訴 状
〒五五六ー〇〇二四 大阪市□□区□□二丁目六番四ー□□□号 原 告 上 杉 聰 (送達場所) 〒一〇四ー〇〇六一 東京都中央区銀座一丁目八番二一号 第二一中央ビル六階 土屋・高谷法律事務所 電 話 〇三(三五六七)六一〇一(代) FAX 〇三(三五六七)六一一〇 右原告訴訟代理人弁護士 土 屋 公 献 同 高 谷 進 同 小 林 哲 也 同 小 林 理 英 子 同 加 戸 茂 樹 同 五 三 智 仁 同(担当) 高 橋 謙 治 〒一五二ー〇〇三二 東京都□□区□町一丁目二一番八号 □□□□□□□□□□□□□□□ 被 告 小 林 善 範 〒一〇一ー〇〇〇三 東京都千代田区一ツ橋二丁目三番一号 被 告 株式会社 小 学 館 右代表者代表取締役 相 賀 昌 宏 〒一〇一ー〇〇〇三 東京都千代田区一ツ橋二丁目三番一号 株式会社 小学館 内 被 告 岡 成 憲 道 謝罪文掲載等請求事件 訴訟物の価額 金一七七六万円 貼用印紙額 金八九、六〇〇円 請 求 の 趣 旨 一 被告らは、原告に対し、連帯して、金七二二万円及び内金五〇〇万円に対する平成 一〇年一月一日から支払済みまで、内金二二二万円に対する本訴状到達日の翌日から 支払済みまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え 二 被告らは、別紙記載の謝罪文を、別紙第一謝罪文掲載条件目録記載の新聞、雑誌に 、右第一謝罪文掲載条件目録記載の条件で掲載せよ 三 被告らは、別紙記載の謝罪文を、別紙第二謝罪文掲載条件目録記載のとおり掲載す ることなくして、別紙被告書籍目録記載の書籍を出版、発行、販売、頒布してはなら ない。 四 訴訟費用は被告らの負担とする との判決及び仮執行の宣言を求める。 請 求 の 原 因 一 当事者 1 原告は、大学講師であり、従軍慰安婦問題などの研究者である。 2 被告小林善範は、小林よしのりとして、「新ゴーマニズム宣言」等の漫画を執筆 している漫画家である。 3 被告株式会社小学館は、雑誌SAPIOや単行本「新ゴーマニズム宣言」の発行 を行う出版社である。 4 被告岡成憲道は、雑誌SAPIOや単行本「新ゴーマニズム宣言」の発行者であ る。 二 名誉毀損の事実 1(一) 被告小林は、雑誌SAPIOや単行本「新ゴーマニズム宣言」等において、 従軍慰安婦問題等についての見解を漫画によって主張していた。 (二) 従軍慰安婦問題の研究家である原告は、平成九年一一月「脱ゴーマニズム宣 言」(甲一。以下「原告著作」という。)という単行本を出版し、被告小林の見 解を批判した。 2 原告は、原告著作において、被告小林の漫画を批評する目的のため、被告小林の 漫画のカット(コマ)も合わせて引用した。 3 これに対し、被告小林は、右引用は違法であるとして、雑誌SAPIO平成九年 一一月二六日号(甲二)に漫画「新ゴーマニズム宣言第五五章」(以下「本件漫画 」という。)を描き、平成一〇年一〇月には単行本「新ゴーマニズム宣言第五巻」 (甲三)に本件漫画を再度掲載した。 4 右漫画において、被告小林は、「わしの絵を無断で盗んで乱用している」(本件 漫画一頁目)、「人の絵をこれもあれも全部引用だと使いまくって、ちゃっかり自 分の本の挿絵にしてしまうのはドロボーだ!ドロボーは許さん!」(同二頁目欄外 )、「あんなぺらっぺらの本で一二〇〇円!?汚い商売しとるよなー。わしの絵が なかったら商品として成り立たなかったはずだ!おまえの文は一〇円だ!わしの絵 が一一九〇円だ!!」(同三頁欄外)、「著作権侵害のドロボー本」(同三頁上段 )などと描いている。 さらに、風呂敷を背負い顔を隠して泥棒の格好をした原告の絵(同八頁下段)をは じめとした、後記四で述べるとおりの原告の絵を多数描いている。 5 これらの行為が原告の名誉を毀損することは明らかである。 三 原告著作の引用の適法性及び本件漫画の違法性について 1 被告小林は、原告著作における漫画の引用が著作権法等に違反するとして原告ら を提訴したが、第一審判決(御庁平成九年(ワ)第二七八六九号)、第二審判決( 東京高等裁判所平成一一年(ネ)第四七八三号)ともに、原告の引用は適法である と判示した。 これに対して、被告小林は上告しなかった(なお後日付帯上告はした。)。 2 したがって、原告著作における被告小林の漫画の引用が適法であり、原告が泥棒 でないことは明らかである。 3 にもかかわらず、被告小林は、本件漫画において原告を泥棒呼ばわりし、原告が あたかも被告小林の絵を盗んだかのごとく描いているが、これは原告の名誉を著し く毀損するものである。 四 人格権侵害について 1(一) 人格的利益の一つとして、人は自己の肖像を無断で制作、公表されない利益 を有するのであり、かかる利益は、肖像権ないしプライバシー権として憲法上保 護されるものである。 (二) 東京地方裁判所平成三年九月二七日判決が無断で制作された胸像の公開を禁 止し、同裁判所平成五年五月二五日判決が個人の容姿に関する情報の公表はプラ イバシー権を侵害すると判示しているように、自己の肖像や容姿に関する情報を 無断で公表されない利益の侵害は違法行為となる。 (三) 似顔絵も、肖像や容姿に関する情報に該当することは明らかであり、原告は 、無断で似顔絵を公表されない権利を有するものである。 2(一) また、被告小林は、原告の承諾なく、原告の似顔絵をことさら醜く描いてい る(本件漫画二頁目など)。 (二) 被告小林は、自己に批判的な人物をことさら醜く描くことで自己の主張を読 者に強く印象づけようとする手法を多用する。 (三) かかる行為は、原告の名誉権を侵害すると共に肖像権ないし人格権をも侵害 する。 3(一) しかも、被告小林は、本件漫画において、原告の肖像に被告小林の思うがま まの動作を行わせて描いている。 (二) たとえば、本件漫画二頁目下段では、原告の肖像は、悪戦苦闘しながら似顔 絵を描いているように描かれている。 (三) 本件漫画五頁目下段において、原告の肖像は、頼りなさそうに両手両足を揃 えている吉田清治氏を片手で高々と掲げ、あたかも原告が吉田氏を陰で操ってき た黒幕であるかのごとく描かれている。 (四) 本件漫画六頁目下段では、吉田氏を投げ捨てている原告の肖像が描かれてい る。 (五) 本件漫画七頁目では、原告の肖像は、泣きながら弁解しているかのように描 かれたり、鼻歌を歌いながら何も考えずに原告著作を著したかのように描かれて いる。 (六) 本件漫画八頁目中段では、原告の肖像は、物陰からキャッチセールスか店の 呼び込みのような仕草をしているように描かれ、さらに下段では前述のように風 呂敷を背負い、顔を隠した泥棒の格好をして吉田氏を蹴り飛ばし、代わりに吉見 義明氏を支持するようになったかのように描かれている。 (七) これらはいずれも原告が実際には行っていない動作を、被告小林が原告に無 断で作り上げて描いているものであって、原告の名誉権を侵害すると共に肖像権 、人格権をも侵害する。 4(一) 表現の自由といえども、他人の権利を尊重した上で表現されなければならな いことは自明であり、本件漫画において、原告の似顔絵や原告の容姿に関する情 報を表現することは全く不要であった。 (二) 事実、本件漫画に対して、原告が肖像権侵害であると抗議したところ、以後 、被告小林は原告の肖像なしで原告に関する漫画を描いているが(甲六ないし八 )、このことからも、本件漫画において原告の肖像を描く必要がなかったことは 明らかである。 五 まとめ 1 被告小林は、前記のとおり、違法に原告の名誉権及び人格的利益を侵害し、被告 岡成及び被告小学館は、それぞれ雑誌SAPIOや単行本「新ゴーマニズム宣言」 の発行者及び発行所として、本件漫画の出版、公表が原告の名誉毀損、人格権侵害 となるにも かかわらず、故意又は過失により、被告小林と共同して前記不法行為を行ったもの であるから、被告らは、連帯して原告の名誉を回復し(民法七二三条)、かつ、損 害を賠償する義務(民法七〇九条)を負う。 2 原告の名誉を回復する方法としては、別紙第一謝罪文掲載条件目録記載の新聞等 に、別紙記載の謝罪文を別紙第一謝罪文掲載条件目録記載の条件で掲載することが 適当である。 3 また、単行本「新ゴーマニズム宣言第五巻」は、継続的に販売され続けるもので あるから、原告の名誉を回復する方法としては、別紙記載の謝罪文を、別紙第二謝 罪文掲載条件目録記載のとおり掲載することなくして、別紙被告書籍目録記載の書 籍を出版、発行、販売、頒布してはならないとするのが適当である。 原告としては、端的に、出版の差し止めを求めることも可能であるが、原告は、表 現の自由を尊重する言論人として、最大限の譲歩をして、謝罪文の掲載を条件とし て出版を認めるものである。 4 似顔絵を全国に公開された上、泥棒のように描かれた原告の精神的損害は甚大で あり、その慰謝のために必要な慰謝料は五〇〇万円を下らない。 5 謝罪広告請求の経済的利益を八〇〇万円(第二東京弁護士会報酬会規第一六条) とし、慰謝料請求の経済的利益を五〇〇万円とすると、弁護士報酬標準額は二二二 万円となり、右弁護士報酬相当額も原告の損害となる。 6 よって、原告は、被告らに対して、連帯して、不法行為に基づく損害賠償として 金七二二万円及び内金五〇〇万円に対する平成一〇年一月一日から支払済みまで、 内金二二二万円に対する本訴状到達日の翌日から支払済みまで、年五分の割合によ る各遅延損害金の支払及び別紙記載の謝罪文を別紙第一謝罪文掲載条件目録記載の とおり掲載することを求め、かつ、別紙記載の謝罪文を別紙第二謝罪文掲載条件目 録記載のとおり掲載することなくしての別紙被告書籍目録記載の書籍を出版、発行 、販売、頒布することの差止めを求めるものである。 証 拠 方 法 甲一 「脱ゴーマニズム宣言」 甲二 雑誌SAPIO平成九年一一月二六日号 甲三 単行本「新ゴーマニズム宣言第五巻」 甲四 第一審判決(御庁平成九年(ワ)第二七八六九号) 甲五 第二審判決(東京高等裁判所平成一一年(ネ)第四七八三号) 甲六 雑誌SAPIO平成一一年一〇月一三日号 甲七 雑誌SAPIO平成一二年四月二六日号 甲八 雑誌SAPIO平成一二年六月一四日号 甲九 第二東京弁護士会報酬会規 付 属 書 類 一 甲号証写し 二 訴訟委任状 三 資格証明書 平成一二年九月八日 原告訴訟代理人弁護士 土 屋 公 献 同 高 谷 進 同 小 林 哲 也 同 小 林 理 英 子 同 加 戸 茂 樹 同 五 三 智 仁 同(担当) 高 橋 謙 治 東京地方裁判所民事部 御中 第一謝罪文掲載条件目録 第一 掲載場所 一 朝日新聞全国版 社会面広告欄 掲載回数一回 二 産経新聞全国版 社会面広告欄 掲載回数一回 三 雑誌「SAPIO」(株式会社小学館発行) 漫画「新ゴーマニズム宣言」の直前の頁 掲載回数一回 第二 大きさ等 大きさ 縦七センチメートル程度 横二〇センチメートル程度 見出し及び当事者名 二倍活字 双方の著作名 一・五倍活字 本文 一倍活字 第二謝罪文掲載条件目録 第一 掲載場所 新ゴーマニズム宣言第五巻 (株式会社小学館発行) 漫画「新ゴーマニズム宣言第五五章」の直前の頁 第二 大きさ等 大きさ 縦七センチメートル程度 横二〇センチメートル程度 見出し及び当事者名 二倍活字 双方の著作名 一・五倍活字 本文 一倍活字 被告書籍目録 表 題 新ゴーマニズム宣言第五巻 著 者 小林よしのり 発行者 岡成憲道 発行所 株式会社 小学館 発 行 一九九八年一〇月一〇日 初版第一刷発行 謝罪文 私、小林善範は、後記雑誌及び書籍に掲載、収録した「新ゴーマニズム宣言第五五章 『広義の強制すりかえ論者への鎮魂の章』」において、無断で貴殿の肖像を描いた上、 貴殿が私の漫画を違法に転載したかのごとく、かつ、貴殿を泥棒であるかのごとく描き 、小社株式会社小学館及び私、岡成憲道はこれらを掲載、収録した後記雑誌及び書籍を 発行致しました。 しかし、貴殿の転載は引用として適法なものであり、貴殿を泥棒のように描いた右漫 画は事実無根のものです。 よって、ここに右漫画によって貴殿の人格権を侵害し、貴殿の名誉を毀損したことを 深く謝罪いたします。 (掲載雑誌及び収録書籍の表示) 1 雑誌「SAPIO」 一九九七年一一月二六日号 編集人 坂本 隆 発行人 岡成憲道 発行所 株式会社小学館 2 書籍「新ゴーマニズム宣言第五巻」 著 者 小林よしのり 発行者 岡成憲道 発行所 株式会社小学館 平成 年 月 日 東京都□□区□町一丁目二一番八号 □□□□□□□□□□□□□□ 「新ゴーマニズム宣言」著者 小林よしのり こと 小林善範 東京都千代田区一ツ橋二丁目三番一号 株式会社 小学館 右代表者代表取締役 相賀昌宏 東京都千代田区一ツ橋二丁目三番一号 株式会社 小学館 内 岡 成 憲 道 「脱ゴーマニズム宣言」(東方出版株式会社発行)著者 上 杉 聰 殿