脱ゴー宣裁判を楽しむ会/参加の呼びかけ 

脱ゴー宣裁判を楽しむ会代表 俵 義文

1998年4月2日


 小林よしのり氏が、上杉聰氏の『脱ゴーマニズム宣言』に対して、著作権を侵害しているなどとして、上杉氏と版元の東方出版及び今東成人社長を相手に、26,200,000円の損害賠償と出版差し止めを東京地裁に請求した裁判がはじまりました。

 この裁判そのものは、マンガの引用が著作権法に違反するかどうかが直接の争点です。私たちは、上杉氏の図書は引用に必然性があり違法性はない、と判断しています。小林氏のマンガを引用した図書は他にもあるのに、小林氏が『脱ゴーマニズム宣言』だけを裁判に訴えたのは、本当の争点が他にあるからだと考えています。

 小林氏は、96年夏頃から、『SAPIO』の『新ゴーマニズム宣言』をはじめ、雑誌やテレビなどのメディアで、「従軍慰安婦」問題などについて、日本の侵略戦争を肯定・美化し、加害を否定し、歴史を改ざんする発言を行ってきました。それは、同時に元「慰安婦」とされた女性たちを傷つけるセカンドレイプともいうべき許しがたい言論です。小林氏の主張は、彼の独自の研究というよりも、藤岡信勝・中村粲・上杉千年・田中正明氏など、教科書を攻撃し、歴史を偽造する札付きのタカ派知識人の主張をマンガで表現したものにすぎません。藤岡氏らの主張が、いかに事実を歪める不当な誹謗であるかということは、すでに多くの研究者らによって論破されています。ところが、彼らはどんなに反論・批判されても、その反論・批判に再反論はしないで、従来の主張を執拗に繰り返してきました。直接対面した議論で過ちを認めた場合でもこの態度は変わりません。小林氏の場合も同様です。

 マンガの持つ大きな影響力は無視できません。小林ファンの若者たちが、小林氏の誤った情報を刷り込まれ、洗脳されていくのを放置するわけにはいきません。上杉氏は、小林氏と同じ土俵で反論・批判する必要性を痛感して、『脱ゴーマニズム宣言』を出版したわけです。この本は、小林氏の主張のでたらめさを的確に批判し、小林氏の読者にもそのことがよく分かる内容になっています。だからこそ、小林氏はこの本だけを問題にして裁判に訴えるという暴挙に出たのだと思います。

 したがって、裁判では直接的には著作権侵害が争われるとしても、本当の争点は、「慰安婦」問題をはじめとした歴史認識・戦争認識をめぐる問題です。私は、藤岡氏らの教科書攻撃に対して、当初から反撃する活動に取り組んできましたが,彼らへの批判の方法として、上杉氏と同様の思いをもっていましたので、上杉氏から出版の相談を受けた時、著作権問題さえクリアできれば是非出版することが重要だと賛成しました。そうした経緯もあって、「脱ゴー宣裁判を楽しむ会」の代表を引き受けることになりました。

 小林氏のファンは勿論ですが、上杉氏を支援する人たちも、多くは学校で日本の近現代史、とりわけ日本の侵略戦争と加害の事実について学んでいない人たちだと思います。永い間、教科書検定によって歴史の事実が消されつづけ、侵略・加害が教科書に書かれるようになったのは、やっと10年前からにすぎないからです。私たちは、裁判で勝つことは当然ですが、それ以上に、この裁判を楽しみ、先に指摘したような「本当の争点」について、大いに議論し、何が事実で何が真実なのか、自分たち一人ひとりの認識を深めていきたいと思っています。「楽しみ方」は多様です。これまでの「裁判支援運動」とは一味違う運動を皆で考え、やっていきましよう。ぜひ多くの人たちが「脱ゴー宣裁判を楽しむ会」に加わられることを心から呼びかけます。