2006年3月21日掲載
松岡 勲
2000年3月の卒業式に「君が代」が導入されてから7年目になります。私が嘱託として学校に勤務する期間もあと1年あまりとなりましたので(結果的には「最後の卒業式」となった)、君が代導入後7年目の卒業式について書いておこうと考えます。
2月4日(土)の午後2時から70名ほどの参加者を得て、田中伸尚さんをお呼びしての押し付けないで「日の丸・君が代」高槻市民ネットの卒業式・入学式の取り組みのスタート集会を開きました。田中さんの講演は「思想・良心の獲得に向けて」で、思想・良心の自由獲得についての歴史と現在を全面展開していただきました。その後の交流もふくめて、実に有意義な一日となりました。
週明けの6日(月)の職員朝礼で、卒業式実行委員長が(彼は連合系市教組の分会責任者でもある)、8日に卒業式実行委員会を持つと連絡しました。田中さんの講演の余韻がさめやらぬ日だったので、今年の校長への申し入れを開始しようと思いました。
それで、早速7日(火)の昼休みに校長への組合の申し入れをしました。要求書の内容は以下の通りです。
1)卒業式・入学式において「君が代」の演奏・斉唱を強制しないこと。
2)卒業式・入学式において「日の丸」の設置・掲揚を強制しないこと。
3)卒業式・入学式のプログラムや会場設営については、教職員の話し合いにおける、それぞれの意見を尊重すること。
4)教職員および児童、生徒、保護者の内心の自由、思想信条の自由を守るために、事前説明を必ず行い、起立や斉唱の強制をしないこと。
5)教科指導の内容については、憲法、教育基本法の精神に基づくこと。
6)卒業式・入学式における組合員の行動をチェックしたり、教育委員会に報告したりしないこと。教育委員会から報告を求められた場合には、事前に連絡すること。
7)卒業式・入学式に関わって職務命令をださないこと。
8)2005年3月に出された柳川中学校校長に対する大阪弁護士会勧告(別紙)を尊重すること。
9)その他関連する事項。
私が申し入れた主な内容は4)と8)の生徒の思想・良心の自由の保障に関することでした。特に昨年3月の卒業式予行であった「君が代」斉唱強制を止めるようにと要請しました。
1)卒業式予行の練習時に司会の教頭が、「国家斉唱」の箇所で何度も起立の練習をさせ、ここでは起立しなければならないと強要したことについての是正要求に対しては、校長は「普通」状態にすればいいのだろうと答えました。「普通」とは「粛々」ということでしょうが、起立の強制指導は止めると思われます。
2)校長も出席した予行時の「君が代」斉唱時の唐突な「楽譜」の配布は強制になるので止めるようにとの要求に対しては、校長は「教室」で配布したらいいのかとの反応で確答はしませんでした。私は配布そのものを止めよと言っているので、それ以上は言えないとしました。この校長は教室での配布にして、「君が代」の指導を職員に求めかねません。3)以上の強制は、前校長が2000年3月の「君が代」導入時から行っているので、その経過の反省に立ち、今年の卒業式予行では「君が代の強制はしない」と生徒に言うべきであるとの要求に対して、校長は「それは言えない」、とんでもないという対応でした。
本質的に「思想・良心の自由」について理解できないのが校長というものです。今年の卒業式の結果如何では、告発(弁護士会への人権救済)もありと脅しておきました。もういっぺんやったろか。
校長は、私たち嘱託が他の係に当たって卒業式の会場には出席していないと前校長から引き継いでいたそうで、僕が式に出席して(たったひとり)着席していたとは知らなかったので、「えー、松岡さんは式に出席しとったんか」と驚いていました。校長は「他の仕事を分担してもらうことも考えないかんな」とも言っていました(これ「式に出席するな」と言うことかと後で使えます)。また、「要求するのなら、起立して協力してもらわなければあかん」とも言いましたが、「僕は導入以来、ずっと着席してきましたので、それはできません」とお断りしておきました。
8日(水)の昼休み、卒業式実行委員長と校長交渉の経過と予行時の強制を止めさせたいと話をしましたが、あまりやる気のない反応でした。今年の連合系組合の分責は誠実な人なのですが、彼でもこの問題では動かないのかと落胆しましたが、地道に執拗に校長相手にくらいついていくつもりです。
2月11日(土)に、「建国記念の日」反対!憲法・教育基本法の改悪反対!「日の丸・君が代」ホットライン2006大阪集会が100名を越える参加者を得て開かれました。中島光孝さん(小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟弁護団)の「小泉首相靖国参拝(台湾)違憲判決と『日の丸・君が代』」というお話に感銘を受けました。高槻の市民ネットからは私が市民ネットの卒・入学式関係の取り組みを報告し、昨年出た大阪弁護士会勧告が卒・入学式での「君が代」強制排除の運動にとって大変重要であると話しました。
21日(火)の昼休みに校長への卒・入学式改善要望事項を非常勤特別嘱託員として出しました。
その改善要望事項は、
1)卒業式予行練習での「君が代」斉唱時の起立強制をやめること。
2)卒業式予行での「君が代」楽譜配布をやめること。
3)卒業式・入学式での「君が代」斉唱については、全員が着席した状態で、司会(教頭)が、
ただ今から国歌斉唱を行ないます。ご協力して頂ける方は、ご起立のうえご唱和下さるようお願いします、と発声すること。
4)管理職は、卒業式・入学式や予行で卒業生・在校生に「思想・良心の自由」が保障されていることの説明を行うこと。
5)卒業式・入学式や予行以前に、教職員は式に参加する児童・生徒に対して、「日の丸」「君が代」が導入されるに至った経過並びに「歴史認識」等と合わせて「思想・良心の自由」が保障されていることの説明を丁寧に行うこと。
6)また、保護者に対しては、卒業式・入学式に先立って「思想・良心の自由」が保障されていること、「国歌斉唱・起立」が強制でないことを、次のように説明したうえで「協力要請」をすること。
本校の卒業式におきまして、式次第にありますように国旗の掲揚と国歌斉唱を行います。起立斉唱するかしないかは、個人の自由であり強制されるものではありませんが、ご協力していただける方は、ご起立のうえご唱和下さるようお願いします。
今年の卒・入学式においては、直接的には卒業式予行関係の1)と2)の改善を実現したいと考えていたのですが、生徒及び保護者の思想・良心の自由に関する原則的事項についても打ち出しておきたいと思いました。校長は後者のことについては取り合おうという態度はありませんでした。
同21日の夜は高槻市教委指導課との組合の交渉日でした。指導課との交渉事項のなかで「君が代・日の丸」関係は重点項目のひとつでした。
指導課への要求事項は、
1)市教委は教職員に「日の丸・君が代」指導を強制しないこと。また、卒業式・入学式においても子ども・保護者・教職員に対して「日の丸掲揚・君が代斉唱」を強制しないこと。
2)「日の丸・君が代」の取り扱いについては、これまでの卒業式・入学式に見られたような児童生徒・保護者や教職員の思想・良心の自由を侵すことのないよう、また人権侵害のないよう最大限の配慮をすること。大阪弁護士会勧告(05・3・10)を尊重し、児童・生徒および保護者に対して思想・良心の自由についての、事前説明を実施するなど最大限の配慮をすること。
3)式場内に「日の丸」を掲揚しないこと。
4)「君が代」斉唱を拒否し起立しなかった教職員に対して、いかなる処分も降ろさないこと。(以下、略))
この交渉で特に問題にしたのは、昨年3月に出た大阪弁護士会勧告を校長会に資料として下ろし、卒・入学式において子どもの思想・良心に関する事前説明をするように校長を指導することでした。しかし、市教委はそのような指導をする考えはなく、弁護士会勧告を資料として下ろすことにについても「柳川中学校長個人に来ているもので困難」と逃げようとしました。私たちとの激しいやりとりの後、「勧告」を下ろすことについては検討し、後日返事をすることになりました。交渉のなかでの指導課主幹の「勧告についての朝日新聞記事(05・3・11)については、新聞報道であるから可能」との発言がありました。また、関連して私の勤務校での昨年卒業式予行の「君が代」強制について、事実確認と校長への指導を求めました。校長に対する指導はできないと拒否しましたが、事実確認をする約束になりました。
その後、22日(水)に指導課長と電話で確認しましたが、「学校教育部長と協議したが、弁護士会勧告は下ろせない」というひどい結論でした。これは市教委が子どもの思想・良心の自由についての指導を何らしないという証左です。また、28日(火)に同様に電話確認をしましたが、「下ろすことが可能」と言っていた朝日新聞記事についても「下ろせない」という返事でした。このことからも市教委は「君が代」強制の陣頭に立っていると言えます。さらに、3月6日(月)に指導課長と電話で、私の勤務校での「君が代」強制の事実確認はどうであったか聞きましたが、校長への事実確認はしたが、校長からは「昨年の予行は特に問題はなかった」との返事だったとのことで、市教委の指導性を疑いました。
さて、来週3月14日(火)が中学校の卒業式です。最後まで、子どもの思想・良心の自由を尊重し、「君が代」強制がないよう求めていきたいと思っています。
2月24日(金)に押し付けないで「日の丸・君が代」高槻市民ネットワークの会議があり、今年の卒・入学式のビラ配布、高槻市教委への申入文等の検討をし、3月8日(水)午後5時から約2時間半にわたり市教委への申し入れ行動を行いました。市教委側の出席は学校教育部次長と指導課長でした。
申し入れでは、児童・生徒の思想・良心の自由に関わる事前説明を求めました。また、高槻では大阪弁護士会に勧告を2度出していただいているので、申し入れ書の勧告と関わる部分を抜き出します。
3)卒・入学式に「日の丸・君が代」を導入すべきではないと私たちは考えますが、それでも導入するというなら、児童・生徒に対して強制的な状況をつくらないよう十分配慮してください。例えば、「全員起立」という号令は強制になるのでやめてください。
強制されずに自分で判断できるためには、君が代を歌いたくなければ、歌うことを拒否できること、さらには、起立すること、同席することも拒否できることを、前もって知る必要があります。式の前に、拒否する権利があることを児童・生徒と保護者に知らせるように各学校を指導してください。
4)児童・生徒と保護者だけでなく、教職員の思想・良心の自由も保障されるべきです。大阪弁護士会による高槻市教育委員会への勧告(2003年3月)に、文書訓告と記者会見による公表は教員の「思想及び良心の自由を侵害し、ひいては児童・生徒や教職員に君が代斉唱を強制するもの」とありました。児童・生徒の思想・良心の自由を尊重するためにも、教職員の思想・良心の自由を尊重すべきです。起立斉唱しないという理由で、教職員を処分するのは思想・良心の自由の侵害になります。(中略)
卒・入学式で、児童・生徒、保護者、さらには教職員の思想・良心の自由が保障されることを私たちは要望します。
7)上記3と関連することですが、2005年3月に出された柳川中学校校長に対する大阪弁護士会勧告(別紙)を尊重し、児童・生徒の思想・良心の自由を守るために、事前説明を必ず行い、起立や斉唱の強制をしないようにして下さい。
申し入れで市教委は、卒・入学式における国旗及び国歌に関する指導は、「学習指導要領に基づき」行っていると繰り返すのみで、児童・生徒の思想・良心の自由を保障するための事前説明を行うようにとの市民の要望に対して、誠実な対応はなんらありませんでした。そして、今年度の卒・入学式で人権侵害の事例が起これば、再度、話し合うという約束になりました。(これは市民ネットで例年行っていることです)
2月27日(月)より、フィリピンに帰されていたRが復学したので、Tともに受験に向けての特訓を始めることにしました。1年生のN君もふくめて3人でにぎやかに学習ができ、私の心は華やぎました。3月3日(金)に母の通院の付き添いで病院に行きましたが、その診察でさらに介護の必要が出てきて、6日(月)にすでに来年度の配置が確認されていた非常勤特別嘱託員をやむを得ず辞退し、3月末で退職することにしました。私にとって文字通り「最後の卒業式」になりました。
3月9日(木)の昼休みに卒業式予行の強制排除の最後の確認に行きました。校長の返答は次のようなものでした。
1)予行練習での起立強制を止めるようにとの要望に対しては、予行は普通通りに行うとの返事でした。(特に起立の強制指導はしない模様であった)
2)「君が代」楽譜配布をやめるようにとの要望に対しては、斉唱時に配らず、3学年の全員が揃ったところで配るかどうか迷っているようで、明言を避けました。
この日の校長の対応は、前例遵守・独自の判断はしない感じでした。私からは、今後、市教委に対する弁護士会勧告が出る予定であり、勤務校の強制事例が市教委への勧告の例証にならないよう熟慮していただきたいと申し添えました。
3月13日(月)の卒業式予行がついに来ました。3、4時間目に私は後ろから進行を注視しました。
1)まず、1・2年生の練習では、国歌斉唱の箇所では起立強制の指導はありませんでした。
2)3年が入場して、予行が始まりましたが、なんと「君が代」の楽譜配布はありませんでした!
いや驚きました、こんなに要求が通るとは予測しませんでした。やはり弁護士会勧告のインパクトは大きかったと言えます。
予行の後、体育館を出たところで、校長に声をかけました。
私 「私の要望を2つとも聞いていただき、ありがとうございました」
校長「(去年みたいにしなくとも)ここの子は出来るから」(1、に関して、全員起立するからという意味か?)
校長「ああ、楽譜配るのん忘れた」(とふざける)
ともあれ、昨年の卒業式予行で衝撃を受け、考え続けたことが改善されてよかったと思いました。
翌日の3月14日(火)が卒業式でした。朝、学校に着くと、市民ネットのメンバーが「強制はできない」とのビラを配ってくれていました。ありがたいことです。式が始まりました。今日は名札をぶら下げた教職員が多すぎます。教職員席には10人あまりいましたが、「君が代」斉唱時に着席は私と転任の職員の2名でした。今年は私以外に着席者があり、心強いかぎりでした。これは意外なことでしたが、例年とちがい開会宣言では立たせず、着席のまま「国歌斉唱、御起立願います。」に変わっていました。今年実現したいと思っていた以上のことが実現しました。大変嬉しいことです。式後にRとTに「がんばって生きていきや!」と声をかけ、お別れをしました。「おれの特嘱生活の2年間は終わった・・」
3月15日(水)の帰り際に校長と立ち話をしましました。
私 「卒業式では着席から国歌斉唱だったでしょう」
校長「?・・」(ととぼける)
校長は市民ネットのビラ配布をしきりと気にしていました。「拠点校」にしたのかとも。(大げさな!)
私 「市教委への弁護士会勧告が出たら送りますわ」
校長「出えへん、出えへん。いらん、いらん」
私 「絶対出ます。来年は強制しないと言ってもらわなければなりませんので」
さて、私の最後の卒業式は終わったが、来年の卒・入学式では学校に職を得ていないが、組合役員として、また、市民ネットの一員として、強制排除の取り組みを舞台を変えてやっていこうと思いを新たにしました。