判決要旨

脱ゴーセン裁判の判決要旨を以下に掲載します。

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判決言渡日時 平成11年8月31日 午後1時30分

東京地方裁判所 民事第47部

裁判体
森 義之(裁判長)
榎戸道也
杜下弘記
事件名 著作権侵害差止等請求事件

原告 小林善範
被告 上杉 聰
   今東成人
   東方出版株式会社

主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事案の概要

 原告は漫画家であり、「ゴーマニズム宣言」など(以下「原告書籍」という。)
を著作した。
 被告上杉聰 は、「脱ゴーマニズム宣言」(以下被告書籍という。)を著作した。
 本件は、原告が、
(1)被告書籍には、原告書籍の漫画のカットが採録されているが、原告書籍の漫画のカットを無断で採録したことは、著作権者の複製権を侵害するものである、
(2)採録した漫画のカットの一部に、漫画に描かれている人物の目に黒線を入れるなどの変更が加えられているが、この変更は、著作者の同一性保持権を侵害するものである、
(3)被告書籍の題名は「脱ゴーマニズム宣言」であって、副題にも原告のペンネームである「小林よしのり」という文字が入っているが、題名や副題に、周知かつ著名な原告の漫画の題名や原告のペンネームを利用したことは不正競争行為であって、不正競争防止法に違反する、などと主張して、被告書籍の著者、発行者、発行所を相手として、出版や販売などの差止めと損害賠償を請求しているものである。

判決理由の要旨

(1)について
 著作権法32条1項は一定の場合に公表された著作物の引用を認めているが、同項にいう引用とは、報道、批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録するものであって、引用している著作物と引用されている著作物を明瞭に区別して認識することができ、かつ、引用している著作物が「主」、引用されている著作物が「従」の関係にあるものをいうと解するのが相当である。
 被告書籍における原告書籍の漫画のカットの採録は、原告書籍の漫画に対する批判を目的にしていると認められる。
 被告書籍の中で、被告の論説と原告書籍の漫画カットは、明瞭に区別して認識することができる。
 引用されたカットは原告書籍の漫画のごく一部に過ぎず、それ自体が独立の漫画として読み物になるものではなく、引用されたカットのいずれもが、被告の論説の対象を明示し、その例証、資料を提示するなどして、被告の論説の理解を助けるものとなっていることからすると、被告書籍の中で、被告の論説が「主」、原告の漫画のカットが「従」という主従関係が成立している。
 したがって、被告書籍において原告書籍の漫画のカットを採録したことは、著作権法32条1項の適法な引用にあたり、複製権侵害という原告の主張は認められない。

(2)について
 著作権法20条1項は、著作者人格権の一つとして同一性保持権を定めているが、著作権法20条2項4号は、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」については、同条1項が適用されないとしている。
 被告書籍に採録された原告書籍の漫画のカットのうち、5箇所について変更があり、そのうちの3箇所の変更内容は、漫画に描かれた人物の目に黒い線を入れたというものである。
 これらのカットは、原告書籍の漫画中では、本人が見れば不快感を覚える程度に人物が醜く描写されていたのであり、このような場合に変更を許さなければ、引用する際に第三者の人格的利益を侵害するという危険を強いることになる。そして、描写された人物の目に黒い線を入れて目隠しをするという方法は、権利保護のために一般に広く行われている方法であることや目隠しが被告上杉によってなされたものであることは被告の論説の中に明示されていることからすると、「やむを得ないと認められる改変」に当たるということができる。

 そのほか2箇所の変更のうち、1箇所は、同条1項にいう著作物の「改変」とはいえず、もう1箇所は、「やむを得ないと認められる改変」に当たる。
 したがって、5箇所の変更のいずれも適法であり、同一性保持権侵害という原告の主張は認められない。

(3)について
 自己の商品表示に、他人の商品表示が含まれるとしても、それが専ら賞品の内容、特徴などを表現するために用いられている場合は、不当競争行為としての使用ということはできない。
 被告書籍の表題である「脱ゴーマニズム宣言」のうち「ゴーマニズム宣言」の部分は、原告書籍の漫画の批判という被告書籍の内容を説明するために用いられたものと認められる。また、被告書籍の副題には、その一部に「小林よしのり」という表示が含まれているが、これも被告書籍の内容を説明するために用いられたものと認められる。
 したがって、不正競争防止法違反という原告の主張は認められない。

以上