上杉氏の勝訴は間違いない

高橋 謙治/弁護士

これまでの経過

 本件訴訟の争点は、大きく分けて侵害論(上杉氏の著作が小林氏の著作権等を侵害したか。)と損害論(上杉氏の著作が小林氏の著作権等を侵害したとして小林氏にいかな る損害が生じたか。)の2点です。

 すなわち、小林氏が勝訴するためには、著作権等の侵害の事実だけでなく、それによっていかなる損害が生じたかを主張し、かつ、立証する必要があります。

 通常の訴訟の流れでは、まず侵害論、損害論の主張を行い、次に証人などの証拠調べを行い、その後で結審します。ところが、本件は侵害論の主張の段階で終結したわけです。

 侵害論についての小林氏側の主たる論拠は、漫画の絵部分について論評しなければ漫画丸ごとの引用はできないというものでした。

 これに対して、当方は、漫画において絵部分と文字部分は相互に影響を与えあっていること、したがって絵部分についていちいち論評することなしにコマ全体を批評のため引用することができることを総論及び個別のコマごとに詳細に説明して論破しました。

 これらの結果、裁判所は、数回前から、個別のコマごとのさらなる主張は必要か、損害論まで必要かなどとほのめかすようになりました。

 さらに裁判所は、前回口頭弁論期日において侵害論について双方の主張が終了したことを確認した後、小林氏側から提出されていた上杉氏の本件著作の出版部数に関する調査の申請について顧みることなく、弁論を終結し結審しました。

 これらの事実から裁判所の心証を推測すると、個別のコマごとの追加主張を必要としないほど事案が明らかであり、また、損害論の主張立証は不要であるということです。

 つまり、損害論についての主張、立証を必要としないということは、

  1. 侵害(損害 )がないか、
  2. 侵害があり具体的な損害の額についても証拠上明らかでありこれ以上の主張、立証を必要としないかのどちらかです。
 しかし、具体的な損害の額を算出するためには、本件の上杉氏の著作の出版部数や小林氏の漫画の使用許諾料などが証拠上明らかになることが必要ですが、これらについては未だ何らの証拠も提出されていない段階です。また、2の場合には双方に主張立証を尽くさせるのが常識です。

 したがって、裁判所が2の結論を採ることは常識的に考えてありえません。

 すなわち、本件においては、裁判所は侵害(損害)はないと判断したということに他なりません。

 したがって、上杉氏の勝訴はほぼ間違いないと考えます。