(c)謝花直美
米国ミシシッピ州の架空の町を舞台に、貧しさや暴力にもがきながらも強い絆の中に生きる黒人家族を描く作家ジェスミン・ウォード(1977年生まれ)。読者を惹きつけるウォードの小説を日本に紹介したのは翻訳者石川由美子さんだ。
ウォードが2017年全米図書賞を受賞した『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』に出合い、20年に翻訳出版した。以降第1作の『線が血を流すところ』『骨を引き上げろ』から最新作の『降りていこう』まで立て続けに翻訳した。 「いつか自分の名前で気に入った作品を翻訳したいとずっと思っていた」。沖縄での中学時代、将来は好きな語学を活かせる職業に就きたいと思った。知っていたのは教師と通訳、翻訳。そんな中から一番向いている翻訳者が夢になった。1986年東京で通信会社に就職し、翻訳学校で学びながら、恋愛小説や実務分野の翻訳を始めた。翻訳の仕事が続けられる見込みがたち、会社は3年半で退職した。
30歳ぐらいからマイノリティー、先住民、移民などがテーマのこれぞと思う本を試訳し出版社に送った。「返信がなくても当たり前。けんもほろろでもなかった」。だが日本での受け止めやタイミング、出版社の事情などがからみ、出版までこぎつけることは難しかった。
結婚し、子育てと翻訳の仕事の合間に持ち込みができたのは「10年に1回ほど」。50歳を過ぎたころ、「本気をだすのは最後だなと思った」。そんなとき出合ったのが『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』だった。
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