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休憩時間訴訟 準備書面(6)

2005年6月15日掲載

平成16年(行ウ)第50号 賃金等請求事件

原  告  松 岡   勲  外4名
被  告  大  阪  府  外8名

準備書面(6)

2005年6月13日

大阪地方裁判所 第5民事部合議1係御中

原告   松 岡   勲
原告   家 保 達 雄
原告   志 摩   覚
原告   末 広 淑 子
原告   長谷川 洋 子





 平成17年5月16日付け、被告・大阪府の準備書面(5)の休憩時間中の勤務に係る主張に対し、原告らの従前の主張に反する部分は全て否認するものであるが、それにつき以下のとおり陳述する。

第1、休憩時間について、(3頁4行目)に対して

1、休憩時間に関する法令等の規定(3頁5行目)に対して

 労働基準法第34条に規定され、刑事罰で保護されている休憩時間とは、原告らの小中学校の現場において、管理職(校長・教頭)を除く全教職員が、全員校外に退出しても、全く業務に支障のない時間帯のことをいうものである。しかし、原告らに対し休憩時間とされている時間帯は、在校している児童・生徒の指導・授業及び学級経営等に必要不可欠な業務を遂行している時間帯である。従って休憩時間とは「形式上のもの」であり、労基法上の休憩時間にあたらないものである。よって、原告らには、従前の主張のごとく、休憩時間を与えられていないものである。

 労基法34条は、休憩時間を、①労働時間の途中、②一斉(行政官庁の許可のある場合はこのかぎりでない)③自由利用、と定め、この規定に反した場合、使用者(校長・地教委)は6ヶ月以下の懲役又は30万円の罰金(同法119条)と定めていることは既に述べてあるとおりである。



 被告は、上記「形式上の休憩時間」を、労基法上の休憩時間との前提で、主張を展開しているので、これに対し原告らは下記のごとく述べる。



2、 休憩時間中の勤務について(4頁17行目)、に対して

(1)休憩時間の変更について

 被告・大阪府は次のように述べている。

 『市教委規則第4条は、「条例第5条第1項本文に規定する休憩時間は、校長が、午前11時から午後2時までの間に置くものとする。ただし、学校運営上必要があると認める場合は、他の時間に変えることができる。」と規定しており(丙第1号証)、休憩時間の割り振りの権限が校長に委任されているとともに、学校運営上必要があると認める場合は、校長は、当初割り振られた休憩時間を他の時間に変更することができることも規定している。』(4頁18ー24行目)

 市教委のこの規定は、「午前11時から午後2時までに」置くことができない原告・家保、同・志摩、同・末広、同・長谷川の所属校における(形式上の)休憩時間が、年間を通じて午前11時から午後2時の間になく、年間を通じてならば変更することができることを規定したものであり、被告・大阪府の主張のごとく、原告らの休憩時間をその都度、校長によって変更できるものと規定したものではない。

 高槻市立学校の府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則(丙第1号証)第2条・3は「校長は・・勤務時間の割振りを変える場合は、職員に、あらかじめ相当の期間をおいて周知させるものとする。」と規定している。

 「相当の時間」ではなく、「相当の期間」をおいて周知させるとは、当日その都度、校長によって変更できるものでないということである。(なお、休憩時間の時間帯は、各校毎に年間を通して、勤務時間の割振りによって定められている。)

 よって休憩時間の変更は、校外における学校行事の場合とか、児童・生徒の生命に関わる事件の発生等、特段の事情のある場合に限られるものである。



 休憩時間は原則、変更することは出来ないものである。労働法学者・松岡三郎氏は次のごとく述べている。

 休憩時間は『労働時間や休日の場合のような振替は認められていない。しかも休憩時間は、労働時間や休日とちがって、割増賃金によっても、これを買い上げることは違法である。もとよりその違法なことが行われて、時間外労働に及べば時間外労働に対する法定の割増賃金の支払いをしなくてはならない。その割増賃金を払っても休憩を与えなかった違法性は残る。それだけ使用者は弱みをもったわけである。』(普及版・労働基準法・増補2版、松岡三郎著、弘文社・154頁) 従って被告・大阪府の準備書面(5)5頁、6行ー8行の主張は、特段の事情のある場合に限られるものであり、「法令の主旨」と解することはできないものである。 



(2) 休憩時間中の業務(5頁14行目)

 被告・大阪府は次のように述べている。

 『・・職員から申出がないときに、校長が改めて休憩を与えなかったとしても、その勤務が自主的・自発的なものであることから考えて、労働基準法に反するものでないと解する。』(6頁、4行ー6行目)

 原告らの従前の主張のごとく、被告のいう(限定4項目に含まれず、且つ超勤手当の対象とならない)『自主的・自発的』業務は存在しないものである。原告らの行なう(形式上の)休憩時間における学校での業務は、児童・生徒の指導及び授業を行うに当たり、又、学級経営を行うに当たり必要不可欠なものばかりであり、教員の本務そのものである。

 又、「校長は校務をつかさどり、所属職員を監督する」との規定(学校教育法第23条3項)は、所属職員に対して休憩時間を確保し、付与する義務を負うことを含むものであり、教職員が休憩時間を取得できない状態に置かれていることは、校長が自身の業務を遂行していないことであり、業務放棄そのものである。

 原告らは、休憩時間中も業務を遂行しないと、自己の業務が完遂できないものである。



3、休憩時間中の勤務と超過勤務手当について、(7頁、11行目)に対して

 すでに述べたごとく、校長が割り振った(形式上の)休憩時間に業務を遂行しなければ、授業等ができないのが実態であり、又その時間帯に児童・生徒の指導も行っている。従って教職調整額4%の対象外の業務を行っているものである。よって当然に超過勤務手当の支給がなされなければならない。



第2、原告らの主張に対する反論、(8頁8行目)に対して

1、「給特法の立法趣旨について」の項の主張について(8頁9行目)に対して

 被告・大阪府は、『限定4業務と「自主的・自発的」業務を同列に論じている点で、同判決を誤解した主張である』と述べている。(8頁11ー13行目)

 しかし、名古屋地裁・平成11年10年29日判決は、中学校における、進路指導上の必要不可欠な業務を、全て「自主的・自発的」な業務としている。これらの業務の内容は、生徒の進路に関わるもので、校長の黙示の命令によるもので、学校運営上、限定4項目と同列、いやそれにも増して重大な業務である。

 被告・大阪府の反論は、教育現場の実態を知らない者の戯言であると言えるものである。



2、「府給与条例第26条の3等の規定及び府勤務時間条例11条の趣旨について」の項の主張について、(8頁14行目)に対して

(1)原告らが被告・大阪府の主張として述べているところは、『極めて不正確』であると主張(8頁16行目)しているが、どの部分が不正確なのか、判然としない。

 被告・大阪府は、『本件において、原告らに対し限定4項目に属さない業務に従事させるために明示又は黙示に時間外勤務命令が発令されたことを立証する根拠は、未だ認められない。』(9頁1行目ー3行目)とも述べている。

 しかし、原告ら従前の主張のごとく、校長の割振った(形式上の)休憩時間中の業務は、既に繰り返し述べているように、必要不可欠な業務ばかりであるので、校長より黙示の命令が発せられたと解するより外ないものである。



(2)『本件においては、上記判示のような職務命令が、黙示にせよ発せられたか否かが問題とされている。』(9頁18ー19行目)と述べているが、そのことに係る部分を引用すると以下の通りである。(9頁、9行ー15行目)

 『・・そのような時間外勤務が発せられるに至った経緯、従事した職務の内容、勤務の実状等に照らして、それが当該教職員の自由意思を極めて強く拘束するような形態でなされ、しかもそのような勤務が常態化しているなど、かかる時間外勤務等の実状を放置することが同条例7条が時間外勤務を命じ得る場合を限定列挙して制限を加えた趣旨にもとるような事情の認められる場合には、給与条例3条によっても時間外勤務手当等に関する給与条例の規定の適用は排除されないと解するものである。』

 原告らの従前の主張のごとく、本件、休憩時間における原告らの業務は、「行わなければならない」在校中の児童・生徒の指導であり、又午後あるいは翌日以降の授業・学級運営等に必要なものばかりである。従って「自由意思を極めて強く拘束する形態」でなされ、又「そのような勤務が常態化しているもの」である。すなわち、時間外手当等に関する給与条例の規定の適用は排除されないものである。



3、休憩時間に関する主張について(9頁20行目)に対して

(1)休憩時間の自由利用について、(9頁21行目)に対して

 被告・高槻市らは、平成16年10月25日付け準備書面(2)(4ー5頁)において、次ごとく述べている。

 『・・原告らが児童生徒に対して、指導や相談が必要なとき一定の創意工夫によって休憩時間以外の時間にずらすなどによって休憩時間の確保もあながち不可能でないし、休憩時間中に真に必要な緊急かつやむをえない対応を要するときは、前記市勤務時間規則第3条ただし書きによって、休憩時間の振替が可能であるところ、原告らより振替の申し出を受けた事実はないことは、逆にこのような対応を必要とする事情が存しないことの証左ともいえる。』



 すでに述べた如く、割振られた(形式上の)休憩時間は、業務遂行で休憩は取得できないものであるし、又休憩時間の振替は、すでに述べたごとく、法令上もその都度できないものである。「原告らにより振替の申出を受けた事実はない」としているが、法令上できないし且つ事実上も出来ないものである。どの時間帯に振替るのであろうか?勤務開始から割り振られた休憩時間中を含め勤務時間終了後まで業務を遂行し、まだ自宅に仕事を持ち帰ることもしばしばある中で、どの時間帯に振替を申し出よというのであろうか?これも又、教育職場の実態を知らない者の戯言である。



(2)休憩時間の途中付与について(9頁26行目)に対して

 休憩時間のその都度の振替は出来ないことは既に述べたものであるが、解釈例規(乙第20号証)の来客当番の件は、相当の期間前に当番が決められているものであると思量される。このことが「振替はその都度出来る」ということにはならないものである。



(3)休憩時間の一斉付与について(10頁11行目)に対して

 使用者は、原則として休憩時間を一斉に与えなければ、罰せられる。それは、事業所の労働者がいっせいに休憩をとらなければ休暇をとった気持にならないからである。(普及版・労働基準法・増補2版、松岡三郎著、弘文社・158頁)

 教員の休憩時間を学年別に定めることは、当該学年の児童・生徒が一人も在校していなくて、その上当該学年の父母が休憩時間帯を承知していると共に、休憩時間にもやらねばならない業務を当該教員が一人も抱えていないという条件がととのった場合は格別、そのようなことは考えられないのであるから、交替による休憩も取得できないものである。

 なお、交替休憩の件については、本件原告らは関連性がないものである。



4、休憩時間中の勤務に関する主張について、(11頁1行目)に対して

(1)休憩時間中に勤務を命じることは、原則としてできず、このことは、既に述べたとおりである。 

(2)すでに述べてあるように、原告らの勤務実態は、当初割り振られた(形式上の)休憩時間に勤務した場合、出勤から退庁までの間、すでに述べた如く、業務がびっしり詰まっており、振替える時間帯が存在しないものである。

 従って、割り振られた(形式上の)休憩時間に勤務した場合は、時間外勤務に該当すること明らかである。既に述べてあるように、原告らの休憩時間中の業務遂行は、校長による黙示の命令であること明らかである。

以上