2003年7月27日掲載
==「愛国心」通知票を考える。==
03年6月現在、小学校6年の通知票の社会科の評価項目に「国や日本を愛する心情」を盛り込んでいる公立小学校が、別表のとおり、全国で少なくとも11府県28市172校にのぼることがわかっています。 (表1「愛国心」通知票使用数・クリックすると資料を表示します)
これは、日本の歴史への「関心・意欲・態度」をみる小6社会科の評価項目に「国」「日本」を愛する心情を「持つ」「持とうとする」といった欄が挿入されていて、3段階(「十分満足できる」「おおむね満足できる」「努力を要する」など)で評定されるものです。(表2「福岡の通信表」クリックすると資料を表示します)
さらに、福岡市教委が作成した「福岡市 評価事例集」(評価基準のマトリックス)を見ると、「我が国の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情」の評価については3「竹崎季長と元の来襲」と、8「戦争から平和な世の中へ」の単元で、評価するよう記されてします。(表3「評価規準」クリックすると資料を表示します)
私が「元の来襲」を習った6年生の時を思い出しました。「元が退却したのは、たまたま来た台風のせいで、それ以降、日本人は、台風を神風と信じ、太平洋戦争で負け続けても、いつか神風が吹くと期待していたんだ。」と、当時の私の担任は教えました。
そもそも社会科で大事な事は、世の事象にはさまざまな面やとらえ方があり、どのように自分なりにとらえるか、その子どもの考える基礎地を作っていく事でしょう。台風が来ようと、竹崎季長が奮戦しようと、事象を子どもなりにとらえ、考える事が重要で、「国を愛する」という評価をはさむこと自体、とんでもない偏向教育といわざるを得ません。
また、もし、この評価事例を持つ市内学校に在日モンゴル人の子ども達が在籍していたらどんな気持ちになるでしょう。(97年に外国人登録をしている在日モンゴル人は553人にのぼります。年齢構成は青年・未成年層が多いという事です。)
福岡県弁護士会は、02年2月27日に「愛国心」通信表を採用している小学校に対して削除を指導するよう警告しました。(「警告書」クリックすると資料を表示します)
「教育現場で特定の思想・良心を児童に強制し、憲法違反のおそれがある。」と判断。「在日外国人の子ども達に「日本人としての自覚」を強制することは屈辱感や疎外感を与える。」と指摘しました。
人権救済を申し立てた2団体、「愛国心評価項目の削除を求める市民の会」は、この通信表を採用した校長と一人一人面会し、話し合いを持ちました。
「ウリサフェ」の鄭?満会長は「在日が特別な存在ではなく、互いを認め合う社会を子ども達のために作りたいと願ってきた。」「国を愛する心そのものを、私たちが否定しているわけではない。「愛する」ということを学校という権力が押しつけることこそが問題だ。」と訴えています。
もし、あなたの通知票、あなたのお子さんの通知票に「国を愛する心情を持つ」項目があり、あなたやお子さんの愛国心に点数がつくとしたら・・どう思われますか?
註:多数の都道府県は「通信票」といいますが、福岡は「通信表」と表記しているようです。
<追加情報>
(1)7月10日に、福岡市の小学六年生の通信表に昨年度「国を愛する心情を持つ」などの評価項目が盛り込まれた問題で、本年度は同様の文言を盛り込んだ通信表案を採用する学校がゼロになることが分かりました。
(2)市内144小学校のうち、「国を愛する心情を持つとともに、平和を願う日本人として世界の国の人々とともに生きていくことが大切であることの自覚」を盛り込んだ案を10日までに採用した学校はなく、残る数校も不採用の可能性が高いということです。
(3)この問題では、福岡県弁護士会が「特に外国籍児童の思想の自由を侵害する」と警告を発しており、それらの批判に配慮したとみられています。