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休憩時間未払賃金等請求訴訟訴状

2004年4月29日掲載

訴  状
2004(平成16年)年
4月21日

大阪地方裁判所民事部御中

原告
松 岡   勲
家 保 達 雄
志 摩   覚
末 広 淑 子
長谷川 洋 子

請求の趣旨     別紙の通り
請求の原因     別紙の通り
当事者の表示    別紙の通り

休憩時間未払賃金等請求事件

 訴訟物の価格  金683万9975円

 貼用印紙額   金  3万8000円

請求の趣旨

1、被告大阪府は別紙休憩時間未払賃金表記載の通り原告松岡勲に68万1175円、原告家保達雄に69万7108円、原告志摩覚に72万1251円、原告末広淑子に74万8719円、原告長谷川洋子に69万1522円、及びこれらに対して、それぞれ、別紙休憩時間未払賃金表の各月の未払賃金について、その月の翌月の17日(職員給与の支給方法等に関する府人事委員会規則第3条、18条に定める日)から完済まで年6分の割合による金員を支払え。

2、被告高槻市と被告竹下幸男は連帯して原告松岡勲に対して30万円、被告高槻市及び被告中井俊次と被告恒岡善博は連帯して原告家保達雄に対して30万円、被告高槻市と被告高浜義則は連帯して原告志摩覚に対して60万円、被告高槻市及び被告大西昭彦と被告佐竹真文は連帯して原告末広淑子に対して30万円、被告高槻市と被告山口正孝は連帯して原告長谷川洋子に対して30万円、被告高槻市は各原告に対して、それぞれ30万円、及びこれらに対して、それぞれ、この訴状送達の翌日から完済まで年5分の遅延損害金を支払え。

3、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

請求の原因

第一 当事者

1 原告

 原告らはいずれも給与を大阪府によって負担され、大阪府教育委員会に任命され、被告高槻市が設け、高槻市教育委員会が所管する高槻市立学校に勤務する教員である。また、勤務条件は大阪府条例、大阪府教育委員会規則及び高槻市条例、高槻市教育委員会規則を適用され、学校において原告ら教職員の勤務条件を含む校務を被告ら各校長が司っている。

 松岡勲は高槻市立柳川中学校に勤務した。(2004年3月31日に定年退職)

 家保達雄は高槻市立庄所小学校に勤務する。

 末広淑子は高槻市立竹の内小学校に勤務した。(2004年4月1日に転勤)

 志摩覚は高槻市立土室小学校に勤務する。

 長谷川洋子は高槻市立大冠小学校に勤務する。

2 被告大阪府は全ての原告の任命権者であり、原告らの雇用者である。

3 被告高槻市は被告校長らの職務を管理する地方公共団体である。

4 被告各校長ら

 被告竹下幸男は高槻市立柳川中学校長であり、原告松岡勲の服務監督者であった(請求期間 2002年4月22日~2004年3月31日)。

 被告中井俊次は高槻市立庄所小学校長であり、原告家保達雄の服務監督者である(請求期間 2003年4月1日~2004年3月31日)。 被告恒岡善博は高槻市立庄所小学校前校長であり、原告家保達雄の服務監督者であった(請求期間 2002年4月22日~2003年3月31日)。

 被告高浜義則は高槻市立土室小学校長であり、原告志摩覚の服務監督者である(請求期間 2002年4月22日~2004年3月31日)。 被告大西昭彦は高槻市立竹の内小学校長であり、原告末広淑子の服務監督者であった(請求期間 2003年4月1日~2004年3月31日)。

 被告佐竹真文は高槻市立竹の内小学校前校長であり、原告末広淑子の服務監督者であった(請求期間 2002年4月22日~2003年3月31日)。

 被告山口正孝は高槻市立大冠小学校前校長であった。原告長谷川洋子の服務監督者であった(請求期間 2002年4月22日~2004年3月31日)。

第二 事実

1 休憩時間に関する未払い賃金請求

 労働基準法第34条は以下のように休憩時間について規定している。
 1、使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

 2、前項の休憩時間は、一せいに与えなければならない。

 3、使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

 大阪府の「府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則」、高槻市の「高槻市立学校の府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則」も労働基準法の規定に従っている。

 休憩時間が労働基準法で保障されている意義について述べる。労働が継続して行われると、疲労の度合いが倍加され、肉体的疲労、精神的疲労および慢性的疲労の原因になる。そのため、勤務時間の途中に適当な休憩時間を確保し、疲労の回復をはかることは、教職員の健康を維持する上で不可欠である。そのため、休憩時間は勤務時間の途中に使用者の指揮監督及び仕事から完全に離れることが保障されている時間でなければならない。そして、休憩時間の一斉付与、自由利用が原則である。これを休憩時間の3原則という。また、休憩時間は勤務時間に含まれないので、給料が支給されない。学校現場の実態はこの休憩時間の保障体制が確立されていず、実際には仕事が継続している。このような長年の労働実態は教職員の健康破壊、過労死、退職後の早死につながっている。それも賃金は支給されないにもかかわらずである。

 また、休憩時間とは「単に作業に従事しない手待時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取り扱うこと」(労働基準局、22.9.13発基17号)であり、「いつ仕事を命ぜられるか知れない状態で待たされているために、労働者が自由に利用できないような手待時間あるいは手あき時間は、名称の如何に関わらず休憩時間とはいえない。俗にそれは、休息時間といった表現を使用される場合があるが、労働基準法によれば、それは労働時間である」(松岡三郎著『普及版・労働基準法、増補版』弘文堂)という観点から、休憩時間が休憩時間として保障されるためには、「自由利用の原則」、つまり、教員の場合は休憩時間に学校を離れることができる条件が不可欠である。

 また、休憩時間の確保は刑事罰で保護されるほど重要な労働者の権利である。休憩時間に働かせることはただ働きになり、それ故、雇用者は刑事罰を科せられるのである。

 労働基準法第119条には次のように罰則が規定されている。

労働基準法第119条

 次の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万以 下の罰金に処する。

 一 第3条、第4条、第16条、第17条、第18条第一項、第19 条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条(以下、略)

 教職員に45分の休憩時間が保障されなければならないが、上記の意味で学校現場では休憩時間はまったく保障されていない実態にある。

 原告らの勤務時間及び休憩時間は以下の通りである。

松 岡   勲

 勤務時間 午前8:25~午後5:10
 休憩時間 午後0:45~1時30分

家 保 達 雄 

 勤務時間 午前8:30~午後5:15
 (以下、原告らの勤務時間は同じ)

 休憩時間 月・火・木曜 午後3:25~4:10
      水・金曜   午後2:25~3:10

志 摩   覚 

 休憩時間 火・木・金曜 午後3:30~4:15
      月・水曜   午後2:40~3:25

末 広 淑 子 

 休憩時間 6校時まである日 午後3:35~4:20
      5校時まである日 午後2:45~3:30

長谷川 洋 子

 休憩時間 午後3:30~4:15(水曜 午後2:40~3:25)

 原告松岡の勤務校であった高槻市立柳川中学校では、午後0時45分から1時30分までが休憩時間(生徒の昼休みと同じ時間)であるが、この時間帯で教員が休憩時間を取るのは不可能である。2002年度は3年生担任、2003年度は1年生担任で、昼食時間には週に3回程度は生徒と教室で昼食を取っており、その際には生徒の様子の把握、生徒との会話と打ち合わせ等を食事もそこそこにしてやってきた。また、昼食時間以外にも生徒の指導、生徒の相談事への対応、学年会議、教科会議、教員の打ち合わせ、班ノートの点検、教材準備等席の暖まる余裕のない2年間であった。2002年度の3年生担任時では、2学期中頃より進路指導のための生徒との相談、書類の作成等の作業があり、食べながら仕事をこなさなければならない日常で、昼食もそこそこにして仕事に追われていた。そもそも生徒が学校にいる時間帯に教員が休憩時間を取ることは不可能なのである。

 原告家保の勤務校である高槻市立庄所小学校での実態は次の通りである。2002年度は1年生担任であった。1学期の前半は、家庭との連絡を週2~3回の「学年だより」で行ってきた。子どもたちが下校した後は、当然、毎日の学年会(担任2名)、教材研究・教材準備に忙殺されることになり、休憩時間はほとんど取れない状態であった。なぜなら、設定されていた休憩時間後は、ほぼ毎日、何らかの定例会議・臨時会議が組み込まれ、勤務時間内での時間的余裕など皆無だからである。それ以降についても、「学年だより」が、週1回・2週に1回と減ってはきても児童との対応・保護者との対応に追われることも多く、さらに他学年の「いじめ・不登校」の課題をどう克服するか等の臨時校内研究会が何度も持たれ、毎日の教材準備、学年行事・学校行事の準備に休憩時間を当てざるを得なかったのが実態であった。2003年度は、5・6年生の理科専科と5・6年算数のT・T(ティーム・ティーチング)主担、さらに養護学級児童の学習支援を担うことになった。庄所小学校は養護学級1学級を含めて8学級の小規模校であり、規模別加配は1名である。その枠が「理科専科」になり、担任外の、主だった校務分掌の大半を一人で兼務するということになる。実態としては、5・6年の2学年にわたる理科・算数の教材研究、授業準備、また理科実験がある場合の事前準備・後片付けに追われる日々がほとんど毎日続いていた。さらに前述したように、多くの校務分掌に関わる指導計画や準備・研究、各部・委員会間の調整等で放課後も追いまくられる状態となり、「空き時間」(5時間/週)も含め、休憩時間にも仕事をせざるを得ない実態であった。

 原告志摩の勤務校である高槻市立土室小学校の実態は以下の通りである。2002年度(5年生担任)は、1学期は林間学校の行事があり、4月当初からその計画や準備作業に忙殺される。児童と一緒にする作業も多くて特別活動だけではとうてい足らず、授業時間終了後の休憩時間にやることになる。計画等も休憩時間にもやらねばやりきれない。また、この年は高槻市の研究委嘱校の指定を受け、2学期末に総合的学習の研究発表の中心的学年になった。年度当初から計画、立案、地域内外のボランティア・ゲストの人々との折衝、準備と休憩時間帯も仕事をせざるをえなかった。それでも勤務時間終了後の1~2時間の残業と、ノート・テスト・教材研究・教材作成の自宅への持ち帰りはあたりまえであった。2003年度(理科専科とコンピュータ情報主担)は、教材準備、実験器具準備、教材園の管理、実験後の片付け(例えば膨大なガラス器具の洗浄。大規模校であるゆえクラス数・クラス人数・班人数が多く実験器具の数が膨大)、放課後、接触を求めてくる児童との対応で休憩時間を費やした。また、ホームページ作成、コンピュータクラブのボランティアさん達との打ち合わせ、機器の日々の保守管理、コンピュータ室機器の全面的新規更新作業、情報主担者会議・研修への出張で、休憩時間を費やしても時間が足らず、年間を通じてほぼ1~3時間の残業と自宅への持ち帰りで仕事を乗り切る。残業は午後8時、9時に及んだ事もしばしばであった。

 原告末広の勤務校であった高槻市立竹の内小学校の実態は以下の通りであった。2002年度は、NIE(Newspaper in Education、「教育に新聞を」の略。学校等で新聞を教材にする学習活動のこと)の研究指定を受けていた。その上、研究発表の学年だったので、その準備に追われ(発表前には特に)休憩時間はほとんど取れなかった。2003年度は、5年生では林間学校や児童会の行事があり、その計画や児童と一緒にやる準備が多かった。6時間目が終わってから児童と一緒にやらねばいけないので休憩時間にやることになった。計画等も休憩時間にもやらねばやりきれない。また、両年度とも、休憩時間に職員室に管理職がいない時に電話の近くに席があったため、その対応に追われ休憩が取れないことが多々あった。

 原告長谷川の勤務校である大冠小学校では、通常、休憩時間が終わった4時15分から会議がもたれる。しかしながら、2002年度、原告長谷川は、高槻市教育研究会小学校生活部の部長をしており、休憩時間に研究会準備の電話連絡や事務作業など、会議開始前の休憩時間の間に行わなければならなかった。会議が終わってからでは、電話先の担当者をつかまえることができないからである。また、同年担任した1年のクラスには養護学級在籍児童がおり、児童数も40名に近かったので、課業時間は、子ども達へのサポートですべて費やされた。そして、子ども達が下校した後の休憩時間に養護学級在籍児童への連絡帳を書いたり(該当児童はその時間は学童保育にいる。学童保育は5時下校である)、明日までにすまさなければならないノート・プリントのマルつけや点検をした。早くお知らせしなければならない保護者への電話連絡も行った。これらの仕事は、休憩時間にしてしまわなけば明日に間に合わない仕事である。このように休憩時間がとれる条件下では全くなかった。翌年度は3年を担任したが、ノートの点検、テスト・プリントのマル付け、保護者への連絡、子どもの補習、明日では間に合わない学年会の打ち合わせ(授業・学年行事・会議に関わるもの)も入った。2003年度も休憩がとれる条件下ではなかった。

 高槻市教育委員会は2002年度に休憩時間の試行実施をし、年度末に実態調査をした。この実態調査については、原告たちの所属する組合である学校労働者ネットワーク・高槻が高槻市教委との交渉で2003年に公表させたものであり、役員所属校の校名も明記させた。その「休憩時間試行実施に伴う実態調査」によると、C:ほとんど取得できなかった、D:全く取得できなかったの率を合わせると7割7分を超える、つまり、50%以上取得できたと回答した率は2割3分に満たない結果となり、さらに明示した休憩時間を変えて休憩時間が取れなかった率はC、D合わせると9割弱、つまり、50%以上取得できたという回答率は1割4分弱にすぎない。ちなみに高槻市教委は試行2年目の2003年度について実態調査をせず、休憩時間が確保できていない事実を隠蔽している。

 2002年度の実態調査では試行実施についての校長の意見を集約している。これにより原告の所属校の校長のコメントは以下の通りであり、休憩時間が取得できず、労働が継続しており、未払い賃金が発生している実態が明確である。

・高槻市立柳川中学校長竹下幸男「明示した休憩時間は取れていないと いう予想はあったが、実態はそれを超えるものであった。制度の抜本 的な改善か、人的配置を施す以外に方法はない。」

・高槻市立庄所小学校前校長恒岡善博「授業終了後の45分を休憩に充 てたが、児童との対応等でほとんど取得できなかった。来年度は一斉 に休憩が取れるよう十分な検討が必要。」

・高槻市立土室小学校長高浜義則「児童への対応や教材研究等で、なか なか取得できない現状。」

・高槻市立竹の内小学校前校長佐竹真文「電話、来客対応、教材研究等 のためとりにくかった。しかし、意識づけとしての効果はあった。」

・高槻市立大冠小学校前校長山口正孝「休憩時間には、児童や保護者へ の対応が入ることが多い。児童がいる問は休憩をとるという意識が薄 い。」

 休憩時間が勤務時間として継続している実態から考え、以下の計算で未払い賃金の支払いを大阪府に請求する。労働基準法第115条の「時効」に関する規定は2年間となっているので、2002年4月22日から2004年3月31日のまでの休憩時間の損失分を算定し、休憩時間の「自由利用」の原則が保障されず、学校から離れて休憩時間が確保されなかった日の未払賃金を大阪府に請求する。(5名の原告の休憩時間未払賃金表は別紙)

 未払賃金の計算式は以下のとおりである。

 「勤務1時間あたりの給与額」については、大阪府の「職員の給与に関する条例」第27条の規定による。

 第27条 勤務1時間あたりの給与額は、給与の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額に12を乗じ、その額を勤務時間条例第2条に定める1週間当たりの勤務時間に52を乗じたもから人事委員会規則で定めるものを減じたもので除して得た額とする。

 その職員給与の支給方法等に関する人事委員会規則第20条の要旨は以下の通り。

 ○ 条例27条の、人事委規則で定めるものは、4月1日~翌年3月31日の間の、

(1)「祝日」・休日(土曜を除く)と、

(2)12月29日~翌年1月3日の日数(休日・日・土と重なる日を除く)の合計に、8時間を掛けた時間。

 そして、(1)休日と(2)年末年始の合計は、2002年4月~2003年3月、2003年4月~2004年3月とも、各16日である。この16日を時間に直すと、128時間になる。したがって、

 1時間当たりの給与額=(月額給与額+月額調整手当)×12ヶ月÷1952時間(*年間総労働時間 40時間×52週-128時間)

 45分当たりの給与額=1時間当たりの給与額×0.75

 未払賃金額=45分当たりの給与額×休憩時間が取れなかった日数

 以下は別紙休憩時間未払賃金表によるその請求額(小数点以下切り捨て)である。

松 岡   勲 280日分 68万1175円

家 保 達 雄 295日分 69万7108円

志 摩   覚 307日分 72万1251円

末 広 淑 子 336日分 74万8719円

長谷川 洋 子 334日分 69万1522円



 よって、被告大阪府は各原告に対し、上記の未払賃金を支払うことを求める。



2 国家賠償法による損害賠償請求 

(1)休憩時間が保障されなかったことによる損害

 原告らの所属する組合は1999年の組合結成以来、休憩時間の割り振りと文書明示を高槻市教委に要求してきた。その結果、高槻市教委は2002年度にこれまでなされてこなかった休憩時間の割り振り(時間設定)と文書による明示を行うよう高槻市立学校長に指導し、休憩時間の試行を行った。しかしながら、先に述べたように原告らの勤務実態、高槻市教委の実態調査にも表れているように休憩時間は取れていないことは明確である。

 日本国憲法第18条には「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」とあり、また、同法第31条には「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」とあるが、本来、「働かせてはならない時間」に労働が継続する実態は憲法違反であり、労働基準法違反である。教員は生涯にわたる労働で、自由な休憩を与えられず、勤務する約束のない時間に勤務させられている。このことによって受ける肉体的疲労、精神的損害は甚大なものである。毎日、休憩時間や有給休暇を取らず、延々と40年近く働き続ける事は、健康に良いはずがなく、昔は、定年で退職し、ろうそくの火が燃え尽きるように死んでいった教員たちがいた。今は、定年まで待たず、体を壊したり、精神疾患をおこして辞めていく人、あるいは現職で病死・自死する人が大幅に増えている。私たち教員は使い捨ての機械でなく、人間である。そして、子どもたちは何よりも、元気で、気持ちに余裕がある教員に教えられたいのではないだろうか?

 このような現状を生起させた被告校長らとその校長を指導・監督する高槻市教委の責任は重大である。その上、高槻市教委は、2003年度には休憩時間の本格実施をするという計画を反故にし、試行を延長した上、2004年度も試行延長にし、本格実施に入らず、休憩時間の保障を放棄したままである。

(2)休憩時間文書明示義務不履行による損害

 高槻市教委は2002年度には休憩時間の明示指導を各校長に対して行ったが、2003年度は文書による明示指導を怠った。2003年5月22日の高槻市教委との交渉で、2003年度に職員に対して休憩・休息時間を含む勤務時間の文書明示がなされたかどうかの確認を求めたところ、勤務時間の文書明示(職員への文書の交付)の明確な指示を各学校長に下ろしていないことが判明した。組合として、2002年度は明示文書を職員に交付したではないかと問いただしたが、「2002年度は休憩時間試行1年目だから明示文書の提出を学校長に求めた。今年度は時間割表を提出させているので、休憩時間・休息時間の設定は分かる」と高槻市教委は弁明した。また、この交渉の中で労働基準法第15条の勤務時間の文書明示について、「文書は印刷物でも、掲示したものでもいいはずだ」との発言があった。この認識は基本的に法解釈をまちがっている。

 労働基準法第15条では、2000年4月には労働基準法の改正があり、勤務時間の明示について「書面による明示」が義務づけられた。旧労働基準法第15条には「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対し賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定していたのみだったが、2000年4月に改正された労働基準法では、労働時間の明示について次のように改められた。改正労働基準法第15条は「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」となり、また、この「厚生労働省令で定める方法」というのは、改正労働基準法施行規則第5条3項で「法第15条第1項後段の命令に定める方法は、(中略)書面による交付とする」とされた。

 これでも明らかなように「書面による明示」とは「掲示」ではなく(文書交付の上、掲示するのは丁寧な明示行為で大変結構であるが)、「文書の交付」である。この労働基準法に規定された文書明示違反は、労働基準法第120条の罰則規定で「30万円以下の罰金」に処される。

 さらに、同法第15条と関連して、労働基準法第106条は、「この法律に基づいて発する命令の要旨並びに就業規則を常時各作業所に見易い場所に掲示し、備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」と規定し、違反した使用者は、30万円以下の罰金と規定している。(同法第120条)

 労働基準法は、労働関係や当事者の労働条件の向上に努め、とりわけ労働者が自らの自覚に基づき権利行使を全うする(憲法第12条)ため、労働条件だけでなく、手続き等の選択も職場に応じて最も適切に選ばれるべきメニューを提示しているのであり、これらの複数を選択しても違法になるわけではない。制度を周知徹底する意義に対する高槻市教委の認識の欠如は、自由な休憩を妨げているのである。

 使用者としての校長は、所属職員に休憩時間を取得させるために、その前提として、明示義務を履行し、所属職員に休憩時間を取得させなければならない。その場合、掲示より文書交付の方がより徹底する。校長として、所属職員全員に適法な休憩時間を取得させるために、その前提・前段として文書交付をすべきである。

 2003年度に高槻市教委が休憩時間の文書明示の指導を怠ったため、10校で文書明示がなされなかった。これは原告の松岡が高槻市公文書公開条例によって全校の休憩時間の明示文書を公開請求したことによって判明した。そのうちの竹の内小学校では、組合による校長交渉によって、休憩・休息時間の文書明示と休息時間の割り振りが為された。だが、2004年2月16日、組合が来年度に休憩・休息時間の文書明示を校長に指導するように再度求めた市教委交渉においても、高槻市教委はその明示指導を明確にしないままだった。

 休憩時間も文書明示、職員に対する休憩時間の周知徹底が為されなかったことは休憩時間に関する損害の原因となっており、各学校長に対する服務監督者であるべき市教委が勤務時間の文書明示について無責任な指導をしたことは休憩時間取得の障害となっている。

 また、高浜義則校長は被告校長らのなかでただひとり2003年度の文書明示を為さず、志摩覚の休憩時間取得を侵害した。原告志摩の所属する組合は2003年8月6日にこの件で組合役員による校長交渉を持ち、勤務時間及び休憩・休息時間の文書明示を求めたが、現在まで文書明示が為されていない。

(3)休憩時間の3原則不履行による損害

 2002年度の休憩時間試行の際、「教職員の勤務における服務の厳正な取扱について(通知)」で高槻市教委は休憩時間の3原則である一斉付与を除外する指導を各校長にした。

そのなかの<説明メモ>では次のように全校長を指導した。

 ①②(省略)

 ③ 休憩時間は、条例上午前11時から午後2時の間に45分のかた まりで取ることを原則とするが、学校運営上必要があると認められる ときは他の時間に変えることができる。(低・中・高学年や担任・担 任外等、分割も可)

 ④ 休憩時間の一斉付与については、職務の特殊性がある場合におい て、休憩の自由利用が妨げられず、かつ、勤務の強化にならない場合 には、休憩時間を一斉に付与することを要しない。(府条例第5条第 2項、大阪府規則第3条の2)

  すでに原則がはずれている(校務員、調理員、等)実態があるので、 一斉休憩の除外をすることに問題はない。(教育委員会の承認:管理 運営規則第5条第2項)

 ⑤以下(省略)

 また、高槻市教委が例示した6つのモデルでも、休憩時間の一斉付与の除外、分割を例示していた。その結果、2002年度の休憩時間の試行では、高槻市教委より組合に情報提供のあった「平成14年度高槻市立小・中・養護学校休憩時間一覧票」に見られるように休憩時間の一斉付与の除外、分割が多くなっており、特に小学校では顕著であった。

 労働基準法で休憩時間は自由に利用でき、一斉に利用でき、労働の途中に与える(3原則)こととされているが、一斉付与の除外はこの3原則に反する。少なくとも、同一職種においての一斉付与の除外は、管理職による休憩時間の実態把握が困難となり、休憩時間の取得を阻害するので、この一斉付与除外については撤廃されるべきである。

 さらに試行での問題点として「休憩時間の分割」がある。これは休憩時間の3原則のひとつである「自由利用」を妨げる。ひどい例としては、高槻市立堤小学校の「10分の休憩」がある。これでは休憩にはならず、自由利用は不可能である。度重なる組合からのこの指摘に関わらず、この堤小学校の例ですら現在まで解消されていない。休憩時間は45分のかたまりとして設定されるべきであり、休憩時間の分割は撤廃されるべきである。労働基準法第119条は休憩時間の3原則に違反した使用者は「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」となっており、この3原則は違反に刑事罰を科せられるほど重いものである。



 よって、休憩時間を保障せず、ただ働きを強制し、休憩時間文書明示義務及び休憩時間の3原則の不履行に関連して休憩時間取得の損害及び未払賃金発生の原因を作った各校長と校長への指導・監督責任をもつ高槻市教委とに対して、国家賠償法第1条【公権力の行使に基づく損害の賠償責任、求償権】第1項「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」により以下の通り損害賠償を求める。

 被告高槻市と竹下幸男は連帯して松岡勲に対して30万円、被告高槻市及び中井俊次と恒岡善博は連帯して家保達雄に対して30万円、被告高槻市と高浜義則は連帯して志摩覚に対して60万円、被告高槻市及び大西昭彦と佐竹真文は連帯して末広淑子に対して30万円、被告高槻市と山口正孝は連帯して長谷川洋子に対して30万円、被告高槻市は各原告に対してそれぞれ30万円。



3 結語

 よって、職員の給与に関する条例(大阪府条例昭40年35号)第2条、職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例(大阪府条例平7年4号)第11条、府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則(大阪府教委規則昭41年2号)第2条、高槻市立学校の府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則第3条、民法第709条及び第710条、国家賠償法第1条の定めにより、請求の趣旨記載の通り請求する。                            

証 拠 方 法

 甲1号証  休憩時間未払賃金表(写)

 甲2号証  休憩時間明示に伴う実態調査(2002年度)(写)

 甲3号証  学校労働者ネットワーク・高槻規約(写)

 甲4号証  抗議及び要求書(休憩時間の文書明示違反に関して)  (写)  

 甲5号証  公文書不存在決定通知書(写)

 甲6号証  (高槻市立土室小学校長への)申入書(写)

 甲7号証  教職員の勤務における服務の厳正な取扱について(通知) (写)

 甲8号証  平成14年度高槻市立小・中・養護学校休憩時間一覧票 (写)





添付書類

 甲各号証写し  各10通