働者の法定休日は週1日だが、対象者については1年間で週休2日分(年104日)以上の休日確保を企業に義務づける。また、本人の申し出による医師面接を義務づけている労働安全衛生法の規定を、月100時間の残業から80時間程度に引き下げる。

 残業の割増賃金率については、同省は6月の当初案で「1カ月の残業が30時間を超えた場合は現行の25%増しを50%増しに引き上げ」としていたが、素案では、割増率引き上げの義務づけは健康にかかわるような「長時間労働者」に限るなどと後退した。

 労働側は、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入自体に反対している。経営側に長時間労働を是正する姿勢がみられないとして、「中途半端な妥協はできない」(高木剛・連合会長)と反対姿勢を強めており、合意の道のりは険しそうだ。

労働時間の規制撤廃 法制化へ 成果賃金に対応 厚労省
(産経新聞 2006年11月24日08:12)

 厚生労働省が次期通常国会で法制化を目指す、労働時間の規制を受けない働き方(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)の素案が23日明らかになった。対象を一定以上の年収、業務、権限・責任をもつホワイトカラーに限定したうえで、制度導入が長時間労働を助長しないよう、週2日以上の休日確保や健康対策の実施などを条件にする。同制度は、多様な労働形態に対応した法制度の実現を求める経済界が、早期導入を強く求めていた。
 企画・立案などに携わる事務職が対象となる労働制度には、勤務実態にかかわらず一定時間働いたとみなす「みなし労働時間制」(裁量労働制)があるが、労働基準法が定める1日8時間・週40時間の労働時間規制をはずし、賃金の算出根拠から時間の概念をなくす制度は初めて。
 素案は、労働時間にとらわれない働き方を「自由度の高い働き方」とし、適用対象を(1)労働時間では成果を適切に評価できない業務(2)権限と責任を相当程度伴う地位(3)仕事の進め方や時間配分に関して上司から指示されない(4)年収が相当程度高い-の4要件を満たす労働者と規定している。
 さらに、過労防止のため「休日の確保」と「健康・福祉確保措置の実施」を明記。労基法による法定休日が週1日なのに対して、この制度の対象者は「1年間を通じて週休2日分の日数(104日)以上の休日を確実に確保できるようにする」と盛り込んだ。
 労働安全衛生法が残業月100時間以上の労働者に義務付けている「本人の申し出による医師の面接指導の義務」も、同80時間程度で義務付ける。
 厚労省は、こうした方針を盛り込んだ最終報告書案を12月上旬に開く労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の労働条件分科会に提示。労使の意見を踏まえ、次期通常国会に労基法などの関連法改正案を提出する方針だ。
 ただ、労組側は「残業代を払わなくてもいい制度」(連合)などと反対、既存の裁量労働制の適用拡大などで対応すべきとしている。
 一方、人件費の抑制という狙いもあるとみられる経済界は、対象者の決め方について「基本は労使自治にすべきだ」と主張して、法律による要件の厳格化を警戒。年収水準の適用要件についても「400万円以上」(日本経団連)などと訴え、対象範囲を広くすることを求めている。
 労使の考えには隔たりが大きく、今後の調整は難航が予想される。

【用語解説】ホワイトカラー・エグゼンプション
 労働基準法に基づく労働の時間規制をはずし、成果に応じて賃金を支払う制度。米国では1938年に導入され、一定要件を満たした(1)管理職(2)運営職(プロジェクト・リーダーなど)(3)専門職(教師や法律家)-に3分類される。当初は経営者に近い高所得者に限られた一種のステータスシンボルだったが、現在はファストフードの副店長クラスにまで適用可能とされる。

残業代なし1千万人に 労働時間規制見直し試算
(朝日新聞 2006年11月09日17時47分)

 厚生労働省の審議会で議論されているホワイトカラー・エグゼンプション制度が導入され、年収400万円以上の会社員が労働時間規制の対象から外されると、約1000万人の会社員が1人年間114万円の残業代を受け取れなくなる、とする試算を民間シンクタンク、労働運動総合研究所(労働総研)がまとめた。

 この制度は、1日8時間を超える場合は割増賃金を支払わなければならないとする現在の労働時間規制の対象から、年収が一定以上の人を外すというもの。時間でなく、成果に応じて賃金を支払いたいとする経済界の要望に沿ったもので、「400万円以上」は日本経団連が提案している。

 労働総研は、国税庁の民間給与実態調査や総務省の労働力調査をもとに試算した。05年の会社員約4500万人のうち、年収が400万円以上の人は約2300万人で、管理職らを除くと約1013万人となった。

 一方、厚労省の毎月勤労統計による1人平均の年間残業時間156時間に加え、不払いの残業時間も年間240時間あると推定。計396時間に対象者の時給をかけて総額11兆6000億円、1人年間114万円が支給されなくなる計算になった。

 労働総研代表理事の牧野富夫・日本大学経済学部長は「制度の実態は賃金の横取り。過労による健康被害急増も必至だ」としている。

ホワイトカラー・エグゼンプションに反対 経済同友会
(朝日新聞 2006年11月21日19時52分)

 一定の年収以上の会社員を労働時間規制の対象から外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」について、経済同友会は21日、「年収を基準にするのはおかしい」と批判し、来年の国会での法改正は見送るべきだとする意見書を発表した。日本経団連は導入を推進しているが、経済界でも意見が割れた形で、今後の議論に影響を与えそうだ。

 この制度は、自分の裁量で仕事を進めることができる社員には、時間ではなく成果に応じて賃金を支払う仕組みで、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて働いても、残業代が払われなくなる。現在、厚生労働省の審議会で導入に向けた検討が進んでいる。具体的な年収水準は決まっていないが、経団連は昨年、年収400万円以上を対象にするよう提案した。

 これに対し、同友会は「仕事の中身や量、スケジュールまで自分で裁量をもっている従業員は多くはない」と指摘。米国の雇用ルールをそのまま持ち込み、年収で線引きするのではなく、「仕事の質や種類で判断するべきだ」とした。労働時間規制を残したまま柔軟に働くことができる現在の裁量労働制の活用をまず進め、ホワイトカラー・エグゼンプションは将来的な課題と位置づけた。

 一方、時間外労働の割増率の引き上げについては、「長時間労働を抑制することができるのか疑問」とし、経団連の主張と足並みをそろえた。

解雇の金銭解決、法制化見送りへ 労働法制の最終報告案
(朝日新聞 2006年12月08日10時01分)

 厚生労働省が来年の通常国会に提出する労働法制改正の最終報告案が7日、明らかになった。裁判所が解雇は無効と判断しても、金銭を支払えば解雇できる「解雇の金銭解決」は、労使の合意が得られず、法制化を見送る。一定の年収以上の会社員を労働時間規制の対象から外すホワイトカラー・エグゼンプションについては、導入はするが、具体的な年収の金額は明示せず、今後の調整に委ねる。

 解雇の金銭解決について、経営側は「裁判はコストや時間がかかる。金銭給付で、雇用関係を解消したい」と導入を求めていたが、労働側が「カネで首切りを合法化する」と反発。大企業と中小企業の間で解決金の額の調整がつかず、今後の検討課題とした。整理解雇の条件を明文化することも見送る。

 ホワイトカラー・エグゼンプションは、週休2日分の休日確保を条件に導入する。ただ、対象者について、最終報告案では、11月上旬に示した厚労省素案の「年収が相当程度高い者」との表現を踏襲し、具体的な金額は明示しない。労働側が過労死を招くとして制度の導入自体に反対している一方、中小企業は金額を低く設定し、対象範囲の拡大を求めるなど、調整がつかなかった。報告には盛り込まないが、労使で協議を続け、厚労省は法案化までに金額の合意を得たい考えだ。

労働契約法制、解雇の金銭解決見送り リストラ基準も示さず
(産経新聞 2006年12月06日07:51)

 厚生労働省が次期通常国会で新規立法を目指す「労働契約法制」の素案が5日までに明らかになった。裁判で解雇が無効とされた場合でも、企業が金銭を支払えば職場復帰させずに済む「解雇の金銭的解決」は法制を見送るほか、リストラなど整理解雇の合理性の基準となる条件の明文化も見送る。

 労働政策審議会の労働条件分科会の議論で労使の隔たりが大きく、法制化は時期尚早と判断した。

 素案はまず、労働契約の原則を「労働者と使用者の対等の立場における合意」と強調。経営側が労働者の同意なしに定められる「就業規則」については、「合理的な労働条件を定めて、周知させた就業規則は労働契約とみなす」とした。

 そのうえで、就業規則に基づく労働条件の変更については、(1)労使協議の状況(2)経営悪化など条件変更の必要性(3)労働者の不利益の度合いや代替措置などの変更内容-の3点を、妥当かどうかの判断基準に挙げた。

 労働契約法制の柱のひとつとされた「解雇の金銭的解決」について素案では、引き続き検討課題として次期国会での法制化は見送る。「解雇を金で買うもの」と労働側が強く反発しているほか、個別労使紛争を扱う労働審判制度が今年4月に施行されたため、「緊急性は弱まった」と判断した。

 同様に経営側が規制強化と反対する「整理解雇」の条件明文化も、今後の検討課題とした。

 一方、一定時間を超えた残業の割増賃金率は現行(25%)より高くする。さらに、「労働条件」では使用者の安全配慮義務を明記したほか、出向、転籍、懲戒などのルールを規定した。

【用語解説】労働契約法制
 雇用から解雇まで働き方の基本的なルールを明確に規定するもの。非正社員化など雇用形態の多様化が進むなか、個別労使紛争が急増。昭和22年制定の労働基準法では対応できず、妥当性の判断については裁判の判例だけが基準になっており、労使双方から不備が指摘されていた。新法制定は、解雇や出向などのルールを明文化することで紛争を未然に防止するねらいがある。